選考対策 / 職務経歴書
全庁横断プロジェクトの経験の書き方
指揮命令の関係がない相手を動かした経験は、民間の中途採用で強く求められています。
ところが、職務経歴書ではこうなります。
「◯◯推進本部の事務局を担当。」
事務局という言葉が、全部を飲み込んでいます。
実際には、関係する課を洗い出し、会議体を設計し、各課の言い分を聞き、資料を作り、調整して、期限までに方針を確定させ、実施まで見届けたはずです。
この記事では、5つの要素に分けて書き方を決めます。書類全体の型は公務員の職務経歴書|民間で読まれる形にする基本にあります。
結論:横断の経験は、5要素で書く
| 要素 | 何を書くか |
|---|---|
| ① 立ち上げの理由 | 何が問題で、なぜ部署をまたぐ必要があったか |
| ② 体制 | 参加した課の数、会議体の構成、期間 |
| ③ 自分の役割 | 事務局なのか、取りまとめなのか、企画したのか |
| ④ 動かした範囲 | 合意を取った件数、調整した論点、変えた運用 |
| ⑤ 結果と定着 | 決まったこと、実施したこと、その後どう続いたか |
⑤が抜けている書類が多いです。決めたところで終わっていると、会議を回した人として読まれます。
「一体として行政機能を発揮する」という原則
横断の仕事の難しさは、組織の仕組みそのものに由来します。
地方自治法第138条の3です。
> 普通地方公共団体の執行機関の組織は、普通地方公共団体の長の所轄の下に、それぞれ明確な範囲の所掌事務と権限を有する執行機関によつて、系統的にこれを構成しなければならない。>> 2 普通地方公共団体の執行機関は、普通地方公共団体の長の所轄の下に、執行機関相互の連絡を図り、すべて、一体として、行政機能を発揮するようにしなければならない。
1項は「それぞれ明確な範囲の所掌事務と権限」。2項は「すべて、一体として」。
分かれていることと、一体であることが、同じ条文に並んでいます。
さらに同条第3項は、権限について疑義が生じたときは、長が調整するよう努めなければならないとしています。つまり、所掌の境界で問題が起きることが、はじめから想定されているわけです。
横断のプロジェクトは、この境界をまたぐ仕事です。自分に指揮命令の権限はなく、相手にも断る理由がある。その中で合意を作る。
民間の部門横断のプロジェクトと、まったく同じ構造です。
横断の仕事の類型
自分の経験がどれに当たるか、先に決めてください。書き方の重心が変わります。
| 類型 | 例 |
|---|---|
| 計画の策定 | 総合計画、個別の分野の計画、行革の計画 |
| 制度の全庁導入 | 人事評価、文書管理、会計の制度、ハラスメントの相談体制 |
| システムの更改 | 基幹システム、グループウェア、電子申請 |
| 危機の対応 | 災害の対応、感染症の対応、大規模な障害 |
| 働き方・業務改善 | 時間外の削減、押印の見直し、業務の棚卸し |
「計画の策定」は、いちばん多い類型です。ただし、計画を作っただけでは、実行の経験になりません。実施と進捗の管理まで担当したなら、そこを書いてください。
悪い例と良い例
悪い例
> ◯◯計画の策定を担当。庁内各課と調整のうえ、計画を取りまとめた。
良い例
> ◯◯計画の策定(期間◯年◯か月/関係◯課)>> 前計画の進捗が部署ごとにばらついていたため、指標の定義と報告の様式が統一されていないことを原因として特定。全庁の会議体(部長級◯人)と、実務の作業部会(◯課、◯人)の二層の体制を設計。>> 各課の所管する事業約◯件について、指標の設定の考え方を整理し、個別の協議(◯回)を実施。定義が重複していた指標◯件を統合し、測定の方法を統一。>> 計画の案について、審議会への説明(◯回)、意見の募集への対応(意見約◯件)、議会への説明を担当。策定後は、四半期ごとの進捗の報告の仕組みを設計し、初年度の報告◯回を運用。
⑤の定着まで入っています。
「初年度の報告を運用」の1行があるかどうかで、読まれ方が変わります。
事務局の実務を、言葉にする
事務局の仕事は、次の4つに分解できます。
| 実務 | 書き方 |
|---|---|
| 会議の設計 | 会議体の構成、参加者の範囲、開催の頻度、決める事項の切り分け |
