業界研究 / 総合コンサルティング
未経験から総合コンサルティングに入るには|公務員経験の使い方
「コンサルの経験がなく、民間で働いたこともなく、英語も得意ではない。それでも総合コンサルティングに入れるのか」——財政課の方からこの質問を受けたとき、当社の答えは「民間向けの戦略コンサルタントには入れない。ただし、公共部門の計画・財政・実行支援の枠なら、財政課の『財源の裏付けを組む』経験が経験者として扱われる」です。
「未経験」と一括りにされているものは、3つの別のものです。仮説を立てて提案するコンサルの型を経験していない(コンサル未経験)、民間企業で働いた経験がない(民間未経験)、自治体の財源と意思決定の仕組みを知らない(発注者側未経験)。総合コンサルの公共部門が重く見るのは3つ目で、財政課の方はここだけは経験者です。前の2つが未経験であることは、枠を選べば入り口を閉じません。ただし、総合コンサルには全社共通の選考(筆記、ケース面接)があり、そこは公共の経験と関係なく準備が要る——これが他の業界と違う点です。
この記事では、「未経験」の3つの分解、財政課の経験が効く入り口の枠、全社共通の選考への準備、学位と資格の位置づけ、在職中にできる準備の順序、公務員が使えない支援制度と使える機会、服務の線を整理します。業界の構造と職種ごとの評価は総合コンサルティングは公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に、志望動機は総合コンサルティングの志望動機に書いています。
業界構造の要点——「民間向け」と「公共部門」の線
総合コンサルは民間向け(戦略、業務、IT、人事)の比重が大きく、公共部門はその一部です。公共部門は、自治体の総合計画・総合戦略(まち・ひと・しごと創生法第10条に基づく市町村の総合戦略は策定が努力義務)の策定支援、PPP/PFI(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律第2条第1項が定義する公共施設等の整備の枠組み)、公共施設マネジメント(総務省が2014年に指針を示した総合管理計画)、行政評価、DX計画を受託し、受託は地方自治法第234条の契約方法により、複数年度の支援は債務負担行為(同法第214条)で予算を組みます。
この構造で押さえるべきことは、「民間向けの戦略コンサルタントは企業の経営の視点と構造化の型が前提で、財政課の経験では代替できない」線と、「公共部門の計画・財政・実行支援は、発注者の内側の経験が評価される」枠が、同じ会社の中に並んでいることです。未経験から入る道は後者にあります。ただし、選考の一部は全社共通なので、前者の基準(構造化の型)を最低限は通る必要があります。
「未経験」を3つに分ける
| 未経験の種類 | 財政課の方の実態 | 総合コンサルでの重み |
|---|---|---|
| 発注者側未経験(自治体の財源と意思決定を知らない) | 経験者。計画の財政フレーム、起債・補助金・基金・債務負担行為、査定の視点、議会説明を実務で回している | 公共部門の計画・財政・実行支援では最も重い。「外から学んだ」コンサルタントが持っていない知識 |
| コンサル未経験(仮説を立てて提案する型を経験していない) | 未経験。ただし、歳入を要素に分解して分析し、査定の判断をし、議会に根拠を添えて説明する経験はある | 中程度。構造化の型は財政課の分析と同じで、題材を移せば使える。入社後に学ぶ前提で採用されることが一般的だが、全社共通のケース面接で最低限は示す必要がある |
| 民間未経験(会社で働いたことがない) | 未経験。ただし、受託した成果物を発注者側で読み、査定に使っている | 中程度。入社後の慣れで補える。選考では「提案して自治体が決める側」への転換の理解と、民間案件への柔軟さで見られる |
財政課の方が「未経験」と感じているのは後ろの2つですが、公共部門の枠で最も重いのは1つ目で、そこは経験者です。ただし総合コンサルでは、2つ目(構造化の型)を全社共通の選考で最低限は示す必要があります。
入り口になる枠——財政課の経験が効く順
1. 公共部門コンサルタント(計画・財政・実行支援)。総合計画・総合戦略の策定支援、財政フレーム、PPP/PFI、公共施設マネジメント、調達支援。財政課の経験が最も直接に効く枠で、コンサルの型は入社後に学ぶ前提で採用されることが一般的です。求人票に「自治体」「公共」「総合計画」「PPP/PFI」「公共施設マネジメント」「財政」の言葉があるかで見分けます。
