制度とお金 / 退職手当
勤続20年・25年という節目の意味
「あと3年で20年になるから、それまでは動けない」。転職の相談で、いちばんよく出てくる理由がこれです。
この節目の話は、まったくの思い込みではありません。条文と支給率の表に、実際に段差があります。ただし、その段差がどこに、どれくらいあるのかを正確に把握している方は多くありません。結果として、必要以上に長く待ってしまう例と、逆に大きな段差の直前で動いてしまう例の両方が起きています。
この記事では、公表されている支給率の実数から、節目がどこにあるのかを確認します。
支給率は勤続期間の「区分ごと」に決まっている
まず仕組みを押さえます。国家公務員退職手当法第3条は、退職手当の基本額を、退職日の俸給月額に勤続期間の区分ごとの割合を乗じて得た額の合計とする、と定めています。区分と割合は次のとおりです。
| 勤続期間の区分 | 1年あたりの割合 |
|---|---|
| 1年以上10年以下の期間 | 100分の100 |
| 11年以上15年以下の期間 | 100分の110 |
| 16年以上20年以下の期間 | 100分の160 |
| 21年以上25年以下の期間 | 100分の200 |
| 26年以上30年以下の期間 | 100分の160 |
| 31年以上の期間 | 100分の120 |
「合計額」であることが重要です。勤続22年の人は22年分すべてが100分の200で計算されるのではありません。1〜10年目は100分の100、11〜15年目は100分の110、というように区分ごとに積み上げた合計です。
ここを誤解していると、「20年を超えた瞬間に一気に増える」と考えてしまいます。実際には、20年を超えたあとの1年が、それ以前の1年より厚く積まれる、という形です。
実際の月数で見るとどうなるか
抽象的な割合だけでは実感が湧かないので、公表されている実数を見ます。北海道が公表している令和6年度の資料には、退職手当の支給率が月数で載っています(同資料によれば、北海道は国と同じ率です)。
| 勤続年数 | 自己都合 | 応募認定・定年 |
|---|---|---|
| 20年 | 19.6695月分 | 24.586875月分 |
| 25年 | 28.0395月分 | 33.27075月分 |
| 35年 | 39.7575月分 | 47.709月分 |
| 最高限度 | 47.709月分 | 47.709月分 |
ここから読めることが3つあります。
1. 20年から25年の5年間の伸びが大きい
自己都合で見ると、20年の19.6695月分から25年の28.0395月分へ、5年で8.37月分増えています。1年あたり約1.67月分です。上の表で21〜25年の区分が100分の200と最も厚いことが、そのまま数字に出ています。
2. 25年から35年の10年間は、伸びが鈍る
25年の28.0395月分から35年の39.7575月分まで、10年で11.718月分。1年あたり約1.17月分です。20〜25年の伸びより明らかに緩やかになります。26年以降の区分が100分の160、31年以降が100分の120と下がっていくためです。
3. 自己都合と定年等では、差が最後まで残る
20年時点で自己都合19.6695月分に対し応募認定・定年24.586875月分。この差は、勤続が延びても縮みません。辞め方の区分は、勤続年数よりも大きく効きます。
節目は「20年」ではなく、区分の境目
以上を整理すると、よく言われる「20年の壁」は、正確には21年目から1年あたりの積み上がりが最も厚い区分に入ることを指しています。20年を超えた瞬間に総額が跳ねるわけではありません。
なぜ「20年」という言葉だけが庁内に残るのか
制度上の区分は10年・15年・20年・25年・30年と複数あるのに、庁内で語られるのはほぼ「20年」だけです。理由はいくつか考えられます。
ひとつは、20年が共済や年金の話と混ざりやすいことです。退職手当の区分と、年金の受給要件や共済の取扱いは別の制度ですが、「20年」という数字が複数の文脈に出てくるため、ひとまとめに記憶されます。
もうひとつは、20年目前後が、庁内で最初に「辞める人が出る」年代だからです。採用から20年前後は40歳前後にあたり、係長級への昇任や、子どもの進学と重なる時期でもあります。その時期に辞めた人の話が語り継がれる過程で、「20年」だけが残る。