| 資料の作成 | 論点の整理、選択肢の提示、判断の材料の準備 |
| 個別の調整 | 会議の前に、反対の見込まれる課と個別に協議 |
| 進行の管理 | 期限からの逆算、遅れている課への働きかけ |
とくに3つ目の「会議の前の個別の協議」は、書き落とされやすい部分です。会議は、合意を確認する場であって、合意を作る場ではありません。作っていたのは、その前の個別の協議です。
ここを書ける人は、民間の中途採用でそのまま評価されます。
期間と、かけた時間の割合を添える
横断の仕事は、多くの場合「本来の担当と兼務」で回っています。そこは、そのまま書いて構いません。
> ◯◯計画の策定を、所管業務と兼務で担当(期間◯年◯か月、業務時間の約◯割)。
兼務であることは、弱点になりません。むしろ、通常の業務を回しながら別の仕事を進めたという記述になります。民間の部門横断のプロジェクトも、専任が付くことは多くありません。同じ条件で動いていた、と読まれます。
よくある失敗
1. 「事務局を担当」で終える
5要素に分けてください。4つの実務も書けます。
2. 参加した課の数を書かない
◯課、◯人。規模が読めます。
3. 決まったところで終える
⑤の定着まで書いてください。実行の経験になります。
4. 会議の回数だけ書く
回数は労力です。決めた論点の数を書いてください。
5. 反対があったことを隠す
反対があって、それをどうしたかが、いちばん読まれる部分です。
6. 自分の役割を「調整」で丸める
設計したのか、進行したのか、企画したのかを書いてください。
まとめ
- 横断の経験は、①立ち上げの理由 ②体制 ③自分の役割 ④動かした範囲 ⑤結果と定着の5要素で書きます
- 地方自治法第138条の3は、執行機関を明確な範囲の所掌事務と権限により系統的に構成するとしつつ、相互の連絡を図り、すべて、一体として行政機能を発揮することを求めています
- 所掌が分かれていることと、一体であることが、同じ条文に並んでいます。横断はその境界をまたぐ仕事です
- 事務局の実務は、会議の設計・資料の作成・個別の調整・進行の管理の4つに分解できます
- 会議の前の個別の協議が、合意を作っていた工程です。書き落とさないでください
- 求人票では、部門横断のプロジェクトの推進、業務改革、社内制度の企画と導入として書かれています
行政が相手の求人もまとまっています。行政が相手の求人を見てみる。
よくある質問
事務局の下働きで、方針を決めたのは上層部です
決めた人と、決まる形を作った人は別です。書くのは後者です。「部長級の会議に付議する論点を整理し、選択肢を2案作成。各案の影響と費用を比較した資料を作成」と書けば、判断の材料を作った経験として読まれます。加えて、会議の前にどこまで調整していたかを書いてください。「会議の前に関係◯課と個別に協議し、論点を◯件に絞ったうえで付議」という形です。論点を絞る作業が、実質的な合意形成です。上層部が決めたという事実は、書類の価値を下げません。民間でも、最終の決定は経営層です。
災害の対応で全庁の応援に入った経験は書けますか
書けます。ただし、動員されたことではなく、そこで担った機能を書いてください。避難所の運営、物資の管理、罹災の証明の発行、被害の調査、問い合わせの窓口。どれも、通常の所掌とは別の仕事です。書くなら、「◯◯の発生時に、通常の業務と並行して◯◯の運営を担当。◯人の体制の割り振りと、記録の様式を◯日で整備」という形です。平常時の準備に関わっていた場合は、そちらも書いてください。「発生時の連絡の経路と様式を平常時に整備し、◯事案で運用」という形です。危機の対応の経験は、事業継続の体制を作る仕事として読まれます。
計画は作ったものの、実行されずに終わりました
それでも書けます。書き方は、過程の記述に重心を移すことです。「関係◯課の事業を棚卸しし、重複していた◯件を整理。指標の定義を統一し、測定の方法を設計」。ここまでは、実行の有無に関わらず事実です。そのうえで、実行に至らなかった要因を自分で把握しているなら、それも書けます。「予算の措置が見送られたため、初年度の実施は◯件にとどまった」という形です。うまくいかなかった案件の扱い方は、面接で見られている部分の1つです。成果だけを並べた書類より、要因を把握している書類のほうが信用されます。