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制度とお金 / 任用

経験者採用で公務員に戻る道

「公務員を辞めたら、二度と戻れない」——転職を迷う公務員が、最後に口にする不安です。この不安は、制度の面では正しくありません。民間に転職した後、経験者採用(社会人経験者採用)で公務員に戻る道があり、多くの自治体が民間の職務経験を持つ人を対象とする採用試験を行っています。財政課の経験に民間の専門性を加えた人は、元の自治体でも、他の自治体でも、経験者採用の候補になります。

ただし、経験者採用は「復職」ではなく「新規採用」です。任用の原則(成績主義、競争試験または選考)に基づく採用のやり直しで、条件付採用から始まり、前の在職期間は退職手当の勤続期間に通算されず、給与は前歴の換算で決まります。

この記事では、経験者採用の法律上の位置づけ、新規採用として扱われることの意味、元の自治体と他の自治体の違い、財政課の経験と民間の経験がどう評価されるか、応募の進め方を整理します。経験者採用の有無、要件、試験の内容は自治体ごとなので、応募を考える方は募集の要項で確かめてください。任期付職員の道は任期付職員の制度に書いています。

法律上の位置づけ——採用の一形態

条文内容経験者採用での意味
第15条(任用の根本基準)任用は、受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づいて行う経験者採用も成績主義に基づく。前職の経験は能力の実証の材料
第17条の2(採用の方法)人事委員会を置く自治体では競争試験(規則で定める場合は選考)、置かない自治体では競争試験または選考経験者採用は、競争試験(経験者枠の採用試験)または選考で行われる
第19条(受験の資格要件)職務の遂行上必要であって最少かつ適当な限度の客観的かつ画一的な要件年齢と職務経験の年数が要件として定められる(民間企業等での職務経験○年以上など)
第22条(条件付採用)職員の採用は、全て条件付のものとし、6か月の期間を良好な成績で勤務したときに正式のものとなる経験者採用でも条件付採用から始まる。元の職員であっても同じ

「経験者採用」は法律上の用語ではなく、第19条の受験の資格要件として職務経験を定めた採用試験・選考の実務上の呼び方です。制度としては、新規採用と同じ枠組みです。

「新規採用」として扱われることの意味

項目経験者採用での扱い
条件付採用6か月の条件付採用から始まる(第22条)。元の職員であっても免除されない
給与採用時の格付けは、前歴の換算(民間の職務経験と前の公務員の在職期間を、自治体の給与条例・規則に基づき換算)で決まる。前の号給をそのまま引き継ぐ扱いではない
退職手当前の公務員の在職期間は通算されない。国家公務員退職手当法第7条は「引き続いた在職期間」を勤続期間とし、退職して民間に移り、再び採用された場合は引き続いていない。自治体の条例も同様。経験者採用の日から新たに勤続期間を数える
共済再び共済の組合員となる。年金の記録は、前の共済の期間、民間の厚生年金の期間、再採用後の共済の期間を通算
昇任経験者採用の職員の昇任は、自治体の運用による。前の在職時の職位に戻る扱いではない
配属経験者採用の職種と区分による。財政課に戻るとは限らない

「戻る」という言葉のイメージと違い、経験者採用は白紙からの採用です。退職手当の勤続期間が通算されない点は、資金の見込みに直接効くので、応募の前に理解しておいてください。

元の自治体と、他の自治体

項目元の自治体の経験者採用他の自治体の経験者採用
応募禁じる規定はない。募集の要件(年齢、職務経験)を満たせば応募できる同じ
選考での評価前の在職の実績が知られている。歓迎される場合と、慎重に見られる場合がある財政課の経験と民間の経験の両方が、他の応募者にはない材料として評価される
第38条の2民間に在職中は元の自治体の役職員への働きかけの規制が及ぶ。採用されれば自治体の職員に戻るので規制の対象ではなくなる元の自治体との関係で規制が続く(離職後2年間、自ら決定したものは期間なく)
人間関係前の同僚・上司との関係が続く。転職の経緯によっては働きにくさがある白紙から始められる
典型地元に戻る、家族の事情、元の自治体の経験者枠が財政・DXなどの専門性を求めている配偶者の転勤、地元以外への移住、専門性を求める自治体への応募

