業界研究 / 保険
保険の年収と働き方|公務員から移るとどう変わるか
保険への転職を考える財政課の方から、「移ったら給与と働き方はどう変わるのか」という質問を受けます。先に断っておきます。この記事には、保険業界の年収の相場やレンジは書いていません。生命保険と損害保険、会社の規模、職種(営業か専門職か官公庁か)で差が大きく、特に営業では歩合の設計で個人差が大きく、当社が裏を取った統計として示せる数字がないからです。求人ごとの条件は、掲載中の求人にそれぞれ書いてあります。
代わりにこの記事で整理するのは3つです。「公務員の処遇は法律と条例で決まり、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる」という仕組みの違い、保険に固有の働き方の構造(営業の目標と歩合、募集人の登録、全国転勤、自治体の年度周期、外回りの労働時間の扱い)を法律の側から読むこと、そして応募先の条件をどこで、どの順で確かめればよいかです。財政課の方は、給与条例と勤務時間条例の構造を知っているので、就業規則と労働条件通知書を同じ目で読めば、条件の確認は難しくありません。
業界の構造と職種ごとの評価は保険は公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に書いています。
業界構造の要点——処遇に影響する事業の形
保険業は内閣総理大臣の免許を受けた者が営み(保険業法第3条第1項)、保険の募集を行う特定保険募集人は登録を受けます(同法第276条)。処遇の観点で押さえておきたいのは、保険会社の処遇は営業の職種を軸に設計されていて、固定の給与と、成果に連動する変動(歩合、インセンティブ)の組み合わせが職種ごとに違うことです。官公庁・団体営業は個人営業とは指標が違いますが、営業の職種であることに変わりはなく、変動の部分がある会社があります。財政課の方が応募する官公庁の枠が、どの処遇の設計に入るかを確かめるのが出発点です。
公務員と民間で「決まり方」がどう違うか
| 項目 | 公務員(地方) | 民間(保険を含む) |
|---|---|---|
| 給与の決まり方 | 条例で定める(地方公務員法第24条第5項) | 就業規則と労働契約で定める。常時10人以上の会社は賃金の決定・計算・支払方法・昇給を就業規則に記載し届け出る義務(労働基準法第89条第2号) |
| 賞与・歩合 | 期末手当・勤勉手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項) | 「定めをする場合」の明示事項(労働基準法施行規則第5条第5号)。営業では成果に連動する歩合やインセンティブが賃金の決定・計算の方法として明示される(同条第3号) |
| 退職金 | 退職手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項) | 「定めをする場合」の記載事項。制度がない会社もありうる(労働基準法第89条第3号の2) |
| 時間外の扱い | 条例・規則で定める | 法定時間を超えた労働に割増賃金の支払義務(労働基準法第37条)。外回りで労働時間を算定し難いときは事業場外労働のみなし(第38条の2)がありうる |
| 年次有給休暇 | 条例で定める | 雇入れから6か月継続勤務・8割以上出勤で10労働日、以後勤続に応じて加算(労働基準法第39条) |
| 身分の保障 | 分限処分の事由は法律で限定 | 解雇は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠くと無効(労働契約法第16条)。労働契約法は公務員には適用されない(同法第21条第1項) |
公務員の処遇は「法律と条例に必ず書いてある」のに対し、民間の処遇は「定めがあるかどうかから確かめる」項目(賞与、退職金)がある——財政課の方が条件を読み違えるのは、ほとんどがここです。決まり方の違いの詳細は、GovTech向けに書いた自治体向けSaaS・GovTechの年収と働き方と同じ構造です。
保険に固有の働き方——法律の側から読む
1つ目は、営業の目標と歩合。保険会社では、契約の件数や保険料などの目標が設定され、成果に連動する歩合やインセンティブが処遇の一部になっている職種があります。官公庁・団体営業は、個人営業のような歩合の比重が高い設計とは違うことが多いですが、自分が入る枠の固定と変動の割合、変動の指標、達成できなかった場合の扱いは会社ごとに違います。労働基準法施行規則第5条第3号により、賃金の決定・計算の方法は労働条件の明示事項なので、変動の仕組みが通知書に書かれているかを見ます。財政課の方は、数字を「査定して抑える」側にいたので、「目標として追う」側への転換を理解しておく必要があります。
