業界研究 / 介護・福祉
介護・福祉の年収と働き方|公務員から移るとどう変わるか
介護・福祉への転職を考える財政課の方から、「移ったら給与と働き方はどう変わるのか」という質問を受けます。先に断っておきます。この記事には、介護・福祉の年収の相場やレンジは書いていません。法人の規模と種類(社会福祉法人、株式会社、医療法人の介護事業)、職種(本部の経営管理か施設の事務か現場か)、地域で差が大きく、当社が裏を取った統計として示せる数字がないからです。求人ごとの条件は、掲載中の求人にそれぞれ書いてあります。
代わりにこの記事で整理するのは3つです。「公務員の処遇は法律と条例で決まり、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる」という仕組みの違い、介護・福祉に固有の働き方の構造(介護報酬で収入が決まる構造、人員基準で経費が縛られる構造、施設の交代制と夜勤、法人本部と施設の働き方の違い)を法律の側から読むこと、そして応募先の条件をどこで、どの順で確かめればよいかです。財政課の方は、給与条例と勤務時間条例の構造を知っているので、就業規則と労働条件通知書を同じ目で読めば、条件の確認は難しくありません。
業界の構造と職種ごとの評価は介護・福祉は公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に書いています。
業界構造の要点——処遇に影響する事業の形
介護保険は市町村と特別区が保険者で(介護保険法第3条)、事業者の収入の中心は、保険者が支給する介護サービス費と利用者の負担です。居宅介護サービス費の額は、厚生労働大臣が定める基準により算定した費用の額を基に決まり(第41条第4項)、事業者は値段を自分で決められません。指定居宅サービス事業者は、都道府県の条例で定める基準に従い、条例で定める員数の従業者を置かなければなりません(第74条第1項)。収入は国が定める基準で、経費は人員基準で縛られる——これが処遇に影響する最も大きな構造です。社会福祉法人は社会福祉事業を行う法人で(社会福祉法第22条)、経営基盤の強化と事業経営の透明性の確保が求められます(第24条)。
法人本部と施設では働き方が違います。本部の経営管理と事業企画は日勤が中心で、保険者と自治体との調整、申請と報告、経営計画を担います。施設は利用者の生活に合わせて動くので、現場は交代制と夜勤があり、施設の事務職も早番・遅番や休日の当番を持つことがあります。公立の福祉施設を指定管理者が管理する形(地方自治法第244条の2)では、指定管理料と指定の期間が処遇の原資と雇用の期間に影響します。
公務員と民間で「決まり方」がどう違うか
| 項目 | 公務員(地方) | 民間(介護・福祉を含む) |
|---|---|---|
| 給与の決まり方 | 条例で定める(地方公務員法第24条第5項) | 就業規則と労働契約で定める。常時10人以上の事業場は賃金の決定・計算・支払方法・昇給を就業規則に記載し届け出る義務(労働基準法第89条第2号) |
| 賞与・手当 | 期末手当・勤勉手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項) | 「定めをする場合」の明示事項(労働基準法施行規則第5条第5号)。介護職の処遇改善に関わる手当の設計は法人による。本部と事務職に及ぶかも法人による |
| 退職金 | 退職手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項) | 「定めをする場合」の記載事項。制度がない法人もありうる(労働基準法第89条第3号の2)。社会福祉法人では共済の退職金制度に加入している法人がある |
| 時間外の扱い | 条例・規則で定める | 法定時間を超えた労働に割増賃金の支払義務(労働基準法第37条)。施設では1か月単位の変形労働時間制(第32条の2)と夜勤がありうる |
| 年次有給休暇 | 条例で定める | 雇入れから6か月継続勤務・8割以上出勤で10労働日、以後勤続に応じて加算(労働基準法第39条) |
| 身分の保障 | 分限処分の事由は法律で限定 | 解雇は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠くと無効(労働契約法第16条)。労働契約法は公務員には適用されない(同法第21条第1項) |
公務員の処遇は「法律と条例に必ず書いてある」のに対し、民間の処遇は「定めがあるかどうかから確かめる」項目(賞与、退職金、手当)がある——財政課の方が条件を読み違えるのは、ほとんどがここです。介護・福祉ではもう一つ線があり、介護職向けの処遇改善の仕組みが本部の職員と事務職に及ぶかは法人の設計によります。介護職の求人票に書かれた手当が、自分の応募する職種に付くとは限りません。決まり方の違いの詳細は、GovTech向けに書いた自治体向けSaaS・GovTechの年収と働き方と同じ構造です。
介護・福祉に固有の働き方——法律の側から読む
介護・福祉には、他の業界にない働き方の構造が4つあります。
