制度とお金 / 退職手当
退職手当の仕組み|何で金額が決まるのか
転職を考え始めたとき、多くの方が最初に気にするのが退職手当です。ところが、調べようとすると「◯年勤めれば◯◯万円」といった相場の話ばかりが出てきて、自分の場合がどうなるのかは分からないまま終わります。
理由ははっきりしています。地方公務員の退職手当は、法律で全国一律に決まっているものではなく、所属する自治体の条例で決まるからです。相場の記事が自分に当てはまるとは限りません。
この記事では、退職手当がどの規定で決まるのかを条文まで戻って整理し、そのうえで自分の額を自分で調べる方法を示します。金額そのものは自治体ごとに違うので、ここでは書きません。
退職手当の根拠は「条例」にある
地方自治法第204条は、普通地方公共団体が常勤の職員などに給料と旅費を支給しなければならないと定めたうえで、第2項で「普通地方公共団体は、条例で、前項の者に対し、扶養手当、地域手当……又は退職手当を支給することができる」としています。そして第3項が「給料、手当及び旅費の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない」と続きます。
さらに第204条の2は、こう定めています。
> 普通地方公共団体は、いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく条例に基づかずには、これをその議会の議員、第二百三条の二第一項の者及び前条第一項の者に支給することができない。
つまり、退職手当は条例がなければ1円も出ないし、条例に書いていない計算では出せない。裏を返せば、自分の退職手当は所属自治体の退職手当条例を読めば必ず分かるということです。
条例は各自治体の例規集で公開されています。庁内のポータルからも、多くの場合は外部の公式サイトからも読めます。「◯◯市 退職手当 条例」で検索して、支給率の表が載っている条を見てください。これが唯一確実な情報源です。
国の制度は、どう組まれているか
自治体の条例そのものは1,700通り以上あるので、ここでは比較の物差しとして国の制度を見ます。国家公務員退職手当法の形を知っておくと、自分の自治体の条例を読むときに、どこを見ればよいかが分かります。
国の退職手当は、基本額と調整額の2階建てです。
基本額は、退職日の俸給月額に、勤続期間に応じた割合(支給率)を掛けて計算します。第3条は、その割合を勤続期間で区分して次のように定めています。
| 勤続期間の区分 | 1年あたりの割合 |
|---|---|
| 1年以上10年以下の期間 | 100分の100 |
| 11年以上15年以下の期間 | 100分の110 |
| 16年以上20年以下の期間 | 100分の160 |
| 21年以上25年以下の期間 | 100分の200 |
| 26年以上30年以下の期間 | 100分の160 |
| 31年以上の期間 | 100分の120 |
調整額のほうは、第6条の4が定めています。基礎在職期間の各月について、その月の職の区分に応じた額を積み上げていく仕組みで、在職中どの職にどれだけいたかが反映されます。
そして第3条第2項が、自己都合等退職者については、第1項で計算した額にさらに一定の割合を乗じると定めています。傷病や死亡によらず、自分の都合で辞めた場合はここに当たります。
この表のいちばん大事な点
上の表を、もう一度見てください。
1年あたりの割合は、勤続年数に比例して増え続けるわけではありません。21年以上25年以下の期間が100分の200で最も厚く、26年以上30年以下では100分の160に下がり、31年以上では100分の120まで下がります。
「長く勤めれば勤めるほど、1年あたりの積み上がりが良くなる」と考えている方が多いのですが、国の制度に限って言えば、その山は20代半ばから30年目の手前あたりに来ています。総額は勤続年数が延びれば増えていきますが、増え方の勢いは途中で鈍る、というのが条文の形です。
転職を考えるときに効いてくる3点
1. 基準は「退職日の俸給月額」
基本額は退職日の俸給月額をもとに計算します。昇給の時期をまたぐかどうかで基準額が変わるため、退職日の設定が金額に影響します。ただしこれも条例の定め方によるので、自分の自治体の規定を確認してください。
2. 自己都合かどうかで変わる
