制度とお金 / 任用
出向・派遣の仕組み
財政課にいると、「県に出向していた」「国に派遣されていた」「県から市に来ている」という職員に出会います。出向・派遣は、公務員が身分を保ったまま、または一時的に身分を変えて、他の組織で働く仕組みで、根拠が複数あり、根拠ごとに身分・給与・退職手当の扱いが違います。
転職を考える方にとって、出向・派遣は2つの意味を持ちます。辞めずに外の組織を経験する道として、そして、転職先で「出向」「派遣」の経歴をどう説明するかという材料として。民間企業の「出向」と公務員の「派遣」は、言葉は似ていても仕組みが違います。
この記事では、公務員の出向・派遣の4つの根拠(自治体間の派遣、国への出向、公益的法人等への派遣、研修としての派遣)を並べ、身分・給与・退職手当の扱い、転職との関係を整理します。出向・派遣は自治体の人事の判断で行われ、本人の希望だけで決まるものではないので、希望は人事の担当課に伝えたうえで、自治体の判断を待つ形になります。公益的法人等への派遣は公益的法人等への派遣に書いています。
4つの根拠を並べる
| 形 | 根拠 | 派遣先 | 身分 | 給与 |
|---|---|---|---|---|
| 自治体間の派遣 | 地方自治法第252条の17 | 他の自治体(県から市、市から県、市から市など) | 派遣元と派遣先の両方の職員の身分をあわせ有する | 給料・手当(退職手当を除く)・旅費は派遣先の負担。退職手当と退職年金・一時金は派遣元の負担 |
| 国への出向 | 法律上の「出向」の制度はなく、自治体を退職して国の職員に採用され、期間の後に国を退職して自治体に再採用される形(退職手当は通算の扱い) | 国の省庁 | 出向中は国家公務員 | 国の給与 |
| 公益的法人等への派遣 | 公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律 | 一般社団・財団法人、地方独立行政法人、出資株式会社など | 職員派遣は職員の身分のまま。退職派遣はいったん退職 | 職員派遣は原則として派遣先の報酬。退職派遣は特定法人の報酬 |
| 研修としての派遣 | 地方公務員法第39条(研修) | 国の機関、大学院、民間企業、他の自治体など | 職員の身分のまま(研修命令) | 自治体の給与 |
「出向」という言葉は、公務員の制度では法律上の用語ではありません。実務では、自治体間の派遣、国への出向(退職と採用)、公益的法人等への派遣、研修派遣を総称して「出向」「派遣」と呼んでいます。転職の場面で経歴を説明するときは、どの根拠に基づくものかを示すと正確です。
自治体間の派遣——第252条の17
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 要件 | 自治体の長・委員会・委員が、事務の処理のため特別の必要があると認めるときに、他の自治体に職員の派遣を求める |
| 身分 | 派遣された職員は、派遣を受けた自治体の職員の身分をあわせ有する(両方の職員) |
| 給与 | 給料、手当(退職手当を除く)、旅費は派遣先の負担 |
| 退職手当・年金 | 派遣元の負担。長期の派遣などの特別の事情があるときは、協議により負担を定める |
| 典型 | 県から市への財政・税務の応援、災害の復旧の応援、市町村合併の支援、市から県への研修的な派遣 |
財政課の職員が県に派遣される、県の職員が市の財政課に派遣される、という形はこの規定によるもので、身分は両方の職員、給与は派遣先、退職手当は派遣元という整理です。
国への出向——退職と採用の形
地方公務員が国の省庁で働く場合、法律上の「派遣」の規定はなく、自治体を退職して国家公務員として採用され、期間の満了で国を退職して自治体に再び採用される形が取られます。退職手当は、国と自治体の間で通算する扱い(引き続く在職として扱う)が、国家公務員退職手当法と自治体の条例で定められています。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 身分 | 出向中は国家公務員(一般職) |
| 給与 | 国の給与法による |
| 共済 | 国家公務員共済組合に加入。自治体に戻れば地方公務員共済に戻る(年金の記録は通算) |
| 退職手当 | 出向のための退職では支給されず、自治体に戻った後の退職の際に通算して計算 |
