制度とお金 / 共済
国民健康保険に切り替える場合
退職の翌日から転職先に入社しない場合、健康保険の選択肢は任意継続か国民健康保険です。任意継続を選ばなければ、法律上は自動的に国民健康保険の被保険者になります。
国民健康保険は、市区町村ごとに保険料の計算が違い、しかも前年の所得を基礎にするので、退職した年度の保険料が「思ったより高い」と感じる方が多い制度です。それに加えて、民間の退職者が受けられる非自発的失業者の軽減が、公務員には適用されません。
この記事では、共済組合を抜けて国民健康保険に入る場合の仕組みを、国民健康保険法と施行令の条文で整理します。保険料の額は市区町村と世帯によって大きく違うので、この記事は仕組みの説明です。自分の額は、住所地の市区町村の国民健康保険の担当課で見込みを聞いてください。選択肢の全体は退職後の健康保険、3つの選択肢に、任意継続は任意継続組合員制度に書いています。
出発点——「入る」のではなく「なっている」
国民健康保険法第5条は、都道府県の区域内に住所を有する者は国民健康保険の被保険者とすると定めています。第6条が、健康保険の被保険者、共済組合の組合員、それらの被扶養者などを適用除外にしています。
つまり、共済組合の組合員でなくなり、他の健康保険にも入っていなければ、退職の翌日に、届出の有無にかかわらず国民健康保険の被保険者になっています。届出は「入るための申込み」ではなく、すでに被保険者になっている事実を市区町村に知らせる手続きです。
届出——世帯主が14日以内
第9条第1項は、世帯主が、その世帯に属する被保険者の資格の取得と喪失を市区町村に届け出なければならないと定めています。施行規則第3条により、第6条各号のいずれにも該当しなくなった(共済組合の組合員でなくなった)ことで資格を取得した場合、世帯主は14日以内に届け出ます。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | 世帯主(本人が世帯主でない場合も、届出の義務は世帯主) |
| いつまでに | 資格を取得した日(退職の翌日)から14日以内 |
| どこに | 住所地の市区町村 |
| 何を | 資格取得の届書。共済の資格喪失を示す書類(資格喪失証明書など)を添える |
共済組合の資格喪失証明書は、退職時に自治体の共済の担当か共済組合から受け取ります。退職前に、いつ受け取れるかを確かめておくと、14日以内の届出が滞りません。
届出が遅れても、被保険者になっている事実は変わらず、保険料は退職の翌日の属する月に遡って発生します。届出の前に受診した場合は、いったん全額を負担し、後から療養費として請求する形になります。
保険料の決まり方——3つの割と、前年の所得
第76条第1項により、市区町村は被保険者の属する世帯の世帯主から保険料を徴収します(地方税法により国民健康保険税として課する市区町村もあります)。納付の義務者も世帯主です。
保険料の賦課の基準は施行令第29条の7に定められ、市区町村の条例で具体的な料率が決まります。構成は次の3つです。
| 割 | 何に応じるか | 転職者に効く点 |
|---|---|---|
| 所得割 | 世帯の被保険者の前年の所得 | 退職した年度は在職中の所得が基礎なので高め |
| 均等割 | 世帯の被保険者の人数 | 家族も1人ずつ被保険者なので、人数分かかる |
| 平等割 | 世帯ごとに定額 | 世帯の人数にかかわらず一定 |
どの割を使うか、料率はいくらか、上限(賦課限度額)はいくらかは、市区町村ごとに条例で定めます。同じ所得と世帯でも、住所地によって額が違います。医療分に加えて、後期高齢者支援金分と、40歳以上65歳未満の方の介護分が上乗せされます。
共済との最大の違いは、扶養の概念がないことです。共済では被扶養者の分の掛金はかかりませんでしたが、国民健康保険では配偶者も子も1人ずつ被保険者になり、均等割が人数分かかります。
退職の年度と、翌年度で額が変わる
| 年度 | 所得割の基礎 | 額の傾向 |
|---|---|---|
| 退職した年度(4月〜翌3月) | 前年(在職中)の所得 | 高め |
