制度とお金 / 任用
外郭団体への転籍
財政課で働いていると、外郭団体——自治体が出資する株式会社、一般財団法人、公社、地方独立行政法人など——の予算や経営の資料を見る機会が多くあります。地方自治法第221条により、自治体の長は出資法人などの予算の執行を調査でき、財政課はその窓口になることが多いからです。
その外郭団体に、公務員を退職して職員として移るのが「転籍」です。派遣(身分を保ったまま、または戻る前提)とは違い、転籍は退職して外郭団体の職員になるので、身分は非公務員に変わり、戻る約束はありません。定年の前後や、役職定年の時期に、外郭団体の職員や役員として迎えられる形が典型ですが、若い世代が外郭団体に転職する例もあります。
この記事では、外郭団体への転籍の仕組み、退職手当、再就職者の働きかけの規制と条例の届出、外郭団体の処遇と安定性、民間への転職との比較を整理します。外郭団体の処遇は団体ごとの規程によるので、転籍を考える方は、団体の就業規則と、自治体の退職管理の条例で確かめてください。
派遣と転籍——何が違うか
| 項目 | 派遣(職員派遣・退職派遣) | 転籍 |
|---|---|---|
| 根拠 | 公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律 | 法律上の制度ではなく、退職と、外郭団体への就職 |
| 身分 | 職員派遣は職員のまま。退職派遣はいったん退職するが再採用の約束がある | 退職して非公務員。戻る約束はない |
| 期間 | 派遣の期間(取決め・条例)。退職派遣は3年以内 | 外郭団体の雇用の条件による |
| 退職手当 | 職員派遣は復帰後に通算。退職派遣は再採用後に通算 | 退職の時点で支給(退職の事由による支給率) |
| 共済 | 職員派遣は組合員のまま。退職派遣は長期給付のみ継続 | 外郭団体の健康保険・厚生年金 |
| 典型 | 在職中の一定の期間、法人の業務に従事 | 定年の前後、役職定年の時期、または若い世代の転職 |
派遣は「行って、戻る」、転籍は「辞めて、移る」です。転籍は、法律上は民間企業への転職と同じ「退職と就職」で、相手が外郭団体であることが特徴です。
退職手当——退職の事由で決まる
| 退職の時期 | 退職手当の扱い(一般的な条例) |
|---|---|
| 定年の前に自己都合で退職して転籍 | 自己都合退職の支給率 |
| 60歳以降に退職して転籍 | 退職事由を定年退職として算定する経過措置(国の例、自治体も準じる) |
| 定年退職の後に転籍 | 定年退職の支給率 |
| 勧奨退職として転籍 | 自治体の勧奨退職の制度による(外郭団体への転籍を勧奨の形で行う運用がある場合) |
転籍は退職なので、退職手当は退職の時点で支給され、外郭団体での勤務は退職手当の対象外です。外郭団体の退職金の制度は団体の規程によります。
再就職者の働きかけの規制と、条例の届出
外郭団体への転籍は、自治体と密接な関係を持つ団体への再就職なので、地方公務員法の退職管理の規定が直接に効きます。
| 規定 | 内容 | 転籍での意味 |
|---|---|---|
| 第38条の2第1項 | 離職後2年間、離職前5年間に在職した組織の役職員に対し、離職前5年間の職務に属する契約等事務に関し、職務上の行為を要求・依頼してはならない | 外郭団体は自治体と契約・補助金・委託の関係を持つことが多く、転籍後に古巣に働きかける場面が生じやすい。規制の対象になる行為を、転籍の前に整理する |
| 第38条の2第5項 | 在職中に自らが決定した契約・処分については、期間の限定なく規制 | 財政課で外郭団体への補助金や委託の決定に関わった方は、その契約・処分について期間なく規制 |
| 第38条の6 | 自治体は条例で、退職者の再就職の届出の制度を設けられる | 外郭団体への再就職は、条例の届出の対象になっていることが多い(管理職などが対象) |
外郭団体の職員として、自治体との契約・補助金・委託の業務を担当することは、第38条の2の規制と正面から重なります。転籍後の業務の分担を、団体と自治体の両方に確かめて、規制に触れない形にする必要があります。
外郭団体の処遇と安定性——確かめること
| 項目 | 確かめること |
|---|---|
| 雇用の形態 | 正職員か、有期の契約か、役員か。役員は委任契約で任期がある |