2つ目は、募集人の登録。保険の募集を行う特定保険募集人は登録を受ける必要があり(保険業法第276条)、保険会社では入社後に募集人の資格の取得と登録を求める仕組みが一般的です。官公庁・団体営業でも、自治体や職員に保険を提案する以上、登録が要ることが多いので、取得の期限と支援、取得しない場合の扱いを確かめます。
3つ目は、全国転勤。大手の保険会社は全国に拠点があり、就業場所の変更の範囲(転勤)が広い契約になっていることが多いです。官公庁・団体営業は本社や地域の拠点に置かれますが、転勤の範囲は会社によります。労働基準法施行規則第5条第1号の3により、就業場所と業務の「変更の範囲」は労働条件の明示事項なので、配属が官公庁・団体営業に特定されているか、転勤の範囲、業務の変更の範囲に個人営業が含まれるかを通知書で確かめます。
4つ目は、自治体の年度周期と外回りの労働時間。自治体の保険の契約は年度の切替に合わせて更新されることが多く(地方自治法第234条の契約方法、複数年度は債務負担行為——第214条)、団体保険の募集も年度の周期に合わせて動くので、官公庁・団体営業は年度末から年度初めに提案と契約の繁忙が集中しやすい構造です。外回りで労働時間を算定し難いときは事業場外労働のみなし(労働基準法第38条の2)が適用されることがありますが、携帯端末で随時指示を受けるなど算定できる状況では適用されません。自分の業務が本当に「算定し難い」状況かを確かめてください。
労働条件通知書の読み方——確かめる順序
労働基準法第15条第1項により、会社は労働契約の締結に際して労働条件を明示する義務があり、明示事項は労働基準法施行規則第5条に列挙されています。オファーの段階で受け取る労働条件通知書は、この順で読んでください。
1. 契約期間(第1号)と就業場所・業務の変更の範囲(第1号の3)。——配属が官公庁・団体営業に特定されているか、転勤の範囲、業務の変更の範囲に個人営業や代理店営業が含まれるか。官公庁の枠で入ることを前提にしている場合、この範囲は交渉の対象です。
2. 始業・終業、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇(第2号)。事業場外労働のみなしが適用される場合は、その旨が書かれているかを見ます。年度末の繁忙の実態を面接で聞いておきます。
3. 賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給(第3号)。——固定と変動(歩合、インセンティブ)の割合、変動の指標と計算式、支払時期。年俸制でも、法定時間を超えた労働には割増賃金の支払義務があります(労働基準法第37条)。募集人の資格に関わる手当の有無も確かめます。
4. 退職に関する事項(第4号)、退職手当(第4号の2)、賞与・臨時の賃金(第5号)。第4号の2と第5号は「定めをする場合」の事項なので、書かれていなければ制度がない可能性があります。書かれていない場合は、就業規則を見せてもらい、制度の有無を確認してください。
条件の読み方や、どこまで交渉できるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。
社会保険と給付——切り替わるもの、新しく対象になるもの
年金と健康保険。地方公務員は地方公務員共済組合の組合員ですが、民間の適用事業所に雇用されると厚生年金保険の被保険者になり(厚生年金保険法第9条)、健康保険は会社が加入する協会けんぽか健康保険組合に切り替わります。保険会社に入っても、自分の年金と医療は共済から厚生年金と健康保険に切り替わります。手続きは厚生年金に切り替える場合と保険料はどれが安いのか、の考え方に整理しています。
雇用保険。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外です(雇用保険法第6条第6号)。民間に移ると被保険者になり、育児休業給付金(同法第61条の7)など、公務員の間は対象外だった給付の対象になります。
