制度とお金 / 年金
受給額への影響の考え方
「公務員を辞めると、将来の年金が減る」。この言葉は、転職を考える方の中に、漠然とした形で残っています。
減るかどうかは、「どの層の話か」で答えが違います。年金は3層でできていて、転職で動く層と、動かない層があります。しかも、動く層の中でも、転職先の給与によっては増える方向に動くこともあります。「減る」と一言で言えるものではありません。
この記事では、老齢基礎年金・老齢厚生年金・退職等年金給付の3層について、転職で何が動くのかを、条文の計算式で整理します。年金は個別性が高い分野なので、制度の骨を書きます。金額の見込みは、ねんきん定期便、共済組合、年金事務所で確認してください。期間の扱いは共済期間は転職後どうなるかに書いています。
3層の式を並べる
| 層 | 計算の骨(条文) | 転職で動く要素 |
|---|---|---|
| 老齢基礎年金 | 満額 × 納付済期間の月数 ÷ 480(国民年金法第27条) | 空白の月に未納があれば減る。それ以外は動かない |
| 老齢厚生年金 | 平均標準報酬額 × 1000分の5.481 × 被保険者期間の月数(厚生年金保険法第43条) | 転職先の標準報酬と、空白の月数で動く。上にも下にも |
| 退職等年金給付 | 各月の標準報酬 × 付与率 + 利子(地方公務員等共済組合法第77条) | 退職の月で積み増しが止まる。積み上がった分は残る |
「減る」と言われているものの実体は、3層目の積み増しが止まることと、2層目の空白の月数です。1層目は、空白の月をきちんと納めれば動きません。2層目は、転職先の給与によっては増えます。
層1:老齢基礎年金——空白の月を納めれば動かない
国民年金法第27条は、老齢基礎年金の額を、満額に相当する額に、保険料納付済期間の月数(免除の期間は所定の割合で換算)を480で除した数を乗じた額と定めています。480か月で満額です。
公務員の期間は第2号被保険者として納付済期間に数えられ、民間の期間も同じです。転職で動くのは、退職から入社までの空白の月だけです。その月を国民年金の第1号被保険者として納めれば、納付済期間に数えられ、転職の前後で1層目は動きません。未納にすれば、その月数分が480分のいくつとして減ります。詳しくは国民年金に切り替える場合に書いています。
層2:老齢厚生年金——標準報酬と月数で、上にも下にも動く
厚生年金保険法第43条第1項は、老齢厚生年金の額を、被保険者であった全期間の平均標準報酬額に1000分の5.481を乗じた額に、被保険者期間の月数を乗じた額と定めています。平均標準報酬額は、各月の標準報酬月額と標準賞与額に再評価率を乗じた額の総額を、被保険者期間の月数で除した額です。
式に入っているのは、「平均の標準報酬」と「月数」の2つです。転職で動くのは、この2つです。
| 要素 | 転職でどう動くか |
|---|---|
| 月数 | 公務員の期間と民間の期間は通算される。空白の月があれば、その分だけ月数が減る |
| 平均の標準報酬 | 公務員の期間の標準報酬と、民間の期間の標準報酬の平均。転職先の標準報酬が公務員のときより高ければ平均は上がり、低ければ下がる |
つまり、2層目は「減る」とは限りません。転職先の給与(手当を含む報酬)が公務員のときより高ければ、その後の期間の標準報酬が上がり、全期間の平均も上がります。逆なら下がります。空白の月数は、純粋に減る方向にだけ効きます。
なお、公務員の期間の分は共済組合が、民間の期間の分は日本年金機構が計算して支払いますが、計算の式は同じ第43条です。
層3:退職等年金給付——積み増しが止まる。積み上がった分は残る
地方公務員等共済組合法第77条は、退職等年金給付の給付算定基礎額を、組合員期間の各月の標準報酬に付与率を乗じた額に、基準利率で複利の利子を加えた総額と定めています。組合員でいる月だけ、付与額が積み上がります。
転職で動くのは、「退職の月以降、付与額が乗らなくなる」ことです。それまでに積み上がった分は残り、基準利率で利子が付き続けます。第88条により、1年以上の組合員期間があれば65歳で退職年金を受け取れます。第89条第2項により、組合員期間が10年未満だと終身の側の基礎額が半分になります。
この層は、民間にはない上乗せなので、民間の期間で代わりに積み上がるものはありません。仕組みは職域加算と年金払い退職給付に書いています。
「減る」の中身を分解する
以上をまとめると、「公務員を辞めると年金が減る」の中身は、次の3つに分解できます。
- 退職等年金給付の積み増しが止まる——これは確実に起きる。ただし、積み上がった分は残る
- 空白の月数分、老齢厚生年金の月数が減る——空白があれば起きる。空白がなければ起きない
- 転職先の標準報酬が公務員のときより低ければ、老齢厚生年金の平均が下がる——転職先の給与による。高ければ逆に上がる
1は退職等年金給付の付与額の累計、2は空白の月数、3は転職先の標準報酬月額。この3つを確かめれば、「減る」の実額が見えます。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、受給額の見方で効いてくる点は3つです。