| 服務 | 出向中は国家公務員法の服務(政治的行為の制限、再就職規制など、地方より厳しい規定もある) |
「国に出向」は、形式上は退職と採用を繰り返すので、自治体に戻った後の退職手当と年金は通算されますが、出向中に転職を考える場合は、国家公務員法の再就職規制(在職中の利害関係企業等への求職の禁止など)が及ぶ点に注意が要ります。
民間企業への派遣——国と地方の違い
| 区分 | 仕組み |
|---|---|
| 国家公務員 | 国と民間企業との間の人事交流に関する法律により、国の職員が民間企業(株式会社など)に派遣される「交流派遣」と、民間企業の従業員が国に採用される「交流採用」の制度がある |
| 地方公務員 | 民間企業への派遣を定めた法律はなく、研修(地方公務員法第39条)として民間企業に派遣する形(研修派遣)が一般的。給与は自治体が支給し、身分は職員のまま |
地方公務員が民間企業で働く経験は、研修派遣の形で行われます。期間は自治体の運用によるので、数か月から1〜2年程度が多く、対象の企業と職員は自治体が選びます。研修としての派遣なので、派遣先の企業への転職は、派遣の趣旨と再就職者の働きかけの規制の両面で慎重に考える必要があります。
転職との関係
| 場面 | 内容 |
|---|---|
| 辞めずに外を経験する | 自治体間の派遣、国への出向、研修派遣は、身分を保ったまま(または戻る前提で)他の組織を経験できる。希望を人事に伝えることはできるが、決めるのは自治体 |
| 出向・派遣の経歴の説明 | 転職先には、根拠(県への派遣、国への出向、研修派遣)と、派遣先での業務・役割を事実で説明する。「出向」の一言では民間の出向と混同される |
| 出向中の転職 | 国への出向中は国家公務員法の再就職規制が及ぶ。自治体に戻ってから転職を考えるのが、規制の面でも、経歴の面でも自然 |
| 派遣先への転職 | 研修派遣の先の企業、公益的法人等への派遣の先の法人にそのまま転職することは、派遣の趣旨と第38条の2の働きかけの規制から慎重に |
| 経歴の価値 | 県・国・法人・民間での経験は、転職先で「複数の組織を知る人材」として評価される。財政課の経験と組み合わせると、自治体向けの業務での価値が上がる |
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、出向・派遣で効いてくる点は3つです。
1. 辞めずに外を経験する道がある
自治体間の派遣、国への出向、研修派遣。希望は伝えられますが、決めるのは自治体です。
2. 経歴は根拠と役割で説明する
「出向」の一言では民間の出向と混同されます。県・国・法人・民間での業務と役割を事実で。
3. 派遣先への転職は慎重に。出向中の転職も規制に注意
国への出向中は国家公務員法の再就職規制が及びます。自治体に戻って一定の期間を置いてから。
手続きと期限
| 順序 | 手続き | 時期 | 場所 |
|---|---|---|---|
| 外を経験したいと考えたら | 自治体の派遣・出向・研修派遣の運用(対象、期間、希望の申出の方法)を確かめる | 早めに | 人事の担当課 |
| 希望を伝える | 人事の面談や自己申告で、派遣・出向の希望を伝える | 人事の異動の時期の前 | 所属、人事の担当課 |
| 派遣・出向が決まったら | 身分、給与、退職手当、共済の扱いを確かめる(根拠により違う) | 派遣の前 | 人事の担当課、共済組合 |
| 派遣中 | 派遣先の業務に従事。国への出向中は国家公務員法の服務 | 期間中 | 派遣先 |
| 復帰 | 自治体に戻る(国への出向は再採用) | 期間の満了 | 人事の担当課 |
| 転職を考えるなら | 経歴を根拠と役割で書き出す。派遣先への転職は一定の期間を置いてから | 復帰後 | ── |
誤解されやすい点
「公務員の出向は民間の出向と同じ」と思い込む
法律上の「出向」の制度はなく、自治体間の派遣、退職と採用(国)、公益的法人等への派遣、研修派遣のいずれかです。身分と給与の扱いが違います。
「国への出向中も地方公務員の身分」と思い込む
形式上は自治体を退職して国家公務員に採用される形で、出向中は国家公務員法の服務が及びます。
「自治体間の派遣は退職手当も派遣先の負担」と思い込む
給料・手当・旅費は派遣先、退職手当と年金は派遣元の負担です(第252条の17第2項)。
「派遣先の企業にそのまま転職できる」と思い込む
