制度とお金 / 年金
企業型確定拠出年金がある会社に移るとき
転職先の内定の条件に、「企業型確定拠出年金あり」と書かれていることがあります。公務員には、この制度がありません。共済の退職等年金給付が上乗せの役割を担っていたので、会社ごとの企業年金という形を経験していない方がほとんどです。
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、会社が掛金を出し、本人が運用する年金です。公務員のときのように制度が決まっていて自動的に積み上がる形ではなく、入社時に自分で決めることがいくつかあります。運用の商品、マッチング拠出をするか、iDeCoをどうするか。
この記事では、企業型確定拠出年金がある会社に移るときに、何が起き、何を決めるのかを、確定拠出年金法の条文で整理します。運用の中身は個別性が高いので、制度の骨を書きます。自分の会社の制度は、転職先の担当部門と規約で確認してください。iDeCoの側はiDeCoは公務員と会社員で何が違うかに書いています。
企業型確定拠出年金は「会社の規約」で決まる
確定拠出年金法第3条は、事業主が企業型年金規約を定め、厚生労働大臣の承認を受けることを定めています。制度の中身——誰が加入するか、掛金はいくらか、本人も掛金を出せるか——は、会社ごとの規約で決まります。
公務員のときの退職等年金給付は、法律と共済組合の定款で全員に同じ形でした。企業型は、会社によって違います。転職先の規約を読まないと、自分の制度が分かりません。
掛金——事業主掛金と、本人のマッチング拠出
第19条は、掛金を2つに分けています。
> 事業主は、政令で定めるところにより、年一回以上、定期的に掛金を拠出する。> 2 事業主掛金の額は、企業型年金規約で定めるものとする。> 3 企業型年金加入者は、政令で定める基準に従い企業型年金規約で定めるところにより、年一回以上、定期的に自ら掛金を拠出することができる。> 4 企業型年金加入者掛金の額は、企業型年金規約で定めるところにより、企業型年金加入者が決定し、又は変更する。
| 掛金 | 誰が出すか | 額の決まり方 |
|---|---|---|
| 事業主掛金 | 会社 | 規約で定める(第2項) |
| 企業型年金加入者掛金(マッチング拠出) | 本人 | 規約で認めている場合に、本人が決める(第3項・第4項) |
事業主掛金は、会社が出す掛金です。給与とは別に、会社が本人の口座に積み立てます。この部分は、公務員のときの退職等年金給付の「付与額」に近い役割ですが、額は会社の規約で決まります。
マッチング拠出は、本人が上乗せする掛金です。第3項は「拠出することができる」で、規約で認めている会社でだけ使えます。認めていない会社もあります。また、マッチング拠出とiDeCoは、原則として併用できません。転職先でどちらを使うかは、後で触れます。
運用——本人が商品を選ぶ
企業型確定拠出年金では、掛金を何で運用するかを本人が選びます。会社が用意した商品の中から、預金、保険、投資信託などを選び、配分を決めます。選ばなければ、規約で定められた商品(指定運用方法)で運用されるのが通常です。
公務員のときの退職等年金給付は、共済組合が積立金を運用し、本人は運用を選びませんでした。企業型では、運用の結果が自分の資産に直接反映されます。ここが、公務員のときといちばん違う点です。
iDeCoをどうするか——続けるか、移換するか
公務員のときにiDeCoに入っていた方は、企業型確定拠出年金がある会社に移ると、2つの道があります。
道1:iDeCoを続ける(併用)
企業型に加入しながら、iDeCoも続ける形です。この場合、iDeCoの限度額は、企業型の事業主掛金と合わせた上限の範囲になります。厚生労働省の資料では、企業年金を実施している会社員の限度額は、現在は月額20,000円で企業年金と合わせて55,000円が上限、2026年12月分からは企業年金と合わせて62,000円が上限です。ただし、転職先でマッチング拠出をする場合は、iDeCoとの併用は原則としてできません。どちらかを選ぶ形です。
道2:iDeCoの資産を企業型に移換する
第80条第1項は、個人型年金加入者が企業型年金の加入者の資格を取得した場合、申出により、その個人別管理資産を企業型年金の資産管理機関に移換できると定めています。iDeCoで積み上げた資産を、企業型の口座にまとめる形です。iDeCoの口座は閉じ、運営管理機関の手数料はなくなります。
| 道 | 何が起きるか | 向いている場合 |
|---|---|---|
| 併用 | iDeCoを続け、企業型と2つの口座で運用 | iDeCoの商品を続けたい。マッチング拠出のない会社 |
| 移換 | iDeCoの資産を企業型にまとめ、iDeCoは閉じる | 口座を1つにしたい。マッチング拠出をしたい |
どちらがよいかは、転職先の規約——マッチング拠出の有無、事業主掛金の額、商品の品揃え——で決まります。内定の段階で、転職先の担当部門に確認してください。
逆の場面——企業型のある会社を辞めるとき
転職先で企業型に入った後、さらに転職や退職をする場合の定めも、知っておいてください。公務員から民間に移る方は、その後の転職で必ずこの場面に会います。
第82条は、企業型の加入者だった者が連合会に移換を申し出て、同時にiDeCoに加入すれば、資産をiDeCoに移換できると定めています。転職先に企業型がなければ、iDeCoに移すのが通常です。
