制度とお金 / 退職手当
退職手当条例の読み方
「退職手当の条例を読んでみたが、どこを見ればよいのか分からなかった」。転職の相談で、条例を開いた方の多くがそう言います。
無理もありません。退職手当条例は、数十の条と別表でできていて、自分の額に関わる条はそのうちの5つか6つです。残りは、適用の範囲、死亡した場合の遺族の順位、支給の制限、返納、手続の細目で、転職を考えている人には当面関係がありません。
この記事では、条例がどういう順序で組まれているかを国の法律の構成と対応させて示し、どの条から読めば自分の額の式にたどり着くかを整理します。金額そのものは自治体ごとに違うので、ここでは書きません。仕組みの全体は退職手当の仕組み|何で金額が決まるのかで扱っています。
なぜ「条例」なのか、をもう一度
地方自治法第204条第2項は、普通地方公共団体が条例で退職手当を支給することができると定め、第3項で額と支給方法は条例で定めなければならないとしています。そして第204条の2は、こう定めています。
> 普通地方公共団体は、いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく条例に基づかずには、これをその議会の議員、第二百三条の二第一項の者及び前条第一項の者に支給することができない。
条例に書いていない計算では、1円も出ません。逆に言えば、条例を読めば、自分の額の式は必ず分かります。
もう1つ、押さえておくべき点があります。自治体によっては、退職手当の事務を自分の条例ではなく、一部事務組合に委ねていることです。地方自治法第284条は、普通地方公共団体が事務の一部を共同処理するために一部事務組合を設けることができると定めています。町村を中心に、退職手当の事務を都道府県ごとの総合事務組合に加入して処理している例が多くあります。その場合、読むべきなのは組合の退職手当条例です。自分の自治体の例規集で「退職手当」を引いて出てこないときは、まずここを疑ってください。
条例は、国の法律と同じ順序で組まれている
自治体の退職手当条例は、国家公務員退職手当法の構成に沿って組まれているのが一般的です。条の番号は自治体ごとに違いますが、並び順と項目は、ほぼ国と同じです。だから、国の法律の骨を知っておくと、自分の条例のどこを見ればよいかが分かります。
| 順序 | 国の法律の条 | 何が書いてあるか | 転職を考える人に関係するか |
|---|---|---|---|
| 1 | 第2条(適用範囲) | 誰に支給するか。常勤の職員、死亡なら遺族 | 会計年度任用職員や再任用の方は要確認 |
| 2 | 第3条(自己都合等の基本額) | 勤続期間の区分ごとの割合と、自己都合の場合に乗じる割合 | 転職ならここが中心 |
| 3 | 第4条(11年以上25年未満の定年等) | 定年や勧奨など、自己都合でない退職の割合 | 定年前の早期退職の制度を使う場合 |
| 4 | 第5条(25年以上の定年等) | 25年以上勤続して定年等で退職する場合の割合 | 定年まで勤める場合の比較用 |
| 5 | 第5条の2 | 降給などで俸給月額が下がったことがある場合の特例 | 該当する方のみ |
| 6 | 第6条の4(調整額) | 在職中の職の区分に応じて月ごとに積み上げる額 | 基本額と並ぶもう一つの柱 |
| 7 | 第7条(勤続期間の計算) | 月数の数え方、休職期間の扱い、退職翌日の再採用の扱い | 育児休業・休職を取った方は必ず |
| 8 | 第12条以降(支給制限・返納) | 懲戒免職等の場合の不支給と返納 | 通常は関係しない |
太字の3つ——基本額、調整額、勤続期間——を読めば、自分の額の式は組み立てられます。残りは、該当する方だけ見れば足ります。
読む順序
例規集を開いたら、次の順で当たってください。条例の頭から読まないことが、いちばんの近道です。
1. 支給率の表を探す
「退職手当の基本額」の条を見ます。国の第3条に当たる部分です。勤続期間の区分と、1年あたりの割合が並んでいます。国の法律では、次の形です。
| 勤続期間の区分 | 1年あたりの割合 |
|---|---|
| 1年以上10年以下の期間 | 100分の100 |
| 11年以上15年以下の期間 | 100分の110 |
| 16年以上20年以下の期間 | 100分の160 |
| 21年以上25年以下の期間 | 100分の200 |
| 26年以上30年以下の期間 | 100分の160 |
| 31年以上の期間 | 100分の120 |
自分の条例が同じ数字か、違う数字かを、まずここで確かめてください。同じ形を採っていても、数字が違う自治体はあります。
2. 自己都合の場合に乗じる割合を探す
同じ条の第2項に当たる部分です。国の法律では、傷病や死亡によらず、その者の都合により退職した者について、第1項で計算した額に、勤続期間1年以上10年以下は100分の60、11年以上15年以下は100分の80、16年以上19年以下は100分の90を乗じると定めています。20年以上には、この乗率がありません。転職による退職は、通常ここに当たります。自分の勤続年数が、どの区分にいるかを見てください。
3. 調整額の表を探す
「退職手当の調整額」の条です。国の第6条の4に当たります。在職した各月について、その月の職の区分に応じた額を積み上げる仕組みで、区分と額は別表に載っています。基本額だけを見て概算すると、この分が抜けます。自治体によっては、調整額の仕組みを採っていない、あるいは区分が国と違うことがあるので、あるかないかを含めて確認してください。
