制度とお金 / 休暇
自己啓発等休業
「留学したい」「全日制の大学院で学びたい」「海外協力隊に参加したい」——公務員を辞める理由として聞くことの多い希望です。財政課の仕事を続けながらは無理だから、辞めるしかない。そう考える方に、辞めずに、職を保ったまま、最長3年の休業で実現できる制度があります。
それが、自己啓発等休業です。地方公務員法第26条の5に定められ、大学等の課程の履修または国際貢献活動のため、3年を超えない範囲で休業できます。給与は支給されませんが、職は保有され、休業が終われば復帰します。
この記事では、自己啓発等休業の要件、期間、給与と共済、退職手当への影響、休業後に転職する場合の考え方を整理します。条例を定めた自治体でのみ使え、期間と対象は条例によるので、人事の担当課で確かめてください。働きながら学ぶ修学部分休業は修学部分休業に書いています。
条文——第26条の5
| 項 | 内容 |
|---|---|
| 第1項 | 任命権者は、職員が申請した場合において、公務の運営に支障がなく、かつ、当該職員の公務に関する能力の向上に資すると認めるときは、条例で定めるところにより、3年を超えない範囲内において条例で定める期間、大学等課程の履修(大学その他の条例で定める教育施設の課程の履修)または国際貢献活動(国際協力の促進に資する外国における奉仕活動で、職員として参加することが適当と認められるものとして条例で定めるもの)のための休業を承認することができる |
| 第2項 | 休業をしている職員は、職を保有するが、職務に従事しない |
| 第3項 | 休業をしている期間については、給与を支給しない |
| 第4項 | 承認は、休職または停職の処分を受けた場合には効力を失う |
| 第5項 | 履修または活動を取りやめた場合などは、承認を取り消す |
| 第6項 | そのほか必要な事項は条例で定める |
臨時的任用の職員、任期を定めて任用される職員、非常勤職員は対象外です。
2つの対象——大学等課程の履修と国際貢献活動
| 対象 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 大学等課程の履修 | 大学その他の条例で定める教育施設の課程の履修 | 国内の大学院(全日制)、海外の大学院への留学、専門職大学院 |
| 国際貢献活動 | 国際協力の促進に資する外国における奉仕活動(訓練などの準備行為を含む)で、条例で定めるもの | 海外協力隊など、条例で定める活動 |
転職の準備としての「資格の学校」「民間の研修」は、条例で定める教育施設に当たらないことが多いので、対象の教育施設は条例で確かめてください。
要件——修学部分休業と同じ2つ
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 公務の運営に支障がない | 最長3年の休業を、課と自治体の体制で吸収できること。財政課の中核の職員が長期に抜ける場合、時期の調整を求められることがある |
| 公務に関する能力の向上に資する | 履修または活動の内容が、公務の能力を高めるものであること。転職の意図は要件ではなく、申請に書かない |
給与・共済・退職手当——休業中の扱い
| 項目 | 扱い |
|---|---|
| 給与 | 支給しない(第3項)。期末手当・勤勉手当も、多くの自治体で支給されないか、在職期間に応じて減額 |
| 共済の組合員資格 | 続く。掛金は本人負担分を納める必要がある(育児休業のような免除の規定はない)。組合により、休業中の掛金の納め方が定められている |
| 健康保険 | 共済の短期給付が続く(掛金を納めることが前提) |
| 年金 | 共済の長期給付(厚生年金相当)の被保険者期間が続く(掛金を納めることが前提) |
| 退職手当 | 休業の期間は、国の例では休職等に準ずる期間として在職期間から2分の1が除算される扱いが一般的(国家公務員退職手当法第7条第4項に準じた条例)。条例で確認 |
| 昇給 | 条例により、休業の期間は昇給の期間に算入されないか、一部算入 |