| 翌年度 | 退職の年の所得(退職までの給与+退職後の収入) | 下がることが多い |
保険料は年度単位で計算し、被保険者になった月から月割で課されます。3月31日に退職した場合、4月1日から被保険者になるので、新しい年度の最初から国民健康保険で、所得割の基礎は前年(在職中の最後の1年)の所得です。
このため、退職した年度は任意継続が有利で、翌年度は国民健康保険が有利という逆転が起きることがあります。任意継続は自分の意思でやめられるので(任意継続組合員制度)、年度の切替えで乗り換える方もいます。両方の見込みを、市区町村と共済組合で聞いて並べてください。
軽減と減免——公務員に効くものと効かないもの
| 仕組み | 根拠 | 内容 | 公務員の退職者 |
|---|---|---|---|
| 低所得世帯の軽減 | 施行令第29条の7 | 前年の所得が一定以下の世帯の均等割・平等割を減額。申請不要で市区町村が判定 | 退職の年度は前年所得が高いので対象になりにくい。翌年度は所得次第 |
| 非自発的失業者の軽減 | 施行令第29条の7の2 | 雇用保険の特定受給資格者・特定理由離職者の給与所得を100分の30として計算 | 対象外(下記) |
| 条例による減免 | 第77条 | 特別の理由がある者に対し、条例の定めで減免または徴収猶予。申請が要る | 市区町村の条例による |
非自発的失業者の軽減が公務員に適用されない理由は、はっきりしています。施行令第29条の7の2第2項は、対象を雇用保険法の特定受給資格者と特定理由離職者に限定しています。ところが、国・地方公共団体の事業に雇用される者で、退職手当などが雇用保険の給付の内容を超える者は、雇用保険法第6条第6号により雇用保険の適用除外です。地方公務員は雇用保険の被保険者ではないので、特定受給資格者にも特定理由離職者にもなりようがありません。定年退職でも、勧奨退職でも、この軽減は受けられません。
第77条の条例による減免は、市区町村ごとに「特別の理由」の範囲が違います。所得が大きく減った場合の減免を設けている市区町村もあるので、退職後の収入の見込みが在職中から大きく下がる方は、市区町村の担当課に減免の制度があるかを聞いてください。申請しなければ適用されません。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、国民健康保険で効いてくる点は3つです。
1. 転職先の健康保険に入ったら、喪失の届出は自分でする
転職先が健康保険の資格取得を届け出ても、市区町村への国民健康保険の資格喪失の届出は世帯主がします(第9条)。届け出ないと、保険料が二重に課されたままになります。転職先の健康保険の資格を示す書類を持って、市区町村で届け出てください。
2. 保険料は月割なので、入社の月で決まる
国民健康保険の保険料は、転職先の健康保険に入った月の前月分までです。入社日が月の初日か月末かで、1か月分の差が出ます。
3. 払った保険料は、社会保険料控除の対象
国民健康保険の保険料は、全額が社会保険料控除の対象です。転職先の年末調整で申告するか、確定申告で控除します(社会保険料控除と退職の年)。市区町村から届く納付の証明を保管してください。
手続きと期限
| 順序 | 手続き | 期限 | 場所 |
|---|---|---|---|
| 退職前 | 保険料の見込みを照会(源泉徴収票を持参) | 退職日が決まったら | 市区町村 |
| 退職時 | 共済の資格喪失証明書を受け取る | 退職日 | 自治体の共済の担当・共済組合 |
| 退職後 | 資格取得の届出(世帯主) | 退職の翌日から14日以内(施行規則第3条) | 市区町村 |
| 退職後 | 減免の制度があれば申請(第77条) | 市区町村の定め | 市区町村 |
| 納期ごと | 保険料の納付(世帯主) | 市区町村の定める納期 | ── |
| 転職先に入ったとき | 資格喪失の届出(世帯主) | 速やかに(多くの市区町村が14日以内と案内) | 市区町村 |
| 年末 | 納付の証明で社会保険料控除 | 年末調整または確定申告 | 転職先・税務署 |
誤解されやすい点
「届出をしなければ国民健康保険に入らずに済む」と思い込む
