選考対策 / 面接
「営業はできるか」への答え方
営業の職種に応募すると、必ず確認される質問です。
「営業の経験はありませんが、できそうですか」
「やったことはありません」は事実です。ただ、そこで止めると、この質問は終わります。
聞かれているのは、売った経験の有無ではありません。断られる立場で、相手に納得してもらった経験があるかです。
この記事では、その材料の出し方を扱います。面接の全体像は公務員からの転職面接|全体の流れと準備にあります。
結論:「任意の協力」を得てきた経験で答える
公務員の仕事には、強制力のある場面と、強制力のない場面があります。
後者のほうが、営業に近いです。
行政手続法第32条第1項です。
> 行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
「相手方の任意の協力によってのみ実現される」。
つまり、行政指導は、従わせることができません。相手が納得して、自分から動いて、はじめて実現します。
そして同条第2項は、行政指導に従わなかったことを理由に、不利益な取扱いをしてはならないという趣旨を定めています。
断られても、力でどうにかできない。この条件の下で相手を動かしてきたのであれば、それは営業と同じ構造の仕事です。
材料になる4つの経験
| 経験 | 営業との共通点 |
|---|---|
| 事業者への指導 | 相手にとって費用のかかることを、納得して実行してもらう |
| 滞納整理の折衝 | 払いたくない相手と、支払いの方法を合意する |
| 用地の交渉 | 相手の資産に関わる判断を、任意で決めてもらう |
| 住民説明会 | 反対のある中で、案の必要性を説明して合意を作る |
4つとも、「断られる前提で話を始める仕事」です。
営業との違いは、扱っているものが商品かどうかだけです。
答え方の例
> 営業の経験はありません。ただ、相手に断る権利がある状態で、納得して動いてもらう仕事は担当してきました。>> 食品営業施設の監視を担当していたとき、設備の改善をお願いする場面が多くありました。改善には費用がかかるので、相手にとっては負担です。法令で義務づけられている部分と、そうでない部分を分けて説明し、優先順位をつけて、期限を相手と一緒に決めるという進め方をしていました。>> 年間約◯件の指導を担当し、そのうち期限内に改善が完了した割合は約◯割です。従わせたのではなく、納得してもらったから実行されたと考えています。>> 商品を売った経験はないので、提案の作り方や、数字を追う進め方は、入社後に身につける必要があると考えています。
最後の1文で、未経験の部分を認めています。
営業の種類で、答えを変える
「営業」と一口に言っても、求められるものが違います。
| 種類 | 求められること | 近い経験 |
|---|---|---|
| 自治体向けの法人営業 | 相手の意思決定の仕組みを理解していること | 庁内の決裁の流れ、予算の時期 |
| 既存の顧客の担当 | 関係の維持、課題の聞き取り | 事業者との継続的な関係、相談の対応 |
| 新規の開拓 | 断られ続けても続ける | 経験が近いとは言いにくい |
| 提案型・課題解決型 | 相手の状況を整理して案を作る | 制度の説明、事業の設計 |
自治体向けの法人営業は、公務員の経験がそのまま効く領域です。
相手(自治体)がどう意思決定するか、いつ予算が動くか、誰の承認が要るか。これを知っていることは、その会社の中で希少な情報です。
逆に、新規の開拓が中心の営業は、近い経験を挙げにくいです。その場合は、未経験であることを認めたうえで、続けられる根拠を述べるほうが誠実です。
「売る」以外の工程も見られている
営業の仕事は、売る場面だけで成り立っていません。次の工程は、公務員の経験がそのまま使える部分です。
| 工程 | 近い経験 |
|---|---|
| 提案の資料を作る | 議会や審議会の説明資料、事業の企画書 |
| 見積りを作る | 積算、単価の確認、費用の内訳の作成 |
| 契約の手続き | 契約書の確認、仕様の整理、履行の確認 |
| 導入後の対応 | 相談の対応、手順書の作成、問い合わせの処理 |