自己啓発等休業は、給与がなく、掛金は自分で納め、退職手当の在職期間は除算される制度です。学費と生活費に加えて、掛金の負担を資金の見込みに入れてください。育児休業(掛金の免除あり)とは、経済的な条件が大きく違います。
休業後に転職する場合——考え方
| 点 | 内容 |
|---|---|
| 法律上の制限 | 休業後の勤務を義務づける規定はなく、休業後の退職を制限する規定もない |
| 費用の返還 | 自己啓発等休業は本人の費用で学ぶ制度で、自治体が費用を負担していないので、返還の問題は生じない(自治体が費用を負担する大学院派遣などの研修は別で、条例により返還の定めがあることがある) |
| 職場との関係 | 承認は「公務の能力の向上に資する」ことを前提にしているので、復帰の直後の退職は、制度を転職の準備に使ったと受け取られる |
| 経歴 | 休業の期間は、転職先には「大学院で学んだ期間」「海外で活動した期間」として説明できる。空白ではない |
| 転職先の評価 | 学位、留学、国際経験は、転職先によっては大きな評価の材料になる。公務で生かした期間があると、さらに説明しやすい |
最も筋の通った形は、休業で学び、復帰して公務で生かし、そのうえで転職を考えることです。法律はそれを義務づけていませんが、職場との関係と、経歴の説明のしやすさの両方で、この順序が有利です。
配偶者同行休業——似た制度
第26条の6の配偶者同行休業は、配偶者の外国での勤務などに同行するための休業で、3年を超えない範囲、給与なし、職は保有という点が自己啓発等休業と共通です。配偶者の海外赴任に同行する方は、この制度も確かめてください。同行先で学ぶ場合、自己啓発等休業との使い分けは条例と人事の担当課の判断によります。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、自己啓発等休業で効いてくる点は3つです。
1. 留学・大学院・国際貢献は、辞めずに実現できる
条例があれば、最長3年の休業で職を保ったまま学べます。修了後に転職するかどうかを決められます。
2. 経済的な条件は厳しい
給与なし、掛金は自分で納める、退職手当は除算。学費と生活費に加えて見込んでください。
3. 復帰して公務で生かしてから、転職を考える
法律上の義務ではありませんが、職場との関係と経歴の説明の両方で有利です。
手続きと期限
| 順序 | 手続き | 時期 | 場所 |
|---|---|---|---|
| 留学・大学院・活動を考えたら | 自己啓発等休業の条例の有無、期間、対象を確かめる | 最初に | 人事の担当課、例規集 |
| 出願・応募の前 | 教育施設・活動が条例の対象か、休業の時期が公務の運営に支障がないかを相談 | 出願の前 | 人事の担当課、所属 |
| 申請 | 履修または活動の内容、期間を記載して申請 | 条例の定める期限まで | 任命権者 |
| 承認後 | 掛金の納め方、退職手当の除算、昇給への影響を確かめる。資金の計画 | 承認後 | 共済組合、人事の担当課 |
| 休業中 | 履修・活動に専念。取りやめた場合は承認の取消し(第5項) | 継続 | ── |
| 復帰 | 復帰の届出。学びを公務で生かす | 期間の満了 | 人事の担当課 |
| 転職を考えるなら | 復帰後、一定の期間を置いてから | ── | ── |
誤解されやすい点
「留学や大学院には退職するしかない」と思い込む
条例があれば、自己啓発等休業で職を保ったまま最長3年です(第26条の5)。
「休業中は掛金も免除される」と思い込む
育児休業のような免除の規定はなく、掛金は本人が納めます。共済組合で納め方を確かめてください。
「休業の期間も退職手当の在職期間に算入される」と思い込む
国の例に準じて2分の1が除算される扱いが一般的です。条例で確かめてください。
「休業後にすぐ辞めると費用の返還を求められる」と思い込む
自己啓発等休業は本人の費用で学ぶ制度で、返還の問題は生じません。自治体が費用を負担する研修は別です。
まとめ
