制度とお金 / 共済
公務災害の補償と、退職後の扱い
在職中に公務上の災害や通勤による災害で治療を受けている方、または過去に公務災害の認定を受けた方にとって、退職すると補償はどうなるのかは、退職の時期を決める前に確かめておくべき点です。
結論から書くと、公務災害の補償は、退職で消えません。補償の要件は「職員が公務上(または通勤により)災害を受けたこと」で、退職は要件を消す事由ではありません。ただし、請求には時効があり、退職後は請求の窓口が分かりにくくなります。
この記事では、公務災害の補償の仕組みと、退職後の扱いを、地方公務員災害補償法の条文で整理します。認定と補償の実務は地方公務員災害補償基金の支部が行い、個別の事案は支部の判断によるので、この記事は枠組みです。自分の事案は、任命権者(自治体の担当課)と基金の支部で確かめてください。
仕組み——基金が自治体に代わって補償する
第1条は、この法律の目的を、地方公務員等の公務上の災害(負傷、疾病、障害又は死亡)又は通勤による災害に対する補償の迅速かつ公正な実施を確保するため、地方公共団体等に代わって補償を行う基金の制度を設けることと定めています。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 補償する主体 | 地方公務員災害補償基金(自治体に代わって補償) |
| 対象 | 常時勤務に服することを要する地方公務員など(第2条) |
| 対象となる災害 | 公務上の災害と通勤による災害 |
| 認定 | 基金が、災害が公務又は通勤により生じたものかを認定し、請求者と任命権者に通知(第45条) |
民間の労災保険に相当する仕組みで、自治体ではなく基金が補償の主体です。退職後の請求先も、この構造から分かります。
補償の種類——第25条
| 種類 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 療養補償 | 必要な療養を行い、又は療養の費用を支給 | 第26条 |
| 休業補償 | 療養のため勤務できず給与を受けないとき、平均給与額の100分の60 | 第28条 |
| 傷病補償年金 | 療養開始後一定期間を経過しても治らず、一定の程度の傷病等級に該当するとき | 第25条第1項第3号 |
| 障害補償 | 治った後に障害が残ったとき(年金または一時金) | 第25条第1項第4号 |
| 介護補償 | 一定の障害で介護を受けるとき | 第25条第1項第5号 |
| 遺族補償 | 死亡したとき、遺族に(年金または一時金) | 第25条第1項第6号 |
| 葬祭補償 | 死亡したとき、葬祭を行う者に | 第25条第1項第7号 |
第25条第2項により、傷病補償年金を除く補償は、補償を受けるべき職員(または遺族、葬祭を行う者)の請求に基づいて行われます。請求しなければ始まりません。ここが、退職後に効きます。
退職後の扱い——要件は「災害を受けたこと」
第26条は「職員が公務上負傷し、若しくは疾病にかかり、又は通勤により負傷し、若しくは疾病にかかった場合」に療養補償を行うと定めています。要件は、職員である間に災害を受けたことです。療養が退職後に続いても、災害を受けたのが在職中なら、補償の要件は満たしたままです。
| 補償 | 退職後 |
|---|---|
| 療養補償 | 続く。在職中の災害による療養は、退職後も療養補償の対象 |
| 休業補償 | 「療養のため勤務することができない場合において、給与を受けないとき」が要件(第28条)。退職後は給与がないので、療養のため働けない期間について請求の対象になり得る。個別の事案は基金の支部に確かめる |
| 年金たる補償 | 支給を受ける権利が消滅した月まで続く(第40条第1項)。退職は消滅の事由ではない |
| 障害補償・遺族補償 | 治った後、または死亡のときに要件が生じる。在職中の災害によるものなら退職後も対象 |
退職によって補償を受ける権利が変わることはありません。ただし、退職後は任命権者を通じた請求の流れが在職中と違うので、退職前に基金の支部と担当課で、退職後の請求の方法を確かめてください。
時効——2年と5年
第63条は、補償を受ける権利は、行使することができる時から2年間(障害補償及び遺族補償については5年間)行使しないときは、時効によって消滅すると定めています。
| 補償 | 時効 |
|---|---|
| 療養補償、休業補償、介護補償、葬祭補償 | 2年 |
| 障害補償、遺族補償 | 5年 |
療養補償は、療養の費用を支払った日ごとに請求の権利が生じ、それぞれ2年で時効です。退職後に自費で治療を受けて、後からまとめて請求しようとすると、古い分から時効にかかります。退職後も、療養補償の請求は続けてください。
共済の傷病手当金との切り分け
地方公務員等共済組合法第68条の傷病手当金は、組合員が公務によらないで病気にかかり、又は負傷し、療養のため勤務に服することができない場合の給付です。公務災害と共済の傷病手当金は、原因が公務かどうかで切り分けられ、重なりません。
| 原因 | 療養中の所得の補てん | 根拠 |
|---|---|---|
| 公務上・通勤による | 公務災害の休業補償(平均給与額の100分の60) | 地方公務員災害補償法第28条 |
| 公務によらない | 共済の傷病手当金 | 地方公務員等共済組合法第68条 |
公務災害の認定を受けていない負傷や病気で療養している方が、退職後も所得の補てんを受けたい場合は、傷病手当金の側です。傷病手当金は任意継続組合員には支給されませんが、退職前から受けていた場合の継続の仕組みがあります(短期給付とは何か)。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、公務災害で効いてくる点は3つです。