国の制度では、自己都合等退職者に一定の割合を乗じる規定があります(第3条第2項)。転職による退職は通常こちらに当たります。自治体の条例にも同様の区分があるのが一般的ですが、割合は条例次第です。
3. 勤続期間の数え方
休職期間や派遣期間をどう扱うかは規定があります。育児休業や自己啓発等休業を取っていた方は、勤続期間の計算に算入されるかどうかを条例と規則で確認しておくと、見込みが正確になります。
自分の条例を読むときの手順
例規集は分量があるので、見る場所を絞ります。次の順で当たると早く着きます。
- 「◯◯市(県)例規集」で検索し、公式の例規集を開く。多くの自治体が外部にも公開しています
- 「職員の退職手当に関する条例」を探す。名称は自治体によって少し違いますが、「退職手当」で検索すれば出ます
- 支給率の表が載っている条を見る。勤続期間の区分ごとに割合が並んでいます。自分の勤続年数がどの区分にいるかを確認します
- 自己都合の場合の規定を探す。「その者の都合により退職した」といった書き方で、乗じる割合が定められています
- 調整額の条を見る。国と同じ形を採っている場合、職の区分ごとの額が別表で示されています
- 勤続期間の計算の条を見る。休職や育児休業の期間をどう算入するかが書かれています
ここまで見れば、自分の退職手当がどういう式で出るのかが分かります。式が分かれば、俸給月額を入れて概算できます。人事担当課に見込額を聞く場合も、条例を読んでから聞いたほうが、答えの意味が理解できます。
誤解されやすいこと
「相場」の金額を自分に当てはめてしまう
繰り返しになりますが、退職手当は条例で決まります。他の自治体の平均額や、ネット記事の相場は、自分の額とは関係がありません。
国の支給率がそのまま自分に適用されると思ってしまう
上の表はあくまで国家公務員退職手当法の規定です。自治体の条例が同じ数字を採っているとは限りません。必ず自分の自治体の条例を見てください。
退職手当があるから失業給付は要らない、と考えてしまう
これは別の論点で、しかも誤解が多い部分です。公務員には雇用保険が適用されないため、退職しても基本手当は支給されません。ただし、退職手当の額が一定の水準に満たない場合の給付は制度として存在します。詳しくは公務員に雇用保険がない理由で扱っています。
まとめ
- 地方公務員の退職手当は条例で決まります(地方自治法第204条第2項・第3項)。条例に基づかない支給はできません(第204条の2)
- 国の制度は基本額(退職日俸給月額 × 支給率)と調整額の2階建てです(国家公務員退職手当法第3条、第6条の4)
- 国の支給率は21年以上25年以下の期間が100分の200で最も厚く、26年以降は下がります。比例して増え続けるわけではありません
- 自己都合等退職者には、さらに一定の割合が乗じられます(第3条第2項)
- 休職や育児休業を取った期間を勤続期間に算入するかどうかも、条例と規則に書かれています
- 自分の額を知る唯一確実な方法は、所属自治体の退職手当条例を読むことです
よくある質問
自分の退職手当の額は、どこで調べられますか
所属自治体の退職手当条例が根拠です。例規集で「退職手当」を引き、支給率の表が載っている条を見てください。そのうえで、実際の見込額は人事担当課に聞くのが確実です。退職を前提にしなくても、制度の照会として聞ける自治体は多くあります。聞きにくい場合は、条例の支給率と自分の勤続年数、俸給月額から自分で概算できます。
自己都合で辞めると、どのくらい下がりますか
割合は条例で定められているため、一律には答えられません。国の制度では、自己都合等退職者について第3条第1項で計算した額に一定の割合を乗じると定めています(第3条第2項)。自治体の条例にも同様の規定があるのが通常ですが、数字は条例を確認してください。なお、定年退職や勧奨退職とは扱いが分かれます。
年度末まで待ったほうが得ですか
退職手当の計算だけで言えば、年度末という区切り自体に特別な意味はありません。効いてくるのは勤続期間が支給率の区分をまたぐかどうかと、退職日の俸給月額です。ただし、引継ぎや周囲への影響を考えて年度末を選ぶ方は多く、財政課のように業務の山が制度で決まっている部署では、その事情も含めて考える必要があります。金額の話と、仕事の区切りの話は、分けて考えたほうが整理しやすくなります。