退職手当。公務員の退職手当は条例で決まり、退職時に支給されて完結します(自己都合退職と定年退職で何が変わるか)。民間の退職金は「定めがある場合」の制度で、転職先に制度があるか、勤続何年から支給されるかを確かめる必要があります。公務員の退職手当と民間の退職金は通算されません。
掲載中の求人は、職種・雇用形態・勤務地・条件が一覧で見られます。会社ごとの条件を並べて比べるには、こちらが早いです。財政・会計の経験が効く求人を見てみる
まとめ
- この記事に業界の年収相場は書いていない。生保と損保、規模、職種、歩合の設計で差が大きく、裏を取った統計がないため。条件は掲載中の求人ごとに確かめる
- 公務員の処遇は法律と条例で決まり、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる。賞与・退職金は民間では「定めがある場合」の制度
- 保険は営業の目標と歩合が処遇に組み込まれている職種がある。官公庁・団体営業は個人営業とは設計が違うことが多いが、固定と変動の割合は会社ごと(施行規則第5条第3号で明示事項)
- 募集人の登録(保険業法第276条)は入社後に取得を求められる仕組みが一般的
- 全国転勤の範囲と、配属が官公庁・団体営業に特定されているか(施行規則第5条第1号の3)を確かめる
- 自治体の年度の切替に合わせて年度末から年度初めに繁忙が集中する。外回りの事業場外みなし(労働基準法第38条の2)は算定できる状況では適用されない
- 民間に移ると厚生年金・健康保険・雇用保険に切り替わり、育児休業給付金など新しく対象になる給付がある
よくある質問
保険会社は歩合が大きいと聞きました。官公庁・団体営業でもそうですか
歩合の比重が高い設計は、個人営業の職種の設計であることが多く、官公庁・団体営業は固定の割合が高い設計になっていることが一般的です。ただし、会社ごとに違い、変動の部分がまったくない会社は少ないです。労働基準法施行規則第5条第3号により賃金の決定・計算の方法は労働条件の明示事項なので、通知書で固定と変動の割合、変動の指標と計算式を確かめ、書かれていなければインセンティブ規程を見せてもらってください。変動の部分を固定と思い込んで生活設計をしないことが要点です。
募集人の資格は必ず取らなければなりませんか
保険の募集を行う特定保険募集人は登録を受ける必要があり(保険業法第276条)、保険会社では入社後に募集人の資格の取得と登録を求める仕組みが一般的です。官公庁・団体営業でも、自治体や職員に保険を提案する以上、登録が要ることが多いです。オファーの段階で「取得は必須か」「取得の期限と支援」「取得しない場合の処遇への影響」を確かめてください。応募の前提ではなく入社後の要件なので、応募の前に急ぐ必要はありません。
外回りの営業は「みなし労働時間」と言われました。残業代は出ないのですか
労働基準法第38条の2の事業場外労働のみなしは、労働時間の全部または一部を事業場外で従事し、労働時間を算定し難いときに所定労働時間労働したものとみなす制度です。携帯端末で随時指示を受けている、訪問先と時間が事前に決められて報告している、など労働時間を算定できる状況では適用されません。適用されると言われた場合、自分の業務が本当に「算定し難い」状況かを確かめ、労働条件通知書と就業規則の該当箇所を見せてもらってください。深夜・休日の労働には別途の割増賃金が必要です。
出典
- 保険業法 第3条(免許)/第276条(登録)|e-Gov法令検索
- 地方公務員法 第24条(給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準)|e-Gov法令検索
- 地方自治法 第204条(給料、手当及び旅費)/第214条(債務負担行為)/第234条(契約の締結)|e-Gov法令検索
- 労働基準法 第15条(労働条件の明示)/第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)/第38条の2(事業場外労働のみなし労働時間)/第39条(年次有給休暇)/第89条(就業規則の作成及び届出の義務)|e-Gov法令検索
- 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)|e-Gov法令検索
- 労働契約法 第16条(解雇)/第21条(適用除外)|e-Gov法令検索
- 雇用保険法 第6条(適用除外)/第61条の7(育児休業給付金)|e-Gov法令検索
- 厚生年金保険法 第9条(被保険者)|e-Gov法令検索