1つ目は、介護報酬で収入が決まる構造です。介護サービス費の額は厚生労働大臣が定める基準により算定され(介護保険法第41条第4項)、事業者は値段を決められません。処遇の原資は介護報酬の算定と利用者の数で決まり、本部の経営管理の仕事はこの構造の中で収支を組むことです。財政課の「予算を査定して配分する」働き方と違い、「決まった単価の中で収入を作る」働き方になります。面接では「法人の収入の構造と、本部と事務職の処遇がどう連動しているか」を聞くと、処遇の見通しが見えます。
2つ目は、人員基準で経費が縛られる構造です。指定居宅サービス事業者は条例で定める員数の従業者を置く義務があり(第74条第1項)、施設サービスにも同様の基準があります。人件費は経費の中で削れない部分が大きく、本部の職員の処遇はその残りで組まれます。「経費を削って処遇を上げる」という財政課の発想は、この構造では成り立ちにくいことを、面接の前に理解しておきます。
3つ目は、施設の交代制と夜勤です。施設は利用者の生活に合わせて動くので、現場は交代制と夜勤があり、1か月単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の2)で所定労働時間を組む施設があります。本部の経営管理は日勤が中心ですが、業務の変更の範囲に施設の事務や現場の応援が含まれていれば、交代制に回る可能性があります。労働条件通知書で業務の変更の範囲を確かめてください。
4つ目は、法人本部と施設の働き方の違いです。本部は保険者と自治体との調整、申請と報告、経営計画が仕事で、財政課の経験が最も効く場所です。施設の事務職は施設の会計と請求、行政への報告が仕事で、現場との距離が近く、法人によっては現場の応援に入ることがあります。同じ法人でも、本部と施設のどちらで採用されるかで、働き方と処遇の決まり方が違います。
労働条件通知書の読み方——確かめる順序
労働基準法第15条第1項により、会社は労働契約の締結に際して労働条件を明示する義務があり、明示事項は労働基準法施行規則第5条に列挙されています。オファーの段階で受け取る労働条件通知書は、この順で読んでください。
1. 契約期間(第1号)と就業場所・業務の変更の範囲(第1号の3)。——担当する業務が本部の経営管理・事業企画に特定されているか、業務の変更の範囲に施設の事務や現場の応援が含まれるか、法人内の施設間の異動の範囲。指定管理を受けている法人では、指定の期間と契約期間の関係も見ます。
2. 始業・終業、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇(第2号)。1か月単位の変形労働時間制や交代制が適用される場合は、その旨と勤務の組み方が書かれているかを見ます。本部の職員でも、行事や災害時の応援の扱いを確かめます。
3. 賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給(第3号)。——基本給と手当の内訳、介護職向けの処遇改善に関わる手当が本部・事務職に付くか、時間外の割増賃金の計算の仕方、支払時期。年俸制でも、法定時間を超えた労働には割増賃金の支払義務があります(労働基準法第37条)。
4. 退職に関する事項(第4号)、退職手当(第4号の2)、賞与・臨時の賃金(第5号)。第4号の2と第5号は「定めをする場合」の事項なので、書かれていなければ制度がない可能性があります。社会福祉法人では共済の退職金制度に加入している法人があるので、加入の有無と自分が対象になるかを確かめます。
「この条件は妥当か」は、業界のほかの求人と並べないと判断できません。同じ業務で複数の法人の条件を見比べたうえで、条件の読み方から相談できます。
社会保険と給付——切り替わるもの、新しく対象になるもの
年金と健康保険。地方公務員は地方公務員共済組合の組合員ですが、民間の適用事業所に雇用されると厚生年金保険の被保険者になり(厚生年金保険法第9条)、健康保険は法人が加入する協会けんぽか健康保険組合に切り替わります。社会福祉事業を行う事業所は常時5人以上の従業員を使用する場合に適用事業所となり(厚生年金保険法第6条第1項第1号タ)、社会福祉法人や株式会社などの法人は常時従業員を使用していれば適用事業所です(同項第2号)。介護・福祉の法人に入れば、自分の年金と医療は共済から厚生年金と健康保険に切り替わります。手続きは厚生年金に切り替える場合と保険料はどれが安いのか、の考え方に整理しています。
雇用保険。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外です(雇用保険法第6条第6号)。民間に移ると被保険者になり、育児休業給付金(同法第61条の7)など、公務員の間は対象外だった給付の対象になります。
退職手当。公務員の退職手当は条例で決まり、退職時に支給されて完結します(自己都合退職と定年退職で何が変わるか)。民間の退職金は「定めがある場合」の制度で、転職先に制度があるか、共済の退職金制度に加入しているか、勤続何年から支給されるかを確かめる必要があります。公務員の退職手当と民間の退職金は通算されません。