| 給与 | 団体の給与規程。自治体の給料表に準じている団体と、独自の体系の団体がある。公務員時代より下がることが多い |
| 退職金 | 団体の退職金の制度の有無と算定 |
| 社会保険 | 健康保険・厚生年金(団体が加入)。共済ではなくなる |
| 定年・継続雇用 | 団体の定年と継続雇用の条件(高年齢者雇用安定法の適用) |
| 団体の財務 | 自治体の出資・補助・委託に依存する団体は、自治体の財政と方針の影響を受ける。財政課で見ていた団体の財務の資料が、転籍先の安定性の判断の材料になる |
| 団体の見直し | 外郭団体の統廃合や見直しは自治体の方針で行われる。転籍先の団体が見直しの対象になっていないか |
財政課の経験は、外郭団体の財務と安定性を判断する材料になります。在職中に見ていた団体の予算・決算・経営の資料は、転籍先を選ぶときの、他の職員にはない判断の材料です(ただし、非公開の内部情報を転籍の交渉に使うことは守秘義務の対象です)。
民間への転職との比較
| 項目 | 外郭団体への転籍 | 民間への転職 |
|---|---|---|
| 業務 | 自治体に近い業務。公務員の経験がそのまま生きる | 業界により幅がある。経験の翻訳が要る |
| 給与 | 自治体の給料表に準じる団体が多く、公務員時代より下がることが多い | 業界と企業により幅がある。上がることも下がることもある |
| 安定性 | 自治体の出資・補助に依存。自治体の方針の影響を受ける | 企業の業績による |
| 第38条の2 | 自治体との契約・補助金の関係が深く、規制が正面から効く | 自治体と取引のある企業なら同様に効く |
| 経歴 | 「自治体の関連団体」として、外の経験としての価値は限定的 | 民間の経験として、その後の選択肢が広がる |
| 向いている | 定年の前後に、自治体の関連の業務を続けたい | 経験を外で生かしたい、その後の選択肢を広げたい |
外郭団体への転籍は、「辞めて自治体の近くに残る」形で、民間への転職とは、その後の経歴の広がりが違います。定年の前後の選択としては合理的ですが、若い世代が長い期間を見据えて選ぶ場合は、民間への転職と並べて考える価値があります。
転職するとどうなるか
外郭団体への転籍を考えている方にとって、効いてくる点は3つです。
1. 転籍は退職。退職手当は退職の時点で、身分は非公務員に
派遣とは違い、戻る約束はありません。団体の処遇と安定性を確かめてください。
2. 第38条の2の規制が正面から効く
自治体との契約・補助金・委託の業務が規制と重なります。自らが決定したものは期間なく規制されます。
3. 民間への転職と、経歴の広がりが違う
「辞めて近くに残る」形です。定年の前後には合理的ですが、若い世代は民間への転職と並べて考えてください。
手続きと期限
| 順序 | 手続き | 時期 | 場所 |
|---|---|---|---|
| 転籍を考えたら | 団体の雇用の形態、給与、退職金、社会保険、定年、財務を確かめる | 最初に | 団体、自治体の出資法人の公表資料 |
| 同時に | 在職中に自分が決定に関わったその団体との契約・補助金・委託を書き出す | 最初に | 自分で |
| 退職の前 | 自治体の退職管理の条例で、届出の要否を確かめる | 退職前 | 人事の担当課 |
| 退職 | 退職手当の受取り。共済から団体の健康保険・厚生年金へ | 退職日 | 人事の担当課、共済組合 |
| 転籍後 | 第38条の2の規制に触れる業務(自治体との契約等事務に関する働きかけ)から外れる形を団体と確かめる | 入社時 | 団体 |
| 離職後2年間 | 離職前5年間の組織の役職員への契約等事務に関する働きかけをしない | 2年間 | ── |
誤解されやすい点
「外郭団体への転籍は派遣と同じ」と思い込む
転籍は退職して非公務員になる形で、戻る約束はありません。派遣は身分を保つか、戻る前提です。
「外郭団体なら第38条の2は関係ない」と思い込む
自治体と密接な関係を持つ団体なので、規制が正面から効きます。自らが決定した契約・補助金は期間なく規制されます。
「外郭団体の処遇は公務員と同じ」と思い込む
団体の規程によります。給料表に準じる団体もありますが、公務員時代より下がることが多く、退職金・定年も団体ごとです。
「外郭団体は安定している」と思い込む
自治体の出資・補助に依存し、統廃合や見直しの対象になることがあります。財務と方針を確かめてください。