とくに、提案の資料と見積りは、役所で毎年やっている作業です。
面接では、「売る場面は未経験ですが、その前後の工程は担当してきました」という言い方ができます。営業の職種でも、時間の配分としては前後の工程のほうが長いことが珍しくありません。
数字を追うことへの抵抗
もう1つ、確認されやすい点があります。
「目標の数字を持つことに抵抗はありませんか」
役所には、売上の目標がありません。そのため、目標を持ったことがないと受け取られがちです。
ただし、目標そのものは経験しています。
| 役所での目標 | 民間での対応 |
|---|---|
| 収納率の目標 | 数値の目標を持って動く |
| 事務事業の評価の指標 | 成果の指標による管理 |
| 計画の進捗の目標 | 進捗の管理 |
| 処理の期間の短縮 | 生産性の目標 |
収納率の目標を持って滞納整理をしていた方は、「数値の目標を持って仕事をしていました」と言って構いません。
未達成のときにどうしたかまで話せると、より具体的になります。
よくある失敗
1. 「経験がありません」で終える
否定してから、近い経験を出す。この順です。
2. 「人と話すのは好きです」で答える
好みは材料になりません。断られた場面の経験を出してください。
3. 住民対応の経験をそのまま営業と言う
窓口は、相手から来る仕事です。営業は、こちらから行く仕事です。違いを認めたうえで話してください。
4. 数字の目標を持ったことがないと答える
収納率、指標、進捗。目標は経験しています。
5. 新規の開拓も得意だと言う
経験が無いことは、無いと言うほうが確実です。
6. 自治体向けの営業で、庁内の仕組みを説明できない
いちばんの強みが使えません。準備してください。
まとめ
- 聞かれているのは売った経験ではなく、断られる立場で相手に納得してもらった経験です
- 行政手続法第32条第1項は、行政指導は相手方の任意の協力によってのみ実現されると定めています。従わせることはできません
- 材料は、事業者への指導・滞納整理の折衝・用地の交渉・住民説明会の4つです
- 自治体向けの法人営業では、庁内の意思決定の仕組みを知っていることが希少な情報になります
- 目標の数字は経験しています。収納率、指標、進捗の管理です
- 新規の開拓が中心の営業は、経験が近いと言いにくい。認めたうえで話すほうが確実です
行政が相手の求人もまとまっています。行政が相手の求人を見てみる。
よくある質問
内勤が長く、外部との折衝の経験がありません
内部の折衝も、材料になります。庁内の他課との協議は、指揮命令の関係がない相手との交渉です。「予算の査定で、◯部局と協議し、◯件の見直しに合意した」という経験は、利害が対立する相手との合意形成そのものです。営業との違いは、相手が社内か社外かだけです。答えるときは、「社外の相手との折衝は未経験です」と認めたうえで、内部の折衝の具体を出すという順にしてください。加えて、その経験が社外でも使えると考える理由を1文添えると、つながりが明確になります。
ノルマが厳しいのではないかと不安です
面接で、目標の設定の仕方を確認して構いません。「目標はどのような単位(月次・四半期)で設定されますか」「未達が続いた場合の運用を教えていただけますか」。この2つを聞くのは、正当な確認です。会社によって、個人の目標が明確な場合と、チームの目標が中心の場合があります。また、新規の開拓が中心か、既存の顧客の担当が中心かでも、負荷は大きく違います。不安を抱えたまま入社するより、面接で確認して判断するほうが確実です。確認したこと自体が、消極的と受け取られることはあまりありません。
公務員だったことを、顧客に話してもよいのでしょうか
自治体向けの営業では、むしろ話す場面が多くなります。相手の自治体の職員から見ると、業務の実態を知っている担当者は話が早いためです。ただし、在職していた自治体の内部の情報は話せません。地方公務員法第34条の守秘の義務は、退職後も続きます。話せるのは、一般的な業務の流れや、制度の仕組みです。「前職ではこうでした」と個別の運用を持ち出すのは避けてください。線の引き方は、書類のときと同じです。詳しくは公務員の職務経歴書|民間で読まれる形にする基本に整理しています。