掲載中の求人は、職種・雇用形態・勤務地・条件が一覧で見られます。法人ごとの条件を並べて比べるには、こちらが早いです。財政・会計の経験が効く求人を見てみる
まとめ
- この記事に年収の相場やレンジは書いていません。法人の種類と規模、職種、地域で差が大きく、裏を取った統計がないためです
- 公務員の処遇は法律と条例、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる。賞与・退職金・手当は「定めがある場合」の項目。介護職向けの処遇改善の手当が本部・事務職に及ぶかは法人の設計による
- 固有の構造は、介護報酬で収入が決まる構造(介護保険法第41条)、人員基準で経費が縛られる構造(第74条)、施設の交代制と夜勤(労働基準法第32条の2)、法人本部と施設の働き方の違いの4つ
- 労働条件通知書は、業務と就業場所の変更の範囲(施設の事務や現場の応援が含まれるか)→労働時間と交代制の組み方→賃金の内訳と処遇改善の手当の対象→退職金・賞与の定めの有無(共済の退職金制度の加入)の順で読む
- 年金と医療は共済から厚生年金・健康保険へ、雇用保険は新しく被保険者に。退職手当は通算されない
- 法人の条件と財政課に残った場合の見込みを、同じ紙に並べて比較する
よくある質問
介護・福祉は給与が低いと聞きました。本部の事務職でもそうですか
数字では答えられません。事業者の収入は厚生労働大臣が定める基準により算定される介護報酬で決まり(介護保険法第41条第4項)、人員基準(第74条)で人件費の削れない部分が大きいので、本部と事務職の処遇はその残りで法人ごとに組まれます。法人の種類と規模、地域、職種で差があり、当社が裏を取った統計はありません。財政課と比べるときは、給料の額だけでなく、賞与と退職金の定めの有無、介護職向けの処遇改善の手当が自分の職種に付くか、業務の変更の範囲(交代制に回る可能性)、昇給の仕組みを通知書と就業規則で確かめ、財政課に残った場合の給料表の先と退職手当、共済の年金と、同じ紙に並べてください。「低い」「高い」は、並べて初めて言えます。
本部の経営管理で採用されましたが、「施設の応援に入ることがある」と言われました。交代制になりますか
労働条件通知書の業務の変更の範囲(労働基準法施行規則第5条第1号の3)と、労働時間の定め(同条第2号)で確かめてください。業務の変更の範囲に施設の事務や現場の応援が含まれていれば、法人はその範囲で配置を変えられます。応援が臨時のものか、交代制の勤務に組み込まれるものかは、1か月単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の2)の適用の有無と、勤務の組み方で分かります。臨時の応援であれば、その時間が時間外労働として割増賃金の対象になるか(第37条)も確かめます。「応援に入ることがある」という説明だけで承諾せず、範囲と頻度と扱いを書面で確かめてください。
社会福祉法人は退職金の共済に入っていると聞きました。転職先も入っていますか
法人によります。社会福祉法人の中には、職員の退職金のために共済の退職金制度に加入している法人がありますが、加入は法人の判断で、加入していない法人や、株式会社の介護事業者では別の制度を持つ法人もあります。退職手当は労働条件通知書の「定めをする場合」の事項(労働基準法施行規則第5条第4号の2)なので、書かれていなければ制度がない可能性があります。加入の有無、自分の職種が対象になるか、勤続何年から支給されるかを、通知書と就業規則で確かめてください。公務員の退職手当とは通算されないので、財政課を退職する時点の退職手当と、転職先の退職金の見込みを、別々に並べて比べます。
出典
- 介護保険法 第3条(保険者)/第41条(居宅介護サービス費の支給)/第74条(指定居宅サービスの事業の基準)|e-Gov法令検索
- 社会福祉法 第22条(定義)/第24条(経営の原則等)|e-Gov法令検索
- 地方公務員法 第24条(給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準)|e-Gov法令検索
- 地方自治法 第204条(給料、手当及び旅費)/第244条の2(公の施設の設置、管理及び廃止)|e-Gov法令検索
- 労働基準法 第15条(労働条件の明示)/第32条の2(1か月単位の変形労働時間制)/第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)/第39条(年次有給休暇)/第89条(就業規則の作成及び届出の義務)|e-Gov法令検索
- 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)|e-Gov法令検索
- 労働契約法 第16条(解雇)/第21条(適用除外)|e-Gov法令検索
- 雇用保険法 第6条(適用除外)/第61条の7(育児休業給付金)|e-Gov法令検索
- 厚生年金保険法 第6条(適用事業所)/第9条(被保険者)|e-Gov法令検索