まとめ
- 外郭団体への転籍は、公務員を退職して自治体の出資法人・関連団体の職員になる形で、身分は非公務員に変わり、戻る約束はありません。派遣(公益的法人等への派遣法)とは違います
- 退職手当は退職の時点で支給され、退職の事由(自己都合、60歳以降、定年、勧奨)により支給率が変わります
- 第38条の2の働きかけの規制が正面から効きます。自治体との契約・補助金・委託の業務が規制と重なり、在職中に自らが決定したものは期間なく規制されます。条例の届出の対象になることも多いです(第38条の6)
- 団体の雇用の形態、給与、退職金、社会保険、定年、財務、見直しの方針を確かめてください。財政課の経験は団体の財務を判断する材料です
- 民間への転職とは経歴の広がりが違います。定年の前後には合理的、若い世代は民間と並べて比べてください
- 在職中に自分が決定に関わったその団体との契約・補助金・委託を書き出し、転籍後の業務が重ならない形を確かめてください
よくある質問
財政課でその団体への補助金の査定をしていました。転籍しても問題ありませんか
転籍自体を禁じる規定はありませんが、第38条の2の規制が及ぶ範囲を整理し、転籍後の業務が重ならない形にする必要があります。第38条の2第1項により、離職後2年間、離職前5年間に在職した組織(財政課を含む自治体の執行機関の組織)の役職員に対し、離職前5年間の職務に属する契約等事務(その団体への補助金の交付決定など)に関し、職務上の行為の要求・依頼はできません。さらに第5項により、在職中に自らが決定した処分(補助金の交付決定を自らが決定した場合)については、期間の限定なく規制されます。財政課の査定は、決定の前段階の審査であることが多く、「自らが決定した」に当たるかは決裁の権限によりますが、補助金に関する業務が離職前5年間の職務に属することは明らかなので、転籍後にその団体の補助金の申請・協議を自治体に対して行う業務を担当すれば、規制に触れます。転籍先の団体に、補助金・契約に関する自治体への働きかけの業務から外れる形を確かめ、自治体の退職管理の条例で届出の要否を確かめてください。団体の側でも、元職員の配置に配慮する運用があることが多いです。
外郭団体の給与は、公務員時代と比べてどうなりますか
団体の給与規程によりますが、自治体の給料表に準じた体系で、公務員時代より下がることが多いです。転籍の前に、団体の規程で確かめてください。外郭団体の給与は、団体ごとの規程で定められ、自治体の一般行政職の給料表に準じた体系を採る団体、独自の体系を採る団体、役員として委任契約による報酬とする形があります。定年の前後の転籍では、役職定年後の給与の水準や、60歳以降の7割水準の措置に近い額になることが多く、公務員時代の管理職の給与からは下がります。若い世代の転籍では、団体の給料表の格付けによりますが、公務員時代の号給を引き継ぐ扱いではなく、団体の規程による格付けになります。退職金は団体の制度によるので、有無と算定を確かめてください。社会保険は団体の健康保険と厚生年金で、共済ではなくなります。転籍先の団体に「雇用の形態、給与の格付けと年間の見込額、退職金、定年と継続雇用」を確かめ、公務員として続けた場合の見込みと、民間への転職の条件と、同じ紙に並べて判断してください。
外郭団体に転籍した後、民間に転職することはできますか
できます。外郭団体の職員は非公務員なので、転職に地方公務員法の制限はなく、団体の就業規則によります。転籍後の外郭団体の職員は、自治体を退職した後の身分なので、地方公務員法の服務(営利企業への従事等の制限など)は及ばず、転職の自由は民間の労働者と同じです。ただし、自治体を離職してからの期間が2年に満たない場合は、第38条の2の働きかけの規制が続いており、民間に転職した後も、離職前5年間の組織の役職員への契約等事務に関する働きかけはできません(自らが決定したものは期間なく)。また、外郭団体で知り得た情報についても、団体の就業規則の守秘義務が及びます。経歴の面では、外郭団体での経験は「自治体の関連団体での業務」として、自治体向けの企業では自治体の内側と外側の両方を知る人材として評価される一方、業界によっては公務員の経験の延長と見られることもあります。外郭団体を経て民間に転職する場合、外郭団体での業務の実績(経営、財務、事業の運営)を具体的に示せるようにしておくと、経歴の価値が伝わりやすくなります。