そして第83条第1項第1号は、加入者の資格を喪失した日が属する月の翌月から起算して6か月以内に、移換などの手続きをしなかった者の資産は、国民年金基金連合会に移換されると定めています。「自動移換」と呼ばれる仕組みです。自動移換されると、運用されないまま手数料だけがかかる状態になります。企業型のある会社を辞めたら、6か月以内に次の口座を決めてください。
転職するとどうなるか
企業型確定拠出年金がある会社に移るとき、効いてくる点は3つです。
1. 入社時に、運用の商品を選ぶ
選ばなければ指定運用方法で運用されます。公務員のときにはなかった作業です。
2. iDeCoを続けるか、移換するかを決める
マッチング拠出をするなら、原則としてiDeCoとの併用はできません。転職先の規約で決まります。
3. 次に辞めるときは、6か月以内に移換の手続きをする
第83条の自動移換を避けるためです。企業型に入った時点で、この期限を知っておいてください。
手続きと期限
| 場面 | すること | 期限・場所 |
|---|---|---|
| 内定 | 規約の概要(事業主掛金・マッチング拠出の有無・商品・指定運用方法)を確かめる | 転職先の担当部門 |
| 入社 | 企業型の加入の手続き、運用の商品の選択 | 転職先の案内に従う |
| 入社 | iDeCoを続けるなら区分の変更届、移換するなら移換の申出 | 運営管理機関、転職先の担当部門 |
| 企業型のある会社を辞めた | iDeCoへの移換か、次の企業型への移換 | 資格喪失月の翌月から6か月以内(第83条) |
期限があるのは、辞めたときの6か月です。入社時の選択に法律上の期限はありませんが、選ばない期間は指定運用方法で運用されるので、早めに決めるほうが自分の意図が反映されます。
誤解されやすい点
「企業型確定拠出年金は、公務員の共済の上乗せと同じもの」と思い込む
会社の規約で中身が決まり、運用は本人が選びます。共済が運用していた退職等年金給付とは、性質が違います。
「iDeCoは転職先でもそのまま同じ額で続けられる」と思い込む
限度額は企業型の事業主掛金と合わせた上限の範囲になり、マッチング拠出をするなら原則として併用できません。
「辞めたら、企業型の資産は自動的にiDeCoに移る」と思い込む
6か月以内に手続きをしなければ、国民年金基金連合会に自動移換されます(第83条)。運用されない状態です。
「運用の商品は会社が決めてくれる」と思い込む
本人が選びます。選ばなければ指定運用方法です。
まとめ
- 企業型確定拠出年金は、会社ごとの規約で中身が決まります(確定拠出年金法第3条)。公務員の退職等年金給付のように全員同じ形ではありません
- 掛金は事業主掛金(会社が出す、規約で定める)と、規約で認められていればマッチング拠出(本人が出す)の2つです(第19条)
- 運用の商品は本人が選びます。選ばなければ指定運用方法で運用されます
- 公務員のときのiDeCoは、続ける(企業型と合わせた上限の範囲。マッチング拠出をするなら原則併用不可)か、企業型に移換する(第80条)かを選びます
- 企業型のある会社を辞めたら、資格喪失月の翌月から6か月以内に移換の手続きをしないと、国民年金基金連合会に自動移換されます(第82条・第83条)
- 内定の段階で、事業主掛金の額・マッチング拠出の有無・商品・指定運用方法の4つを確かめてください
よくある質問
転職先に企業型確定拠出年金があります。公務員のときのiDeCoはどうなりますか
2つの道があります。1つは、iDeCoを続ける道で、この場合のiDeCoの限度額は企業型の事業主掛金と合わせた上限の範囲(現在は合わせて55,000円、2026年12月分からは合わせて62,000円)になります。ただし、転職先でマッチング拠出をするなら、iDeCoとの併用は原則としてできません。もう1つは、iDeCoの資産を企業型に移換する道で、確定拠出年金法第80条が、個人型年金加入者が企業型年金の加入者になった場合の移換を定めています。どちらがよいかは、転職先の規約——マッチング拠出の有無、事業主掛金の額、商品の品揃え——で決まるので、内定の段階で転職先の担当部門に確認してください。
マッチング拠出とiDeCoは、どちらがよいですか
転職先の規約と、自分の掛金の希望で決まります。マッチング拠出は、確定拠出年金法第19条第3項により、規約で認めている会社でだけ使え、本人の掛金は事業主掛金の額を超えられないなどの基準が政令で定められています。iDeCoは、企業型の事業主掛金と合わせた上限の範囲で自分の限度額が決まります。事業主掛金が少ない会社ではマッチング拠出の上限も小さくなり、iDeCoのほうが多く掛けられることがあります。逆に、口座を1つにまとめたいならマッチング拠出が簡単です。両方の上限を転職先の担当部門に聞いて、額で比べてください。制度の名前ではなく、掛けられる額で決めるのが順当です。
企業型のある会社を辞めるときは、何をすればよいですか
資格を喪失した月の翌月から6か月以内に、資産の移換の手続きをしてください。確定拠出年金法第83条第1項は、この期間内に移換などの手続きをしなかった者の個人別管理資産を、資産管理機関が国民年金基金連合会に移換すると定めています。自動移換されると、運用されないまま手数料がかかる状態になります。次の会社に企業型があればそちらに(第80条)、なければiDeCoに(第82条)移換するのが通常です。辞める前に、転職先に企業型があるかを確かめ、辞めたら6か月の期限を数えてください。この期限は、公務員から民間に移った後、次に転職するときに必ず関わります。