2. PMO・実行支援(公共)。計画の実行、進捗・課題の管理、庁内調整。財政課で査定を通じて庁内のどこで何が引っかかるかを見てきた経験が効きます。
3. 業務改革コンサルタント(公共)。自治体の業務フローの分析と改善案の設計。財務会計・予算編成の業務フローを毎年回していた経験が効きますが、業務系以外の業務は別の経験なので、担当領域を確かめます。
4. 戦略コンサルタント(民間向け)、IT・デジタル(テクノロジー系)。未経験からの入り口としては現実的ではありません。前者は企業の経営の視点と市場の分析、後者は技術が前提です。財政課の経験だけでこれらの枠に入る道は、当社の見る範囲では一般的ではありません。
入り口は1か2、次いで3、という順序が現実的です。ただし、どの枠でも全社共通の選考(筆記、ケース面接)を通る必要があるので、そこは別に準備します。
全社共通の選考への準備——公共の経験と関係なく要るもの
総合コンサルの選考では、公共部門の枠で応募しても、筆記・適性検査とケース面接(複数回、題材は公共に限らない)が全社共通で課されることが一般的です。ここは財政課の経験が直接には効かないので、別に準備します。
筆記・適性検査。論理・数的・言語の筆記は公務員試験の教養(数的処理、判断推理、文章理解)と重なる部分がありますが、時間制限が厳しいことが多いです。内容より速さの練習に重点を置きます。英語の筆記が課される会社は、応募要件で確かめます。
ケース面接(民間の題材)。「ある小売企業の売上が落ちている」のような民間の題材が出たとき、「行政の経験しかない」で止まらないことが要点です。構造化の型は公共でも民間でも同じ——財政課で歳入を「税×交付税×国庫支出金」、税を「個人×法人×固定資産」に分けて分析していた型は、売上を「客数×客単価」に分ける型と同じです。財政課の分析の型を民間の題材に移す練習を、応募前に数回はしておきます。選考フローと面接で見られている観点に、ケースの答え方を整理しています。
学位と資格の位置づけ——取るべきか
未経験の方から「MBAを取ってから応募すべきか」「中小企業診断士は有利か」と聞かれます。答えは、公共部門の計画・財政・実行支援の枠では前提ではなく、取ることで民間向けの戦略コンサルタントの枠が開くわけでもないです。
学位が応募要件になっている枠は、応募要件で分かります。要件になっていない枠では、財政課の経験を「財源と実行」の軸で棚卸しした業務の具体が、学位や資格より重く見られます。総合戦略の財政フレーム、公共施設マネジメントの更新費用と基金・起債の計画、PFIの検討、起債の協議、補助事業の査定、債務負担行為の設定、議会での説明——それぞれで自分が何を判断し、何を作ったか。これが職務経歴書の中心です。
自分の業務の棚卸しが、どの会社のどの枠に当たるのかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。
在職中にできる準備——順序
1. 業務の棚卸し(コンサルの型の学習より先)。「財源と実行」の軸で、自分が判断し、作ったものを書き出す。計画と財源と実行を「つないだ」場面を中心に。
2. 自分の自治体の計画の課題を「現状→原因→仮説→提案→留保」で3分で話す練習。公表資料(総合計画、総合戦略、総合管理計画、予算書、健全化判断比率の公表資料)の範囲で。査定の型(出てきたものを判断する)から抜けて、「まだないものを仮説として作り、提案する」まで言い切る練習です。
3. 財政課の分析の型を、民間の題材に移す練習。歳入の要素分解を、売上や利益の要素分解に置き換えて、同じ順序で仮説と提案を言う。全社共通のケース面接への準備で、公共の経験と関係なく要ります。
4. 自分の自治体の計画を、支援者の視点で読み直す。「支援者がどう作ったか」「財政課としてどこに口を出したか」「財源の裏付けは付いているか」の視点で。
5. 庁内の研修と、業務での機会。地方公務員法第39条は、職員に研修を受ける機会が与えられなければならないと定めています。政策形成、公共施設マネジメント、PPP/PFIの庁内研修や、他の自治体との研究会は、在職中の正当な学習機会です。また、財政課として総合計画の財政フレーム、公共施設マネジメント、PFIの検討、行政評価の財政の側に深く関わることは、そのまま経験になります。転職のためではなく、現在の業務としてこれらに関わることが、結果として最も強い準備です。
公務員が使えない支援制度と、代わりの機会
