制度とお金 / 年金
過払い・未納が出たときの対応
退職と入社の月がずれると、年金の保険料に「重なり」か「抜け」が出ることがあります。
重なりは、国民年金の保険料を納めた月が、後から厚生年金の被保険者期間になった場合です。この場合、国民年金の保険料は過払いになり、還付されます。抜けは、どちらの保険料も納められていない月で、未納です。どちらも、放置すると2年で権利が消えます。
この記事では、なぜ重なりや抜けが出るのか、出たらどうするのかを、厚生年金保険法と国民年金法の条文、日本年金機構の案内で整理します。年金は個別性が高い分野なので、制度の骨を書きます。自分の記録は、年金事務所と市区町村の窓口で確認してください。空白の期間の基本は国民年金に切り替える場合に書いています。
出発点——資格は「翌日」に喪失し、期間は「月」で数える
重なりと抜けの原因は、2つの条文の組合せにあります。
1つ目は、資格喪失の時期です。厚生年金保険法第14条は、被保険者が事業所に使用されなくなったときなどに、「その日の翌日」に資格を喪失すると定めています。退職日ではなく、退職日の翌日です。
2つ目は、被保険者期間の数え方です。第19条第1項は、被保険者期間を「月によるものとし、被保険者の資格を取得した月からその資格を喪失した月の前月まで」算入すると定めています。喪失した月は、数えません。
この2つを組み合わせると、次のようになります。
| 退職日 | 資格喪失日(第14条) | 厚生年金の期間に数える最後の月(第19条) |
|---|---|---|
| 3月31日(月末) | 4月1日 | 3月(4月の前月) |
| 3月30日(月末の前日) | 3月31日 | 2月(3月の前月) |
月末に退職すれば、その月まで厚生年金の期間です。月の途中で退職すれば、その月は厚生年金の期間に入りません。1日の違いで、1か月分の扱いが変わります。
国民年金法第11条も同じ形で、被保険者期間は資格を取得した日の属する月から、喪失した日の属する月の前月までと定めています。年金の期間は、月末に被保険者であったかどうかで、その月の帰属が決まると覚えておいてください。
抜け(未納)が出る場面
月の途中で退職し、翌月以降に入社する場合、退職の月は厚生年金の期間に入らず、国民年金の第1号被保険者の期間になります。この月の国民年金の保険料を納めていなければ、未納です。
日本年金機構の案内では、月末までに就職しない場合は国民年金第1号の手続きが必要で、月の途中で入社すればその時点で第2号被保険者になる、とされています。退職の月と入社の月の両方について、どちらの制度の月になるかを確かめてください。
未納には、2年の時効があります。国民年金法第102条第4項は、保険料を徴収する権利は、行使することができる時から2年を経過したときは時効によって消滅すると定めています。納付の期限から2年を過ぎると、納めることができなくなり、未納が確定します。免除や猶予を受けていれば10年以内に追納できますが(第94条)、申請せずに放置した未納は、2年で取り戻せなくなります。
重なり(過払い)が出る場面
国民年金の保険料を納めた月が、後から厚生年金の被保険者期間になった場合、その月の国民年金の保険料は納める必要がなかったことになります。典型的には、次の場面です。
- 空白の期間として国民年金の保険料を前納していたが、月の途中で入社し、その月が厚生年金の期間になった
- 転職先の資格取得の届出が遅れ、国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた後に、その月が遡って厚生年金の期間になった
この場合、重なった月の国民年金の保険料は還付されます。第102条第4項は、徴収金の還付を受ける権利についても、行使することができる時から2年で時効によって消滅すると定めています。還付も、2年を過ぎると受けられなくなります。
還付の手続きは、通常、日本年金機構から通知が届き、請求の書類を出す形です。通知が届かない場合や、自分で気づいた場合は、年金事務所に問い合わせてください。
対応の順序
重なりか抜けに気づいたら、次の順で対応してください。
| 順序 | すること | どこで |
|---|---|---|
| 1 | 退職日と入社日を確かめ、退職の月と入社の月がどちらの制度の月かを上の表で判定する | 自分で |
| 2 | ねんきん定期便か年金事務所で、その月の記録を確かめる | 年金事務所(ねんきんネットでも可) |
| 3 | 抜けなら、納付の期限から2年以内に納める。納められなければ免除・猶予を申請する | 市区町村の窓口 |
| 4 | 重なりなら、還付の請求をする。通知が来ていなければ年金事務所に問い合わせる。2年以内 | 年金事務所 |
| 5 | 転職先の資格取得の届出の日付が正しいか、転職先の担当部門に確かめる | 転職先 |
期限があるのは、3と4の「2年」です。転職の直後は忙しく、数か月放置しがちですが、2年を過ぎると、抜けは未納として確定し、重なりは還付されなくなります。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、重なりと抜けで効いてくる点は3つです。