1. 療養中の公務災害があるなら、退職後も療養補償は続く
請求の方法を退職前に確かめてください。転職先の健康保険で治療を受けると、公務災害の療養補償との関係が整理されなくなります。
2. 転職先での再発や悪化は、公務災害の扱いが難しくなる
在職中の災害による療養の継続なら対象ですが、転職先の業務による新たな災害は、転職先の労災保険です。どちらの制度かは、原因の切り分けによるので、基金の支部に相談してください。
3. 年金たる補償は、転職しても続く
傷病補償年金、障害補償年金、遺族補償年金は、権利が消滅するまで支給されます(第40条)。転職先の給与があっても、支給の要件が変わるわけではありません。基金の定める届出は続けてください。
手続きと期限
| 順序 | 手続き | 期限 | 場所 |
|---|---|---|---|
| 退職前 | 公務災害の認定の有無を確かめる | 退職日が決まったら | 任命権者の担当課 |
| 退職前 | 認定を受けていない在職中の負傷・病気で、公務上と考える理由があれば請求 | 在職中 | 任命権者経由で基金の支部 |
| 退職前 | 退職後の療養補償の請求の方法と、提出先を確かめる | 退職前 | 基金の支部 |
| 退職後 | 療養補償の請求を続ける(費用を支払った日から2年以内) | 第63条 | 基金の支部 |
| 治ったとき | 障害が残れば障害補償の請求(5年以内) | 第63条 | 基金の支部 |
| 年金たる補償 | 基金の定める届出を続ける | 基金の定め | 基金の支部 |
誤解されやすい点
「退職すると公務災害の補償は終わる」と思い込む
要件は在職中に災害を受けたことで、退職は消滅の事由ではありません(第26条、第40条)。
「退職後は自分の健康保険で治療する」と思い込む
在職中の公務災害による療養は、退職後も療養補償の対象です。
「後からまとめて請求できる」と思い込む
時効は2年(障害補償・遺族補償は5年)です(第63条)。
「公務災害と傷病手当金の両方を受けられる」と思い込む
原因が公務かどうかで切り分けられ、重なりません(地方公務員等共済組合法第68条)。
まとめ
- 公務災害の補償は、地方公務員災害補償基金が自治体に代わって行い、公務上の災害と通勤による災害が対象です(地方公務員災害補償法第1条、第2条)
- 補償の種類は療養補償、休業補償、傷病補償年金、障害補償、介護補償、遺族補償、葬祭補償で、傷病補償年金を除き請求に基づいて行われます(第25条)
- 要件は在職中に災害を受けたことで、退職は補償を消す事由ではありません。療養補償は退職後も続き、年金たる補償は権利が消滅した月まで続きます(第26条、第40条)
- 時効は2年、障害補償と遺族補償は5年です(第63条)。退職後も療養補償の請求を続けてください
- 公務災害の休業補償と共済の傷病手当金は、原因が公務かどうかで切り分けられ、重なりません(地方公務員等共済組合法第68条)
- 退職前に、認定の有無と、退職後の請求の方法を任命権者の担当課と基金の支部で確かめてください
よくある質問
公務災害で療養中です。退職後の治療費はどうなりますか
在職中の公務災害による療養は、退職後も療養補償の対象です。第26条の要件は、職員が公務上(または通勤により)負傷し、又は疾病にかかったことで、退職は要件を消しません。療養補償は必要な療養を行い、又はその費用を支給するもので、退職後も同じです。変わるのは請求の流れで、在職中は任命権者を通じて基金の支部に請求していたものを、退職後は本人が直接、または退職した職の任命権者を通じて請求する形になります。退職前に基金の支部で、退職後の請求の方法と提出先を確かめてください。転職先の健康保険で治療を受けてしまうと、公務災害の療養との関係が整理されなくなるので、療養補償の対象である治療は、退職後も療養補償で受けるのが原則です。時効は費用を支払った日から2年です(第63条)。
在職中に腰を痛めましたが、公務災害の請求はしていません。退職後に請求できますか
制度上は請求できますが、実際には難しくなります。補償は請求に基づいて行われ(第25条第2項)、基金が災害が公務又は通勤により生じたものかを認定します(第45条)。退職後に請求しても、時効(療養補償は2年)の範囲内なら請求そのものはできますが、公務上の災害であることの証明は、在職中の記録や関係者の証言によるので、退職後は集めにくくなります。公務上の災害だと考える理由があるなら、在職中に任命権者を通じて請求してください。認定されれば、退職後も療養補償が続きます。認定されなければ、共済の短期給付(公務によらない傷病)の側で扱われ、退職後は転職先の健康保険か国民健康保険での治療になります。どちらにしても、在職中に請求して認定の結果を受けておくことが、退職後の扱いを明確にします。
障害補償年金を受けています。転職して給与を受けると止まりますか
転職先の給与を理由に止まることはありません。年金たる補償は、支給すべき事由が生じた月の翌月から始め、支給を受ける権利が消滅した月で終わります(第40条第1項)。権利が消滅するのは、障害の程度が変わって等級に該当しなくなった場合や死亡などで、転職先で給与を受けることは消滅の事由ではありません。ただし、障害の程度の変更があった場合の届出や、基金が定める定期的な届出は続ける必要があり、怠ると支給の停止や過払いの返還の問題が生じます。転職後も基金の支部との連絡先を維持し、住所や振込先の変更を届け出てください。なお、転職先で新たに業務上の災害を受けた場合は、転職先の労災保険の制度で扱われ、公務災害の年金との調整の有無は個別の事案によるので、基金の支部に相談してください。