制度とお金 / 共済
転職先の健康保険に入る場合
退職後の健康保険の4つの選択肢のうち、転職先の健康保険に入るのが、本人の手続きが最も少ない道です。入社日から被保険者になり、届出は事業主がします。
それでも、共済組合の短期給付と、民間の健康保険は別の法律です。用語が変わり、保険料の決まり方が変わり、退職月と入社月の関係で保険料が1か月分変わることがあります。
この記事では、転職先の健康保険に入る場合に、何が起きて、本人が何をするかを、健康保険法の条文で整理します。保険料の率と、給付の上乗せの有無は、転職先の健康保険(健康保険組合か協会けんぽ)によって違うので、この記事は仕組みの説明です。自分の額は、転職先の人事か健康保険の担当に確かめてください。選択肢の全体は退職後の健康保険、3つの選択肢に書いています。
誰が、いつから被保険者になるか
健康保険法第3条第1項は、被保険者を適用事業所に使用される者と定めています。第35条により、適用事業所に使用されるに至った日、つまり入社日から資格を取得します。試用期間中も、使用されているので被保険者です。
第36条により、資格を失うのはその事業所に使用されなくなった日の翌日です。共済組合の組合員の資格も退職の日の翌日に失うので、退職日の翌日が入社日なら、共済の資格を失う日と転職先の資格を取得する日が同じ日になり、空白はありません。
届出は事業主が5日以内
第48条により、事業主が、被保険者の資格の取得と喪失、報酬月額に関する事項を保険者に届け出ます。施行規則第24条により、資格取得の届出は事実があった日から5日以内です。
本人がすることは、転職先に基礎年金番号(またはマイナンバー)と、被扶養者にする家族の情報を伝えることです。共済組合の組合員証は自治体に返納しているので、転職先に提出するものではありません。
家族を被扶養者にする場合、その要件と書類は転職先の健康保険が定めます。共済で被扶養者だった家族が、そのまま転職先の健康保険の被扶養者になれるとは限りません。要件は家族の扶養に入る場合に書いた基準と同じ考え方です。
保険料の決まり方——標準報酬と折半
| 要素 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 基礎 | 標準報酬月額と標準賞与額 | 第156条 |
| 入社時の決め方 | 月給なら、入社日の現在の報酬の額を基礎に標準報酬月額を決定 | 第42条 |
| 率 | 一般保険料率(+子ども・子育て支援金率)。40歳以上65歳未満は介護保険料率が加わる。率は保険者ごとに違う | 第156条 |
| 負担 | 被保険者と事業主が2分の1ずつ | 第161条第1項 |
| 納付 | 事業主が、本人の分を給与から控除して納付 | 第161条第2項 |
共済組合の短期給付の掛金と、考え方は同じです。標準報酬を基礎に率を掛け、本人と事業主(自治体なら負担金)で分ける。用語が「掛金・負担金」から「保険料」に変わり、負担の割合が法律で2分の1ずつと定まっている点が違います。
率が保険者ごとに違う点は、転職先を比べるときに効きます。協会けんぽは都道府県ごとの率、健康保険組合は組合ごとの率で、同じ給与でも手取りが変わります。求人票の給与だけでなく、どの健康保険に入るかを確かめてください。
共済との違いを並べる
| 項目 | 共済組合(在職中) | 転職先の健康保険 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 地方公務員等共済組合法 | 健康保険法 |
| 名称 | 短期給付、掛金・負担金 | 保険給付、保険料 |
| 基礎 | 標準報酬 | 標準報酬(同じ考え方) |
| 負担 | 本人の掛金と自治体の負担金 | 本人と事業主で2分の1ずつ(第161条) |
| 医療費の給付 | あり | あり |
| 傷病手当金・出産手当金 | あり | あり |
| 給付の上乗せ | 組合の定款による附加給付 | 健康保険組合には付加給付がある場合がある。協会けんぽにはない |
| 被扶養者 | 組合が認定 | 転職先の保険者が認定 |
| 福祉事業 | 貯金・貸付など(第112条) | 保険者の保健事業。貯金・貸付は通常ない |
共済の福祉事業に相当するものは、転職先の健康保険にはほぼありません。共済貯金や貸付を使っていた方は、退職時に精算します(退職時の共済の手続き)。
退職月と入社月の保険料——1か月分の差が出るところ
保険料は月単位です。共済と健康保険で、月の数え方はそれぞれ次のとおりです。
| 制度 | 最後の月 | 最初の月 |
|---|---|---|
| 共済(地方公務員等共済組合法第114条) | 資格を喪失した日の属する月の前月まで | ── |
| 転職先の健康保険(第156条) | ── | 資格を取得した月から(前月から引き続き被保険者であった者が資格を喪失した月分は算定しない:第3項) |
| 退職日 | 入社日 | 共済の掛金 | 転職先の保険料 | 空白 |
|---|---|---|---|---|
| 3月31日 | 4月1日 | 3月分まで(喪失日4月1日の前月=3月) | 4月分から | なし |
| 3月15日 | 3月16日 | 2月分まで(喪失日3月16日の前月=2月) | 3月分から | なし |
| 3月31日 | 4月16日 | 3月分まで | 4月分から | 4月1日〜15日 |
月の途中で退職して翌日に入社する場合、退職月の共済の掛金はかからず、転職先の保険料が退職月からかかります。共済の給与から控除される掛金は、退職月の給与では前月分の精算になることが多いので、最後の給与明細で確かめてください。