いずれにしても、伝聞で共有されている節目と、条例に書かれている区分は別物です。自分の判断材料にするなら、条例のほうを見てください。
退職日をいつにするかで変わるもの
節目の話と並んで確認しておきたいのが、退職日そのものの影響です。基本額は退職日の給料月額をもとに計算されます。したがって、次の2つが効いてきます。
昇給の時期
昇給の直前に辞めるのと直後に辞めるのとでは、計算の基準になる給料月額が変わります。差そのものは大きくないことが多いのですが、支給率が高い区分にいる人ほど、月額の差が総額に乗ります。
勤続期間の切り上がり
勤続期間の計算方法は条例と規則で定められています。何月何日で1年が切り上がるのかによって、同じ「あと少し」でも、実際の区分が変わることがあります。月単位・日単位の扱いは自治体ごとに違うため、ここは必ず規定を見てください。
待つ判断が有効な場合と、そうでない場合
待つ判断に理があるのは、次のような場合です。
- 区分の境目が数か月先にあり、その間に受けたい求人がない
- 昇給や昇任が近く、退職日の給料月額が上がる見込みがある
- 定年前早期退職特例措置など、加算のある制度の対象になり得る
逆に、待つことが不利に働く場合もあります。
- 26年目以降で、1年あたりの積み上がりがすでに緩やかな区分に入っている
- 年齢が上がることで、応募できる求人の幅が狭くなっていく
- 待っている数年のあいだに、その経験を求める市場そのものが縮む
3つ目は見落とされがちです。制度の側では有利になっても、労働市場の側では不利になるという、逆方向の動きが同時に起きます。両方を並べて比べないと、判断を誤ります。
とくに、行政の経験を求める企業の採用は、その企業が自治体向けの事業をどれだけ伸ばしているかに連動します。事業の立ち上げ期にはポジションが開きますが、体制が固まると募集は止まります。待っている数年のあいだに、その窓が閉じることがあるというのが、市場側の実際です。
数字は必ず自分の条例で確認する
ここまで国の制度と、北海道の公表資料の数字を使ってきました。地方公務員の退職手当は条例で定められます(地方自治法第204条第2項・第3項)。北海道は国と同じ率でしたが、すべての自治体がそうとは限りません。
自分の自治体の例規集で「退職手当」を引き、支給率の表を確認してください。手順は退職手当の仕組み|何で金額が決まるのかにまとめています。
まとめ
- 支給率は勤続期間の区分ごとに積み上げた合計です。ある年を超えた瞬間に総額が跳ねるわけではありません
- 1年あたりの割合が最も厚いのは21年以上25年以下の区分(100分の200)。26年以降は100分の160、31年以降は100分の120と下がります
- 実数で見ると、自己都合で20年19.6695月分・25年28.0395月分。この5年間の伸びが最も大きい区間です
- 自己都合と応募認定・定年の差は、勤続が延びても縮みません。辞め方の区分のほうが影響が大きい場合があります
- 待つ根拠が制度から説明できるのは区分の境目までです。26年目以降は、待つ理由を別に持っているはずです
- 数字は必ず自分の自治体の退職手当条例で確認してください
よくある質問
勤続20年目の直前です。あと数か月待つべきですか
待って不利になることは、制度の面ではありません。21年目から1年あたりの割合がいちばん厚い区分に入るためです。ただし「数か月」であれば、その間に転職活動を止める必要はありません。書類の準備や情報収集は先に進めておき、退職日だけを調整するという組み方ができます。求人は待ってくれませんが、退職日は自分で決められます。
勤続28年です。31年まで待つ意味はありますか
制度の面での説明は弱くなります。26年以上30年以下の区分は100分の160、31年以上は100分の120で、待つほど1年あたりの割合は下がっていきます。総額は増えますが、増え方は鈍ります。この年代では、退職手当の増加分と、応募できる求人の幅が年々狭くなることを並べて比べたほうが、判断として現実的です。
定年前早期退職特例措置を使えば有利になりますか
制度としては加算があります。北海道の公表資料では、道の措置が2〜30%の加算、国が2〜45%の加算と記載されています。ただし適用には募集や認定の手続きがあり、誰でも使えるものではありません。対象年齢や募集の有無は年度によって変わるため、人事担当課で現在の取扱いを確認してください。使えるなら選択肢に入れる価値は十分にあります。