4. 勤続期間の計算の条を探す
国の第7条に当たります。在職期間は月数で数えること、休職の期間はその月数の2分の1を除算すること、退職の日またはその翌日に再び職員となったときは引き続いて在職したものとみなすことが、国の法律には書かれています。育児休業や自己啓発等休業を取った方は、その期間がどう扱われるかを、条例と規則で必ず確認してください。見込みがずれるのは、たいていここです。
5. 俸給月額の定義を確かめる
基本額は「退職の日におけるその者の俸給月額」に割合を掛けます。どの給料表のどの額が「俸給月額」に当たるかは、条例か規則に書かれています。手当は含みません。ここを誤ると、概算が大きく外れます。
転職するとどうなるか
転職による退職は、国の法律の区分では「自己都合等退職者」に当たります。効いてくる点は3つです。
1. 基本額の表は第3条で、しかも自己都合の乗率がかかる
定年等の場合の表(第4条・第5条)より1年あたりの割合が低く、さらに20年未満なら乗率がかかります。同じ勤続年数でも、定年等の退職とは式が違います。違いの中身は自己都合退職と定年退職で何が変わるかに整理しています。
2. 退職日の俸給月額が基準になる
昇給の時期をまたぐかどうかで、基準額が変わります。退職日の設定が金額に影響するのは、このためです。
3. 勤続期間の月数で区分が決まる
年ではなく月で数えます。区分の境目にいる方は、退職日を数か月動かすだけで区分が変わることがあります。ただし、変わるのは1年あたりの割合であって、総額が急に跳ねるわけではありません。節目の実態は勤続20年・25年という節目の意味で扱っています。
手続きと期限
退職手当の請求の手続きは、条例と、その下の規則・規程に書かれています。一般的には、退職の辞令と併せて人事の担当課が手続きを案内しますが、書類の提出の期限と、支給の時期は自治体によって違います。
転職の場面で実務的に効くのは、支給の時期です。退職の翌月に支給される自治体もあれば、数か月後の自治体もあります。入社までの生活費と、転職先の初回の給与の時期を並べて、資金の空白がないかを確認してください。これは、条例ではなく人事の担当課に聞く事項です。
なお、退職手当の税の扱いは、退職所得として給与とは別に計算されます。所属の共済組合や税務署で確認できる事項で、個別の事情によって変わるので、ここでは一般的な扱いに触れるにとどめます。
誤解されやすい点
「例規集に載っている条例が、自分に適用される」と思い込む
一部事務組合に加入している自治体では、組合の条例が適用されます。自分の自治体の例規集には、加入の規約しか載っていないことがあります。
支給率の表だけで概算する
調整額と、勤続期間から除く月数を見落とすと、見込みがずれます。
「国の法律と同じ」と思い込む
構成は似ていますが、数字は条例次第です。国の表は、あくまで自分の条例を読むときの物差しです。
条例を読めば、正確な額が出ると思う
条例で分かるのは式です。額を確定させるのは、人事の担当課の計算です。式を理解したうえで照会する、という順序が、いちばん確実です。
まとめ
- 退職手当は条例で決まり、条例に基づかない支給はできません(地方自治法第204条・第204条の2)。一部事務組合に加入している自治体では、組合の条例が適用されます(第284条)
- 条例は、国家公務員退職手当法と同じ順序で組まれているのが一般的です。基本額・調整額・勤続期間の3つの条を読めば、自分の額の式は組み立てられます
- 国の基本額の表は21年以上25年以下が100分の200で最も厚く、自己都合の場合は20年未満に100分の60〜90の乗率がかかります。自分の条例が同じかどうかを確かめてください
- 勤続期間は月数で数え、休職の期間は2分の1を除算するのが国の形です。育児休業や休職を取った方は必ず確認してください
- 条例で分かるのは式です。額の確定は人事の担当課、支給の時期と税は個別に確認してください
よくある質問
例規集で「退職手当」を検索しても、条例が出てきません
一部事務組合に加入している可能性が高いです。町村を中心に、退職手当の事務を都道府県ごとの総合事務組合で処理している自治体が多くあります。その場合、自分の自治体の例規集には加入の規約しか載っておらず、支給率の表は組合の条例にあります。「◯◯県 市町村総合事務組合 退職手当条例」で検索するか、人事の担当課に「退職手当の条例はどこで読めますか」と聞いてください。退職の意思を伝えなくても、制度の照会として答えてもらえます。
会計年度任用職員や再任用ですが、条例は適用されますか
適用の範囲の条(国の第2条に当たる部分)で決まります。国の法律は「常時勤務に服することを要する」職員を対象とし、勤務の形態が職員に準ずる者は政令で職員とみなすと定めています。自治体の条例にも、同様の適用範囲の定めがあります。任用の形態によって、条例の対象になるかどうか、なる場合も勤続期間の数え方が違うことがあるので、条例の適用範囲の条と、任用の根拠を併せて確認してください。個別の判断は、人事の担当課に照会するのが確実です。
条例を読んだら、人事に聞く必要はありませんか
聞いてください。条例で分かるのは式で、額を確定させるのは人事の担当課の計算です。俸給月額の当てはめ、調整額の月ごとの区分、勤続期間から除く月数は、本人の履歴を持っている側でないと正確に出せません。条例を読む意味は、照会したときに答えの意味が分かることと、照会の前に見込みの桁を自分で持っておけることにあります。読んでから聞く。この順序が、いちばん確実です。