3つ目の例のように、空白が月の途中までなら、空白の期間は任意継続か国民健康保険です。国民健康保険の保険料は、資格を喪失した日の属する月の前月までなので、4月16日に転職先の資格を取得すれば、4月分の国民健康保険の保険料はかかりません(届出は要ります)。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、転職先の健康保険で効いてくる点は3つです。
1. 退職日の翌日が入社日なら、空白も本人の手続きもほぼない
第35条・第36条のとおりです。基礎年金番号と被扶養者の情報を転職先に伝えるだけです。
2. 率が保険者ごとに違うので、手取りが変わる
同じ給与でも、協会けんぽか健康保険組合か、どの組合かで保険料が変わります。求人票の給与の額だけで手取りを見積もらないでください。
3. 空白があれば、つなぎの制度の喪失の届出を忘れない
国民健康保険は世帯主が市区町村に届け出ます(国民健康保険法第9条)。任意継続は転職先の資格取得で自動的に終わります。
手続きと期限
| 順序 | 手続き | 期限 | 誰が |
|---|---|---|---|
| 入社前 | 転職先の健康保険の種類、率、被扶養者の要件を照会 | 内定後 | 本人 |
| 退職時 | 共済の組合員証を返納 | 退職日 | 本人 |
| 入社日 | 基礎年金番号、被扶養者の情報を提出 | 入社日 | 本人 |
| 入社後 | 資格取得の届出 | 5日以内(施行規則第24条) | 転職先の事業主 |
| 入社後 | 空白の期間に国民健康保険だった場合、資格喪失の届出 | 速やかに | 世帯主(市区町村) |
| 保険証が届くまで | 受診した場合は全額を負担し、後から療養費を請求 | ── | 本人 |
誤解されやすい点
「試用期間中は健康保険に入らない」と思い込む
使用されるに至った日から被保険者です(第35条)。試用期間も含みます。
「保険料は共済と同じ額」と思い込む
率は保険者ごとに違い、負担は2分の1ずつと法律で定まっています(第156条・第161条)。共済の掛金と負担金の割合とは別です。
「共済で扶養だった家族はそのまま扶養に入れる」と思い込む
転職先の保険者が改めて認定します。要件を満たさなければ、家族は国民健康保険などに入ります。
「転職先に入れば、国民健康保険は自動で終わる」と思い込む
資格喪失の届出は世帯主が市区町村にします(国民健康保険法第9条)。
まとめ
- 転職先の健康保険には、適用事業所に使用されるに至った日(入社日)から被保険者になります(健康保険法第35条)。退職日の翌日が入社日なら、空白はありません
- 届出は事業主が5日以内にします(第48条、施行規則第24条)。本人は基礎年金番号と被扶養者の情報を伝えます
- 保険料は標準報酬月額を基礎に、保険者ごとの率を掛け、本人と事業主が2分の1ずつ負担します(第42条・第156条・第161条)。率が違うので、同じ給与でも手取りが変わります
- 共済の掛金は資格を喪失した日の属する月の前月まで(地方公務員等共済組合法第114条)、転職先の保険料は資格を取得した月から(第156条)。月の途中の退職と翌日の入社なら、退職月は転職先の保険料です
- 被扶養者は転職先の保険者が改めて認定します。共済の認定は引き継がれません
- 空白の期間に国民健康保険だった場合、資格喪失の届出は世帯主が市区町村にします(国民健康保険法第9条)
よくある質問
転職先の健康保険組合と協会けんぽで、何が違いますか
率と、給付の上乗せの有無が違います。協会けんぽは、都道府県ごとに定めた率を使います。健康保険組合は、組合ごとに率を定め、法定の給付に加えて付加給付(高額な医療費の自己負担の上限を独自に下げるなど)を設けていることがあります。どちらも、標準報酬月額を基礎に率を掛け、本人と事業主が2分の1ずつ負担する骨組みは同じです(健康保険法第156条・第161条)。同じ給与でも、率が違えば手取りが変わり、付加給付があれば医療費の自己負担が変わります。内定の段階で、転職先の人事に「健康保険組合か協会けんぽか、率はいくらか、付加給付はあるか」を聞いてください。共済組合の附加給付と比べて、どちらが手厚いかは組合によります。
退職日が3月20日、入社日が3月21日です。3月分の健康保険料はどちらに払いますか
転職先の健康保険に払います。共済の掛金は、資格を喪失した日(3月21日)の属する月の前月、つまり2月分までです(地方公務員等共済組合法第114条第1項)。転職先の健康保険の保険料は、資格を取得した月、つまり3月分からです(健康保険法第156条)。3月分の保険料は転職先の給与から控除されます。共済の掛金は給与から控除される時期が組合の定めによるので、3月の給与で2月分が控除されている場合と、すでに前の月で精算されている場合があります。最後の給与明細で、掛金がどの月の分かを確かめてください。なお、二重に払うことは制度上ありませんが、共済の掛金が多く控除されていた場合は、自治体の給与の担当課で精算されます。
転職先で家族を被扶養者にするには、何が要りますか
転職先の健康保険の保険者が定める書類を、入社時に提出します。健康保険法第3条第7項の被扶養者の要件(主として被保険者により生計を維持すること)を、転職先の保険者が改めて認定します。実務では、年間収入130万円未満(60歳以上・障害者は180万円未満)、同居なら被保険者の収入の半分未満などの基準が用いられ、収入を示す書類(非課税証明書、直近の給与明細など)と続柄を示す書類が求められます。共済で被扶養者だった家族が自動的に引き継がれるわけではありません。入社前に転職先の人事に要件と書類を聞いて、入社日に揃えて出せば、家族の保険証も空白なく切り替わります。配偶者が20歳以上60歳未満で被扶養者になる場合は、国民年金の第3号被保険者の届出も同時にします。