- 自己啓発等休業は、地方公務員法第26条の5により、大学等課程の履修または国際貢献活動のため、3年を超えない範囲内で条例で定める期間、職を保有したまま職務に従事しない制度で、条例を定めた自治体でのみ使えます
- 要件は、公務の運営に支障がなく、かつ、公務に関する能力の向上に資することです。転職の意図は要件ではありません
- 給与は支給されず(第3項)、共済の掛金は本人が納め、退職手当の在職期間は国の例に準じて2分の1が除算される扱いが一般的です。学費と生活費に加えて見込んでください
- 本人の費用で学ぶ制度なので、休業後に退職しても費用の返還の問題は生じません。自治体が費用を負担する研修は別の制度です
- 復帰して公務で生かしてから転職を考えるのが、職場との関係と経歴の説明の両方で有利です
- 配偶者の海外赴任に同行する場合は、配偶者同行休業(第26条の6)も確かめてください
よくある質問
海外の大学院に2年間留学したいです。自己啓発等休業と退職のどちらがよいですか
条例があれば、自己啓発等休業のほうが、修了後の道が2つ残る分だけ有利です。経済的な条件を確かめたうえで判断してください。自己啓発等休業なら、職を保有したまま最長3年の休業で留学でき、修了後に復帰して公務で生かす道と、転職する道の両方が残ります。退職すれば転職しかありません。経済的には、休業中は給与がなく、共済の掛金は本人が納め、退職手当の在職期間は2分の1が除算される扱いが一般的で、退職して国民健康保険と国民年金に切り替える場合と比べて、掛金の負担が大きくなることがあります。一方で、共済の組合員資格が続くので健康保険と年金の記録に空白が生じず、復帰後の給与と身分が保証されます。人事の担当課と共済組合に「2年間の自己啓発等休業を取った場合の掛金の額、退職手当の除算、昇給への影響」を1枚にまとめてもらい、退職した場合の見込みと並べて判断してください。留学先が条例の定める教育施設に当たるかも、出願の前に確かめます。
自己啓発等休業で修了した後、復帰せずに転職できますか
法律上はできますが、制度の趣旨と職場との関係で、復帰して一定の期間を置くことを勧めます。第26条の5には、休業後の勤務を義務づける規定も、退職を制限する規定もなく、本人の費用で学ぶ制度なので費用の返還の問題も生じません。ただし、任命権者は「公務に関する能力の向上に資する」と認めて承認しているので、復帰せずに退職すれば、制度を転職の準備に使ったと受け取られ、職場の信頼と、後に続く職員への制度の運用に影響します。経歴の面でも、「留学して、公務で生かして、次へ」のほうが「留学して、そのまま辞めた」より、転職先に説明しやすく、学びを実務でどう生かしたかを話せます。休業の期間の満了で復帰する義務はあるので(期間が満了すれば職務に復帰する形)、復帰の手続きをしたうえで、一定の期間を公務で働いてから転職を考えるのが、制度を使った人の責任として筋の通った形です。どうしても復帰が難しい事情がある場合は、休業中に人事の担当課に早めに相談してください。
休業中の共済の掛金は、いくらぐらいになりますか
在職中の掛金と同じ基礎(標準報酬)で計算され、本人負担分を自分で納めます。額は共済組合に確かめてください。自己啓発等休業には、育児休業のような掛金の免除の規定がなく、休業中も組合員の資格が続くので、短期給付(健康保険)と長期給付(年金)の掛金を納める必要があります。給与が支給されないので給与からの控除ができず、組合の定める方法(口座振替、納付書など)で納めます。標準報酬は休業前の額が基礎になることが多く、掛金は在職中と同じ水準になるので、給与がない中でこの負担は小さくありません。自治体の負担金相当は自治体が引き続き負担するので、任意継続組合員のように本人が全額を負担する形にはなりません。留学の期間中の掛金の総額を共済組合で見込んでもらい、学費と生活費に加えて資金の計画に入れてください。掛金を納めることで、健康保険と年金の記録に空白が生じず、復帰後も、転職した場合も、年金の計算で不利になりません。海外に滞在する場合の共済の医療費の給付(海外での療養費)の扱いも、共済組合で確かめておくと安心です。