届出の有無にかかわらず、退職の翌日に被保険者になっています(第5条)。保険料は遡って発生します。
「保険料は本人の分だけ」と思い込む
扶養の概念がなく、家族も1人ずつ被保険者です。均等割が人数分かかり、納付の義務者は世帯主です(第76条)。
「失業したから軽減される」と思い込む
非自発的失業者の軽減は雇用保険の特定受給資格者などが対象で、雇用保険の適用除外である公務員は対象外です(施行令第29条の7の2、雇用保険法第6条第6号)。
「転職先に入れば国民健康保険は自動で終わる」と思い込む
資格喪失の届出は世帯主が市区町村にします(第9条)。届け出ないと保険料が二重に課されます。
まとめ
- 共済組合の組合員でなくなり、他の健康保険にも入っていなければ、退職の翌日に届出の有無にかかわらず国民健康保険の被保険者になります(国民健康保険法第5条・第6条)
- 世帯主が、退職の翌日から14日以内に市区町村に届け出ます(第9条、施行規則第3条)。共済の資格喪失証明書を添えます
- 保険料は所得割・均等割・平等割の組合せで、料率は市区町村の条例によります(第76条、施行令第29条の7)。前年の所得が基礎で、家族も1人ずつ被保険者です
- 退職した年度は在職中の所得が基礎で高め、翌年度は下がることが多いので、任意継続との逆転が起きます。両方の見込みを聞いて並べてください
- 非自発的失業者の軽減は、雇用保険の適用除外である公務員には適用されません(施行令第29条の7の2、雇用保険法第6条第6号)。条例による減免(第77条)は市区町村ごとに違い、申請が要ります
- 転職先の健康保険に入ったら、資格喪失の届出を世帯主が市区町村にします。届け出ないと二重に課されます
よくある質問
3月31日に退職して、5月1日に転職先に入社します。国民健康保険の保険料は何か月分ですか
4月の1か月分です。国民健康保険の保険料は年度単位で計算し、被保険者になった月から、他の健康保険に入った月の前月まで月割で課されます。4月1日に被保険者になり、5月1日に転職先の健康保険に入るので、4月分が対象です。所得割の基礎は前年(在職中の最後の1年)の所得で、世帯の被保険者の人数分の均等割と、世帯の平等割が加わります。額は市区町村の条例によるので、源泉徴収票を持って市区町村で見込みを聞いてください。入社後に、転職先の健康保険の資格を示す書類を持って、資格喪失の届出を忘れずにしてください(第9条)。届け出ないと5月分以降も課され続けます。空白が1か月なら、任意継続と比べて国民健康保険を選ぶ方が多いですが、扶養する家族が多い場合は任意継続の掛金と並べてください。
退職後の収入がほとんどありません。国民健康保険の保険料は下がりますか
退職した年度は、下がりにくいです。所得割の基礎は前年(在職中)の所得なので、退職後の収入が少なくても、退職した年度の保険料には反映されません。施行令第29条の7の低所得世帯の軽減も、前年の所得で判定します。翌年度からは、退職の年の所得が基礎になるので、下がります。退職した年度に使える可能性があるのは、国民健康保険法第77条の条例による減免です。所得が大きく減った場合の減免を設けている市区町村があり、申請が要ります。市区町村の担当課に「所得の減少による減免の制度があるか、要件は何か」を聞いてください。民間の退職者向けの非自発的失業者の軽減(施行令第29条の7の2)は、公務員は雇用保険の適用除外なので対象外です。
配偶者が働いています。国民健康保険の保険料は誰が払いますか
納付の義務者は世帯主です(国民健康保険法第76条第1項)。あなたが世帯主なら、あなたに納付書が届きます。配偶者が世帯主で、配偶者が勤務先の健康保険に入っている場合でも、あなたの分の国民健康保険の保険料の納付書は世帯主である配偶者宛てに届きます(擬制世帯主)。この場合、配偶者は国民健康保険の被保険者ではないので、配偶者の所得は所得割の基礎には入りませんが、納付の義務は世帯主にあります。配偶者が勤務先の健康保険に入っているなら、あなたがその被扶養者になれるかを先に確かめてください。被扶養者になれれば、国民健康保険の保険料はかかりません。要件は家族の扶養に入る場合に書いています。