1. 空白の月を作らない、作るなら納める
空白は2層目の月数を減らし、未納なら1層目も減らします。空白をなくすか、空白の月の国民年金を納めるかで、1層目と2層目の「減る」はほぼ消えます。
2. 転職先の標準報酬月額を、内定の段階で確かめる
2層目の平均を動かすのは、転職先の報酬です。公務員のときの給料表の額と、転職先の報酬(手当を含む)を比べてください。
3. 退職等年金給付の付与額の累計を、共済組合に聞く
3層目で「止まる」部分の実額です。これが、転職で確実に動く唯一の数字です。
手続きと期限
受給額の見込みを確かめる作業に、期限はありません。退職の意思を伝える前に、順に確かめてください。
| 順序 | 確かめること | どこで |
|---|---|---|
| 1 | 老齢厚生年金と老齢基礎年金の見込額 | ねんきん定期便(毎年の誕生月に届く) |
| 2 | 退職等年金給付の給付算定基礎額(付与額の累計) | 共済組合に制度の照会として |
| 3 | 公務員の期間が記録に載っているか | ねんきん定期便。載っていなければ共済組合に照会 |
| 4 | 転職先の入社時の標準報酬月額の見込み | 転職先の担当部門に、内定の段階で |
| 5 | 退職日と入社日の空白の月数 | 自分で並べる |
この5つが揃えば、「減る」の中身が数字になります。
誤解されやすい点
「公務員を辞めると年金が一律に減る」と思い込む
3層のうち、確実に動くのは退職等年金給付の積み増しだけです。老齢厚生年金は転職先の標準報酬で上にも動きます。
「共済の期間は別の計算で不利になる」と思い込む
計算の式は同じ第43条です。実施機関が分かれるだけです。
「空白の期間は関係ない」と思い込む
空白の月数は老齢厚生年金の月数を減らし、未納なら老齢基礎年金も減らします。
「ねんきん定期便の見込額が、辞めた後の額」と思い込む
定期便の見込額は、現在の加入の状態が続いた場合の試算です。辞めた後の額は、共済組合と転職先の数字を足して見ます。
まとめ
- 年金は老齢基礎年金・老齢厚生年金・退職等年金給付の3層で、転職で動く層と動かない層があります
- 老齢基礎年金は納付済期間の月数÷480で決まり(国民年金法第27条)、空白の月を納めれば動きません
- 老齢厚生年金は平均標準報酬額×1000分の5.481×月数で決まり(厚生年金保険法第43条)、空白の月数と転職先の標準報酬で上にも下にも動きます
- 退職等年金給付は組合員期間の付与額と利子の総額で決まり(地方公務員等共済組合法第77条)、退職の月で積み増しが止まりますが、積み上がった分は残ります
- 「減る」の中身は、①退職等年金給付の付与額の累計 ②空白の月数 ③転職先の標準報酬月額の3つの数字に分解できます
- ねんきん定期便、共済組合、転職先の担当部門で、退職の意思を伝える前に確かめられます
よくある質問
転職先の給与が公務員のときより高い場合、年金は増えますか
老齢厚生年金の側は、増える方向に動きます。厚生年金保険法第43条の式は、平均標準報酬額×1000分の5.481×被保険者期間の月数です。転職先の標準報酬月額が公務員のときより高ければ、その後の期間の標準報酬が上がり、全期間の平均標準報酬額も上がります。ただし、退職等年金給付の積み増しは止まるので、その分と、老齢厚生年金の増える分を比べる形になります。空白の月があれば、月数の減る分も加わります。3つの数字——退職等年金給付の付与額の累計、空白の月数、転職先の標準報酬月額——を並べて見てください。個別の見込みは、共済組合と年金事務所で確認してください。
ねんきん定期便の見込額は、転職後にどう変わりますか
定期便の見込額は、現在の加入の状態が続いた場合の試算です。転職すると、その後の期間の標準報酬が転職先の額に変わり、共済組合員としての期間は退職の月で終わります。転職後の見込額は、公務員の期間の分(共済組合が計算)と、民間の期間の分(日本年金機構が計算)と、退職等年金給付(共済組合が計算)を足して見る形になります。転職後に届く定期便には、公務員の期間と民間の期間の両方が載っているはずなので、載っているかを確かめ、載っていなければ共済組合に照会してください。退職等年金給付は定期便には載らないので、共済組合に別に聞く必要があります。
勤続15年で転職します。退職等年金給付はどのくらい減りますか
「減る」のではなく、「15年分は残り、16年目以降の積み増しがなくなる」形です。地方公務員等共済組合法第77条の給付算定基礎額は、組合員期間の各月の付与額と利子の総額で、退職後も積み上がった分に基準利率で利子が付きます。第88条により、1年以上の組合員期間があるので65歳で退職年金を受け取れます。組合員期間が10年以上あるので、第89条第2項の「10年未満なら終身の側が半分」には当たりません。具体的な額は、共済組合に「給付算定基礎額(付与額の累計)」を制度の照会として聞いてください。それが、いま辞めた場合の退職年金の元になる額です。仕組みは職域加算と年金払い退職給付に書いています。