法律上の制限はありませんが、派遣の趣旨と第38条の2の働きかけの規制から慎重に。
まとめ
- 公務員の出向・派遣に法律上の「出向」の制度はなく、自治体間の派遣(地方自治法第252条の17)、国への出向(退職と採用の形)、公益的法人等への派遣(派遣法)、研修としての派遣(地方公務員法第39条)のいずれかです
- 自治体間の派遣は両方の職員の身分をあわせ有し、給料・手当・旅費は派遣先、退職手当と年金は派遣元の負担です(第252条の17第2項)
- 国への出向は形式上は自治体の退職と国の採用で、出向中は国家公務員法の服務(再就職規制を含む)が及び、退職手当と年金は通算されます
- 地方公務員の民間企業への派遣は研修(第39条)の形で、国の交流派遣(人事交流法)のような法律の制度はありません
- 転職先には、根拠と派遣先での業務・役割を事実で説明すると、複数の組織を知る人材としての価値が伝わります
- 派遣先への転職は、派遣の趣旨と第38条の2の働きかけの規制から慎重に。自治体に戻って一定の期間を置いてから
よくある質問
県への派遣中です。派遣先の県の職員として転職(県の採用試験を受験)できますか
派遣中に県の採用試験を受けることを禁じる規定はありませんが、派遣は両方の身分をあわせ有する形なので、派遣元との関係と派遣の趣旨から、派遣の期間の満了後に考えるのが自然です。地方自治法第252条の17による派遣は、派遣元の職員の身分を保ったまま、派遣先の職員の身分をあわせ有する形で、派遣元の自治体の事務の処理のための派遣です。派遣中に派遣先の採用試験(経験者採用など)を受けて採用されれば、派遣元を退職して派遣先の職員になることは制度上可能ですが、派遣元の自治体にとっては、派遣した職員を失う形になり、派遣の趣旨に反すると受け取られます。実務上は、派遣の期間を満了して派遣元に戻り、一定の期間を置いてから、派遣先の経験者採用に応募する形が、双方との関係を保つ形です。派遣先での業務の実績は、経験者採用の選考で評価されるので、派遣中は業務に専念して実績を作り、応募は戻ってから、という順序が有利です。派遣先の県から「来ないか」と誘われた場合も、派遣元の人事の担当課に相談してから決めてください。
国に出向していた経歴は、転職先でどう評価されますか
国の制度の運用を内側から見た経験として、自治体向けの企業、シンクタンク、コンサルティングで評価されます。根拠と役割を事実で説明してください。国への出向は、形式上は自治体を退職して国家公務員として採用され、国の省庁で制度の企画・運用に携わる形です。財政課の職員が総務省や財務省に出向し、地方財政の制度の運用や、交付税の算定、財政の分析に携わる例があり、この経験は、自治体の側から見た制度と、国の側から見た制度の両方を知る人材として、自治体向けの業務で価値があります。転職先への説明は、「○年から○年まで、○○省に出向し、○○の業務を担当。自治体に戻って財政課で○○を担当」のように、期間、省庁、業務、役割を事実で示します。「出向」の一言では、民間の関連会社への出向と混同されるので、国の省庁での制度の業務であることを明示してください。出向中に知った非公開の情報は守秘義務(国家公務員法と地方公務員法の両方)の対象なので、公表されている制度の範囲で語ります。
民間企業への研修派遣に行きたいです。どうすればよいですか
自治体の研修派遣の制度(対象の企業、期間、選考の方法)を人事の担当課で確かめ、希望を伝えてください。決めるのは自治体です。地方公務員の民間企業への派遣は、国の官民人事交流法のような法律の制度がなく、地方公務員法第39条の研修として、自治体が企業と協定を結んで職員を派遣する形が一般的です。対象の企業(自治体と関係の深い企業、地域の企業、大手企業など)、期間(数か月から1〜2年程度)、対象の職員(年齢、職種、経験)、選考の方法は自治体の運用によります。希望を伝える際は、「民間企業の業務の進め方を学び、財政課の業務に生かしたい」のように、公務に生かす目的で伝えるのが自然です。派遣中は職員の身分のままで、給与は自治体が支給し、服務は地方公務員法が及びます。派遣先の企業への転職は、派遣の趣旨と、再就職者の働きかけの規制(第38条の2)の両面で慎重に考える必要があり、派遣の直後の転職は避け、自治体に戻って一定の期間を置いてから、というのが安全な形です。研修派遣で得た民間の経験は、他の転職先でも「民間の業務を知る公務員」として評価されます。