制度とお金 / 退職手当
支給制限・返納の規定
退職手当の記事のほとんどは、「いくらもらえるか」を扱います。この記事は逆で、「どういう場合に、もらえなくなるか」を扱います。
先に言っておくと、通常の転職による自己都合退職では、ここに書くことは起きません。それでも扱うのは、「退職手当は必ず全額出るもの」ではなく、法律上の例外があること、そしてその例外が退職後にも及ぶことを、知らないまま辞める方が多いからです。
この記事では、支給しない・支払いを止める・支払った後に返してもらうという3段階の規定を、国家公務員退職手当法の条文で整理します。地方公務員の退職手当は所属自治体の条例で決まります(地方自治法第204条)が、支給制限と返納の定めも国の法律に沿った形を採るのが一般的です。仕組みの全体は退職手当の仕組み|何で金額が決まるのかで扱っています。
3段階——支給しない、止める、返してもらう
国の法律は、退職手当が支払われる前と後で、規定を分けています。
| 段階 | 条 | いつ | 何をするか |
|---|---|---|---|
| 支給制限 | 第12条 | 退職の時点 | 全部または一部を支給しない処分 |
| 支払の差止め | 第13条 | 支払われる前 | 支払いを止める処分 |
| 退職後の支給制限 | 第14条 | 支払われる前 | 退職後に事実が判明したとき、全部または一部を支給しない処分 |
| 返納 | 第15条 | 支払われた後 | 支払った額の全部または一部を返してもらう処分 |
| 遺族の返納・相続人からの納付 | 第16条・第17条 | 支払われた後 | 本人が死亡している場合の扱い |
全部の段階に共通する骨は、「在職期間中の行為」です。退職の前か後かにかかわらず、在職中の非違行為が問われます。
第12条:退職の時点で支給しない場合
第12条第1項は、退職した者が次のいずれかに当たるとき、退職手当管理機関が一般の退職手当等の全部または一部を支給しない処分を行うことができると定めています。
> 一 懲戒免職等処分を受けて退職をした者> 二 国家公務員法第七十六条の規定による失職又はこれに準ずる退職をした者
懲戒免職と、失職です。失職は、拘禁刑以上の刑に処せられた場合など、法律の定めによって当然に職を失う形を指します。
ここで注意すべき点が2つあります。1つは、「全部又は一部」です。懲戒免職なら自動的にゼロ、ではありません。条文は、「当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任、当該退職をした者が行つた非違の内容及び程度、当該非違が公務に対する国民の信頼に及ぼす影響その他の政令で定める事情を勘案して」処分を行うと定めています。事情を勘案して、全部か一部かを決める仕組みです。
もう1つは、手続きです。第2項は、処分を行うときはその理由を付記した書面により通知しなければならないと定めています。所在が分からないときは官報への掲載で代えられます(第3項)。
第13条:支払われる前に止める場合
第13条は、退職した者が刑事事件に関し起訴された場合などに、退職手当管理機関が支払を差し止める処分を行うと定めています。判決の確定前に退職した場合や、退職後にまだ支払われていない段階で在職中の行為について起訴された場合が対象です。第2項は、逮捕された場合や、調査で犯罪があると思料するに至った場合などに、差止めの処分を行うことができるとしています。
差止めは、支給しないことを決める処分ではなく、決まるまで止めておく処分です。その後に第14条の処分が行われれば、差止めは取り消されたものとみなされます(第14条第6項)。
第14条:退職後に事実が判明して、支払われる前に支給しない場合
第14条第1項は、退職した者にまだ退職手当が支払われていない場合で、次のいずれかに当たるとき、全部または一部を支給しない処分を行うことができると定めています。
- 在職期間中の行為に係る刑事事件で、退職後に拘禁刑以上の刑に処せられたとき
- 在職期間中の行為について、退職後に懲戒免職等処分を受けるべき行為をしたと認めたとき
退職の時点では問題になっていなくても、退職後に事実が判明すれば、支払われる前なら支給しない処分ができるという形です。第3項は、処分を行おうとするときは本人の意見を聴取しなければならないと定め、行政手続法の意見聴取の規定を準用しています。
第15条:支払われた後に返してもらう場合
第15条第1項は、退職手当が支払われた後に、次のいずれかに当たるとき、退職手当管理機関が支払った額の全部または一部の返納を命じる処分を行うことができると定めています。
- 在職期間中の行為に係る刑事事件で、拘禁刑以上の刑に処せられたとき
- 在職期間中の行為について、懲戒免職等処分を受けるべき行為をしたと認めたとき
支払われた後でも、返納を求められるということです。ここで、期限の定めがあります。第3項は、懲戒免職等処分を受けるべき行為をしたと認めたことを理由とする処分は、「当該退職の日から五年以内に限り、行うことができる」と定めています。刑事事件で刑に処せられた場合には、この5年の限定はかかっていません。