元の自治体に戻ることを禁じる規定はなく、実際に戻った例もありますが、他の自治体の経験者採用のほうが、財政課の経験と民間の経験の組合せが「外から来た専門性」として評価されやすいというのが、面談での実感です。

財政課の経験と民間の経験は、どう評価されるか

組合せ評価されやすい経験者採用の枠
財政課の経験+民間の会計・監査財政・会計の専門職の枠、公会計の担当、行政改革
財政課の経験+民間のDX・システムDX推進の枠、情報システムの担当
財政課の経験+民間の営業・企画一般の事務職の経験者枠(民間の職務経験○年以上)。財政の経験は配属の希望の材料
財政課の経験+民間の金融財政・資金の担当、公営企業の経営

経験者採用の試験では、民間での職務経験が要件で、前の公務員の経験は「加えて評価される材料」です。民間で何をしたかを、要件に沿って説明できることが先で、財政課の経験はそれを補強します。

応募の進め方

順序すること
民間に転職する前「将来、経験者採用で公務に戻る可能性」を頭に置き、民間で積む専門性を選ぶ。年齢の要件(経験者採用は年齢の上限を設けることが多い)を確かめておく
民間で職務経験の年数と内容を、経験者採用の要件に沿って記録する。資格、実績、役職
募集を探す自治体の採用情報で、経験者採用(社会人経験者、民間企業等職務経験者)の募集を見る。職種、年齢、経験の年数、試験の内容
応募要件を満たすことを確かめ、民間の経験を中心に、財政課の経験を補強の材料として書く
試験筆記(教養、論文)、面接、適性検査など、自治体による。前の公務員の経験は面接で問われる
採用条件付採用6か月。給与は前歴の換算。退職手当は新たに起算

転職するとどうなるか

転職を考えている方にとって、経験者採用で効いてくる点は3つです。

1. 辞めても戻る道がある

経験者採用は多くの自治体にあり、元の自治体にも他の自治体にも応募できます。転職は片道切符ではありません。

2. 戻っても白紙からの採用

条件付採用、前歴の換算、退職手当の勤続期間の新たな起算。前の在職の続きではありません。

3. 民間で積む専門性が、戻る道の幅を決める

財政課の経験+民間の専門性が、経験者採用と任期付職員の要件に合います。年齢の要件も確かめてください。

手続きと期限

順序手続き時期場所
転職の前経験者採用の年齢の要件と職務経験の要件の一般的な水準を確かめる転職前自治体の採用情報
民間で職務経験の年数と内容を記録。専門性を積む転職後転職先
戻ることを考えたら元の自治体と他の自治体の経験者採用の募集(職種、年齢、経験、試験)を確かめる募集の時期自治体の採用情報
応募要件の確認、書類、試験募集の時期人事委員会等
採用条件付採用、給与の格付け(前歴の換算)、共済の再加入。退職手当は新たに起算採用の日人事の担当課

