制度とお金 / 失業給付と税金
「退職手当が失業給付の代わり」の正確なところ
「公務員に失業給付がないのは、退職手当がその代わりだからです」。人事担当課でも、転職の情報サイトでも、この説明をよく見かけます。
この説明は、半分は正しく、半分は正しくありません。そして正しくないほうの半分を信じたまま辞めると、退職後の資金計画がずれます。
条文に戻って、どこまでが成り立つのかを分けて確認します。
「代わり」という説明が成り立つ部分
雇用保険法第6条は適用除外を列挙していて、その第6号が公務員に関わります。除外の条件はこう書かれています。
> 国、都道府県、市町村その他これらに準ずるものの事業に雇用される者のうち、離職した場合に、他の法令、条例、規則等に基づいて支給を受けるべき諸給与の内容が、求職者給付及び就職促進給付の内容を超えると認められる者であつて、厚生労働省令で定めるもの
制度の設計思想としては、確かに「代わりがあるから除外する」という形になっています。退職手当という別の給付があり、その内容が求職者給付を超えると認められるから、雇用保険を重ねない。この限りで「代わりだから」という説明は、条文の構造を正しく言い当てています。
地方公務員の退職手当は、地方自治法第204条第2項により条例で支給されるものです。条文が「他の法令、条例、規則等に基づいて」と書いているのは、この条例による給付を含んでいます。
「代わり」という説明が成り立たない部分
ところが、実際の給付として並べると、性質がまるで違います。
| 雇用保険の基本手当 | 退職手当 | |
|---|---|---|
| 何に対する給付か | 失業していること | 勤続したこと |
| 失業が条件か | 条件になる | 条件にならない |
| 支払われ方 | 認定を受けて期間中に分割 | 原則として一括 |
| 再就職したら | 支給が止まる(就職促進給付に切り替わる) | 影響しない |
| 根拠 | 雇用保険法 | 条例(国は国家公務員退職手当法) |
いちばん大きい違いは、退職手当が「失業していること」を条件にしていないという点です。翌日から次の職場で働き始めても、退職手当は同じように支給されます。
つまり退職手当は、失業期間の生活を支えるために設計された給付ではありません。勤続に対する給付が、たまたま退職時にまとまって支払われるというだけです。「代わり」と言われて「では失業中の生活費として当てにできる」と考えると、そこで話がずれます。
さらに、金額の面でも噛み合いません。基本額は勤続期間の区分ごとの割合の合計で決まります(国家公務員退職手当法第3条)。勤続年数が短ければ、退職手当も当然に少なくなります。失業期間の長さとは何の関係もない基準で額が決まるので、短い勤続で辞めた人ほど「代わり」として機能しません。
本当に「代わり」に近い制度は別にある
では、失業していることを条件にした給付は公務員にはまったくないのか。あります。国家公務員退職手当法第10条の「失業者の退職手当」です。
条文の骨格はこうです。勤続期間12月以上(特定退職者にあっては6月以上)で退職した職員のうち、受け取った退職手当の額が、雇用保険の基本手当を受けたと仮定した場合の額に満たない者が、支給期間内に失業している場合に、その差額に相当する額を支給する。
この制度は、「退職手当が求職者給付を超える」という除外の前提が崩れる場合に備えたものです。設計の筋は通っています。除外の理由が成り立たない人には、成り立たない分を埋める。
ただし、実務上は次の点に注意が要ります。
- 失業していることが条件です。すぐ次の職場に移る場合は対象になりません
- 勤続期間の下限があります(12月以上、特定退職者は6月以上)
- 公共職業安定所での手続きが関わります。自動的に振り込まれるものではありません
- これは国家公務員の制度です。地方公務員は条例次第なので、自分の自治体の退職手当条例に同様の規定があるか確認が必要です(地方自治法第204条第3項)
自分の場合を、辞める前に計算しておく
抽象的な理解で終わらせず、数字を出しておくことをおすすめします。手順は次のとおりです。
- 例規集で自分の自治体の退職手当条例を開き、支給率の表を見る。勤続年数の区分ごとの割合が並んでいます