1. 退職日が月末か途中かで、退職の月の扱いが変わる
月末なら厚生年金、途中なら国民年金の月です。退職日を決める前に、この違いを知っておいてください。
2. 入社の月は、月の途中でも厚生年金の月になる
入社の月の国民年金の保険料は要りません。前納していれば還付の対象です。
3. 気づいたら2年以内に対応する
抜けも重なりも、2年の時効です(国民年金法第102条第4項)。転職の直後の忙しさで、放置しないでください。
手続きと期限
| 手続き | 期限 | 場所 |
|---|---|---|
| 抜けた月の国民年金の保険料の納付 | 納付の期限から2年以内(時効) | 市区町村・金融機関 |
| 免除・猶予の申請(納められない場合) | 遅れると対象の期間が限られる | 市区町村の窓口 |
| 免除・猶予を受けた保険料の追納 | 10年以内(第94条) | 年金事務所 |
| 重なった月の保険料の還付の請求 | 2年以内(時効) | 年金事務所 |
| 転職先の資格取得の届出の確認 | 入社後、早めに | 転職先の担当部門 |
ねんきん定期便は年1回ですが、ねんきんネットでは随時、記録を確かめられます。転職の後、入社から数か月たったら、一度、退職の月と入社の月の記録を見てください。
誤解されやすい点
「月の途中まで働けば、その月は厚生年金の期間になる」と思い込む
月末に被保険者でなければ、その月は厚生年金の期間に入りません(厚生年金保険法第14条・第19条)。
「未納は後からいつでも納められる」と思い込む
納付の期限から2年で時効です(国民年金法第102条第4項)。追納が10年できるのは、免除や猶予を受けた保険料だけです。
「重なって納めた分は自動的に戻る」と思い込む
還付の請求が要り、2年の時効があります。通知が来なければ年金事務所に問い合わせてください。
「数か月の抜けは将来の年金に関係ない」と思い込む
受給資格の期間にも額にも数えられません。額としては小さくても、記録に未納が残ります。
まとめ
- 厚生年金の資格は退職日の翌日に喪失し(厚生年金保険法第14条)、被保険者期間は取得した月から喪失した月の前月までで数えます(第19条)。月末に退職すればその月まで厚生年金、月の途中ならその月は国民年金の月です
- 抜け(未納)は、退職の月や空白の月の国民年金の保険料を納めていない場合に出ます。納付の期限から2年で時効です(国民年金法第102条第4項)
- 重なり(過払い)は、国民年金の保険料を納めた月が後から厚生年金の期間になった場合に出ます。還付の請求ができ、2年の時効があります
- 免除・猶予を受けた保険料は10年以内に追納できますが(第94条)、申請せずに放置した未納は2年で確定します
- 退職日を月末か途中かで意識し、入社の翌月にねんきんネットで記録を確かめると、ほぼ防げます
よくある質問
3月20日に退職して、4月1日に入社しました。3月分の年金はどうなりますか
3月は厚生年金の期間に入らず、国民年金の第1号被保険者の月です。厚生年金保険法第14条により、3月20日退職なら資格喪失日は3月21日で、第19条により被保険者期間は喪失した月(3月)の前月である2月までです。4月1日に入社すれば4月から再び厚生年金ですが、3月の1か月分は、国民年金の保険料を自分で納める月になります。市区町村で第1号被保険者の届出をして、3月分の保険料を納めてください。納めなければ未納になり、納付の期限から2年で時効です(国民年金法第102条第4項)。退職日を3月31日にしていれば、3月まで厚生年金の期間でした。
空白の期間の国民年金を前納したのですが、途中で入社しました。前納分はどうなりますか
入社した月以降の分は、厚生年金の被保険者期間になるので、国民年金の保険料は納める必要がなかったことになり、還付の対象です。日本年金機構の案内では、月の途中で入社すればその時点で第2号被保険者になるとされています。前納した保険料のうち、厚生年金の期間と重なった月の分は還付されます。通常は日本年金機構から通知が届き、請求の書類を出す形です。通知が来なければ、年金事務所に問い合わせてください。国民年金法第102条第4項により、還付を受ける権利は2年で時効によって消滅するので、放置しないでください。
転職先の資格取得の届出が遅れていて、記録に空白があります。どうすればよいですか
転職先の担当部門に、資格取得の届出の日付を確かめてください。厚生年金保険法第27条により、資格取得の届出は事業主が行います。届出が遅れていても、資格取得日(入社日)に遡って被保険者期間になるのが通常なので、届出が処理されれば記録は埋まります。その間に自分で国民年金の保険料を納めていた月があれば、重なりとして還付の対象です。ねんきんネットで記録を確かめ、埋まっていなければ転職先と年金事務所の両方に問い合わせてください。放置すると、還付の2年の時効に関わることがあります。