誤解されやすい点

「公務員を辞めたら二度と戻れない」と思い込む

経験者採用(社会人経験者採用)で戻る道があり、元の自治体にも他の自治体にも応募できます。

「元の自治体に戻れば、前の号給と勤続期間が続く」と思い込む

新規採用として、条件付採用、前歴の換算、退職手当の勤続期間の新たな起算です(第22条、退職手当法第7条の「引き続いた在職期間」)。

「経験者採用は元の職員を優先する」と思い込む

成績主義(第15条)に基づく競争試験または選考で、元の職員の優先の規定はありません。

「財政課の経験だけで経験者採用に通る」と思い込む

要件は民間の職務経験で、財政課の経験は補強の材料です。民間で何をしたかが先です。

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まとめ

よくある質問

元の自治体の経験者採用に応募したら、前の同僚に迷惑がかかりますか

制度上は問題なく、実際に元の自治体に戻った例もあります。受け取られ方は転職の経緯と自治体の風土によるので、退職時の関係を丁寧にしておくことが、戻る道を残します。経験者採用は、地方公務員法第15条の成績主義に基づく採用で、元の職員であることを理由に応募を禁じる規定も、優先する規定もありません。元の自治体が財政・DX・公会計などの専門性を求めて経験者採用を行っていれば、財政課の経験に民間の専門性を加えた方は、要件に合う候補です。一方で、退職の経緯(円満な退職か、引継ぎの不備があったか)は、元の職場に記憶されており、選考の面接で前の上司や同僚が関わることもあります。退職時に引継ぎを丁寧に行い、退職後も前職を貶める言動をしなかった方は、戻る道が残りやすいです。民間に在職中は、元の自治体の役職員への働きかけの規制(第38条の2)が及ぶので、経験者採用の応募は正規の募集に対して行い、前の上司に個人的に働きかける形は避けてください。元の自治体に戻ることに迷いがあるなら、他の自治体の経験者採用のほうが、白紙から始められます。

経験者採用で戻った場合、給与と退職手当はどうなりますか

給与は前歴の換算で採用時の格付けが決まり、退職手当の勤続期間は採用の日から新たに起算されます。前の号給と勤続期間の続きではありません。給与は、自治体の給与条例・規則に基づき、民間の職務経験と前の公務員の在職期間を、職務の内容に応じた換算率で経験年数に換算し、採用時の級・号給を決めます(前歴の換算)。前の在職期間が全て同じ率で換算されるとは限らず、前の号給をそのまま引き継ぐ扱いではありません。退職手当は、国家公務員退職手当法第7条が勤続期間を「引き続いた在職期間」としており、自治体の条例も同様なので、退職して民間に移り、再び採用された場合は引き続いておらず、前の在職期間は通算されません。前の退職の際に退職手当を受け取っているので、二重に計算されない仕組みです。共済の年金は、前の共済の期間、民間の厚生年金の期間、再採用後の共済の期間が通算され、空白は生じません。応募の前に、募集の要項と人事の担当課で「前歴の換算の考え方と採用時の給与の見込み、退職手当の起算」を確かめて、民間で続けた場合の見込みと並べてください。

民間に転職して何年くらいで経験者採用に応募できますか

自治体の募集の要件によりますが、民間企業等での職務経験の年数(数年以上など)と年齢の上限が定められていることが多いです。募集の要項で確かめてください。経験者採用の受験の資格要件は、地方公務員法第19条により、職務の遂行上必要な最少の限度で定められ、多くの自治体で「民間企業等における職務経験○年以上」と「年齢の上限」を要件にしています。職務経験の年数の数え方(正社員の期間に限るか、複数の企業の通算を認めるか、前の公務員の期間を含めるか)は自治体ごとで、公務員の期間を職務経験に含める自治体もあれば、民間の経験に限る自治体もあります。年齢の上限は、自治体により幅があり、上限を撤廃した自治体もあります。転職の前に、戻る可能性のある自治体(元の自治体、地元の自治体、専門性を求める自治体)の経験者採用の要件を確かめておくと、民間で積むべき年数と専門性の見当がつきます。任期付職員(任期付職員の制度)は、経験者採用とは別の道で、専門的な知識経験が要件なので、両方を視野に入れると選択肢が広がります。

出典

  1. 地方公務員法 第15条(任用の根本基準)/第17条の2(採用の方法)/第19条(受験の資格要件)/第22条(条件付採用)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)|e-Gov法令検索
  2. 国家公務員退職手当法 第7条(勤続期間の計算)|e-Gov法令検索

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)

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