- 自分の勤続年数を、区分ごとに分けて積み上げる。合計額なので、全期間に最上位の割合が適用されるわけではありません
- 現在の給料月額を掛ける。基本額のおおよその見当がつきます
- 自己都合の場合の規定を確認し、乗じる割合を反映する
- そこから税を引く。退職所得には控除がありますが、ゼロにはなりません
- 退職後に自分で払うものを引く。健康保険、国民年金、そして前年所得に対して課される住民税です
ここまでやって残る額が、実際に空白期間に使える金額です。多くの方が、この計算をする前に「退職金があるから何とかなる」と判断しています。計算そのものは30分ほどで終わります。
共済の給付は「代わり」になるのか
もう一点、混同されやすいものを整理しておきます。共済組合の短期給付には傷病手当金などがありますが、これらは失業に対する給付ではありません。病気やけがで働けない場合の給付であり、次の職を探している期間を支えるものではありません。
退職して組合員でなくなれば、原則としてこれらの給付の対象からも外れます。任意継続組合員の制度を使う場合でも、受けられる給付の範囲は在職中と同じではありません。「共済があるから」という理由も、失業期間の備えにはなりません。
結局、どう理解しておけばよいか
整理すると、こうなります。
- 除外の理屈としては「代わり」で合っている。 雇用保険法第6条第6号はそう組まれています
- 給付の性質としては「代わり」ではない。 退職手当は失業を条件にしない、勤続への給付です
- 失業を条件にした給付は、失業者の退職手当のほうです。 ただし条件があり、地方公務員は条例次第です
この3つを分けて持っておけば、「代わりがあるから大丈夫」とも「何もないから不利」とも言わずに済みます。
言葉としての「代わり」が独り歩きしやすいのは、制度を作る側の理屈と、受け取る側の実感が、同じ言葉で語られてしまうからです。制度設計としては代替関係にあっても、手元に入るお金の性質はまったく別物です。この区別さえ持っていれば、どちらの説明を聞いても迷いません。
まとめ
- 雇用保険法第6条第6号は「退職手当などの給付が求職者給付を超えると認められるから除外する」という組み方で、除外の理屈としては「代わり」で合っています
- しかし退職手当は失業を条件にしない、勤続に対する給付です。翌日から働いても支給されます。失業期間の生活費として設計されたものではありません
- 勤続が短ければ退職手当も少なくなります。「代わり」として機能しない人がいます
- 失業を条件にした給付は「失業者の退職手当」(国家公務員退職手当法第10条)。ただし勤続期間の下限と手続きがあり、地方公務員は条例次第です
- 共済組合の短期給付も、失業に対する給付ではありません。備えとしては数えられません
- 実務上の結論は明確で、在職中に決めれば、この制度の差は関係なくなります
制度の全体像は公務員に雇用保険がない理由、退職手当の計算は退職手当の仕組みで扱っています。
よくある質問
退職手当と失業者の退職手当は、両方もらえるのですか
両方が別々に満額出るわけではありません。失業者の退職手当は、受け取った退職手当の額が基本手当相当額に満たない場合に、その差額を埋める仕組みです(国家公務員退職手当法第10条)。したがって、退職手当が十分にある方は対象になりません。勤続が短く退職手当が少ない方ほど、関係してくる制度です。
転職先が決まっている場合、失業者の退職手当は受けられますか
受けられません。条文が「失業している場合において」と定めているためです。この制度は、失業していることを条件にした給付です。すぐに次の職場へ移る方は対象外になります。逆に言えば、この制度を当てにする状況というのは、次が決まらないまま退職した状況ということです。
自分の自治体に同じ制度があるか、どう調べればよいですか
例規集で退職手当条例を開き、「失業者の退職手当」を検索してください。地方公務員の退職手当は条例で定められるため(地方自治法第204条第3項)、規定の有無や内容は自治体ごとに確認する必要があります。条文が見つからない場合や読み取りにくい場合は、人事担当課に「失業者の退職手当に相当する規定があるか」と照会するのが確実です。退職を前提にしなくても、制度の照会として聞ける内容です。