返納の額についても、第1項は、第12条の事情に加えて「当該退職をした者の生計の状況を勘案して」定めるとしています。第4項は、処分の前に本人の意見を聴取しなければならないと定めています。
第16条と第17条は、本人が死亡している場合に、遺族に返納を求める処分と、相続人から相当額の納付を求める処分を定めています。転職の場面では関係しませんが、規定として存在します。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、この記事で効いてくる点は3つです。
1. 自己都合の退職では、支給制限は起きない
第12条の対象は懲戒免職と失職です。転職による自己都合退職は当たりません。
2. 退職後も、在職中の行為については規定が及ぶ
第14条と第15条は、退職後に事実が判明した場合を定めています。懲戒免職相当の行為を理由とする返納は退職の日から5年以内です。
3. 守秘の線は、退職後も続く
在職中に扱った情報の扱いは、退職後の自分を守る線でもあります。面接では「どこで」ではなく「どうやって」で話してください。
手続きと期限
支給制限・差止め・返納の処分は、退職手当管理機関——国なら各省庁、自治体なら任命権者の側——が行います。本人が申請するものではなく、処分として通知されるものです。
処分の手続きとして、法律は次を定めています。
- 理由を付記した書面による通知(第12条第2項。第14条・第15条に準用)
- 本人の意見の聴取(第14条第3項、第15条第4項。行政手続法の規定を準用)
- 懲戒免職相当の行為を理由とする返納は、退職の日から5年以内(第15条第3項)
処分に不服がある場合は、行政不服審査法による審査請求などの手続きがあります。個別の事情は、弁護士など専門家に相談する事項です。
誤解されやすい点
「懲戒免職なら自動的にゼロ」と思い込む
「全部又は一部」を、事情を勘案して決めます。自動ではありません。
「退職手当を受け取れば、その後は関係ない」と思い込む
支払われた後でも、在職中の行為について返納を命じる規定があります(第15条)。懲戒免職相当の行為を理由とする場合は5年以内です。
「自己都合で辞めれば、退職手当が減らされることはない」と思い込む
自己都合の乗率で計算上は減りますが、それは支給制限ではありません。支給制限は、懲戒免職・失職・在職中の非違行為に限られます。
「差止めは支給しないという決定」と思い込む
差止めは、決まるまで止める処分です。その後の処分で確定します。
まとめ
- 退職手当には、支給しない(第12条・第14条)、支払いを止める(第13条)、支払った後に返してもらう(第15条〜第17条)の3段階の規定があります
- 支給制限の対象は懲戒免職等処分と失職(第12条)で、全部または一部を、事情を勘案して決めます。自動的にゼロではありません
- 退職後に在職中の行為が判明した場合も、支払われる前なら支給しない処分(第14条)、支払われた後なら返納の処分(第15条)ができます
- 懲戒免職相当の行為を理由とする返納は、退職の日から5年以内です(第15条第3項)
- 処分には理由を付記した書面による通知と、本人の意見の聴取が定められています
- 通常の転職による自己都合退職では、これらは起きません。ただし、在職中の情報の守秘の線は退職後も続きます
よくある質問
自己都合で退職すると、退職手当が「減らされる」と聞きました。支給制限ですか
違います。自己都合の退職で額が定年等より少なくなるのは、第3条の表と乗率による計算上の違いであって、支給制限ではありません。支給制限は、第12条が定める懲戒免職等処分を受けた退職と失職、第14条・第15条が定める在職中の非違行為が退職後に判明した場合に限られます。転職による自己都合退職は、どれにも当たりません。自己都合と定年等の計算の違いは自己都合退職と定年退職で何が変わるかに整理しています。
退職手当を受け取った後に、在職中の業務の誤りが見つかったら、返すことになりますか
業務の誤りは、返納の対象ではありません。第15条が定める返納の理由は、在職期間中の行為に係る刑事事件で拘禁刑以上の刑に処せられたときと、在職期間中に懲戒免職等処分を受けるべき行為をしたと認められたときの2つです。日常の業務の処理の誤りや、判断の巧拙は、これに当たりません。心配の中身が業務の誤りなら、この規定とは無関係です。なお、懲戒免職相当の行為を理由とする返納の処分は、退職の日から5年以内に限られています(第15条第3項)。
懲戒処分を受けたことがありますが、退職手当は出ますか
懲戒免職以外の懲戒処分——戒告、減給、停職——は、第12条の支給制限の対象ではありません。第12条第1項第1号が対象とするのは「懲戒免職等処分を受けて退職をした者」です。過去に停職や減給の処分を受けたことがあっても、その後に自己都合で退職する場合、それ自体は支給制限の理由になりません。ただし、降任や降給で俸給月額そのものが下がったことがある場合は、基本額の計算に第5条の2の特例が関わります(減給処分は俸給の一部を減じるもので、俸給月額の減額とは別です)。その扱いは基本額の計算の考え方に書いています。個別の事情は、人事の担当課に制度の照会として確認してください。