雇用保険の教育訓練給付金(雇用保険法第60条の2)は、対象が雇用保険の被保険者または被保険者でなくなってから一定期間内の人で、支給要件期間が3年以上あることが条件です。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外なので(同法第6条第6号)、在職中の公務員はこの給付の対象になりません。MBAの課程やコンサルの講座が指定の教育訓練になっていても、在職中は使えないということです。民間に転職した後、被保険者としての期間が要件を満たせば対象になります。
代わりに使えるのは、前述の庁内研修(地方公務員法第39条)と、自治体職員向けに開かれている外部の研修です。「転職の準備」としてではなく「今の業務の能率を上げる研修」として探すと、庁内の手続きも通りやすく、内容も業務に直結します。
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服務の線——在職中の準備で触れてはいけないこと
1つ目は、自治体の内部資料を学習や応募の材料に使うこと。地方公務員法第34条の秘密を守る義務により、未公表の資料(未公表の財政見通し、査定の内訳、個別の受注者への評価、プロポーザルの審査の内容、庁内の未公表の判断)を持ち出して、ケースの練習や勉強の材料にすることはできません。練習は公表資料の範囲で行い、資料を持ち出さないでください。
2つ目は、報酬を得る副業的な準備。地方公務員法第38条は、任命権者の許可なく、報酬を得て事業や事務に従事することを制限しています。総合コンサルから「入社前に案件を手伝ってほしい」「有償のアドバイザーになってほしい」と言われた場合、許可なく報酬を受ければこの条文に触れます。在職中の副業・兼業の許可に、許可の仕組みを整理しています。
3つ目は、在職中に応募先の調達に関わっている場合。コンサルティング業務の委託料の査定、プロポーザルの審査、契約の担当に該当する場合は、選考の中で隠さず伝え、応募の時期と入社後の担当の切り分けを会社側と相談してください。退職後に元の職場へ働きかけることは地方公務員法第38条の2で規制されており、公共部門で元の自治体を担当すると規制との関係が問題になりえます。再就職者による働きかけの規制に整理しています。
内定後は、労働基準法第15条により労働条件が書面などで明示されるので、未経験での入社に伴う条件(入社時の職位、研修期間、試用期間、業務の変更の範囲に民間向けの部門が含まれるか——労働基準法施行規則第5条第1号の3)を通知書で確かめてから承諾してください。
まとめ
- 「未経験」は発注者側未経験・コンサル未経験・民間未経験の3つに分かれる。公共部門の枠で最も重いのは発注者側未経験で、財政課の方はそこは経験者
- 民間向けの戦略コンサルとテクノロジー系は前提が違う。入り口は公共部門コンサルタント(計画・財政・実行支援)とPMO・実行支援が現実的
- 全社共通の選考(筆記、民間の題材のケース面接)は公共の経験と関係なく準備が要る。財政課の分析の型(歳入の要素分解)を民間の題材に移す練習をする
- MBAや中小企業診断士は、公共部門の枠の前提ではない。構造化と提案の型を学ぶ訓練として位置づける
- 準備の順序は業務の棚卸し(財源と実行の軸)→提案を3分で言う練習→分析の型を民間の題材に移す練習→自分の自治体の計画を支援者の視点で読む→庁内研修と業務での機会
- 在職中の公務員は雇用保険の適用除外で、教育訓練給付金の対象にならない
- 内部資料を持ち出さない(第34条)。入社前の有償の協力には許可が要る(第38条)。調達に関与しているなら隠さず相談する(第38条の2)
よくある質問
英語が得意ではありません。総合コンサルには入れませんか
公共部門で自治体向けの支援を担当する枠では、英語が応募の前提になることは一般的ではなく、自治体の計画と財源の仕組みを日本語の公文書の作法で扱えることのほうが重く見られます。外資系の会社では社内の研修や資料に英語が使われることがあり、筆記に英語が含まれる会社もあるので、求人票の応募要件と、面接で「公共部門の日常の業務で英語を使う場面はあるか」を確かめてください。英語を理由に候補から外す前に、枠ごとの要件を見ることを勧めます。
ケース面接で民間の題材が出たら、何もできない気がします
財政課で歳入を税・交付税・国庫支出金に分け、税を個人・法人・固定資産に分けて分析し、原因を推定し、査定の判断をしていた型は、売上を客数と客単価に分け、原因を推定し、施策を提案する型と同じです。違うのは題材だけで、構造化の道具は持っています。応募前に、身近な題材(近所の店の売上、自治体の施設の利用者数など)で「要素に分ける→原因の仮説→提案→留保」を数回練習すれば、民間の題材でも止まらずに進められます。「行政の経験しかない」ではなく「分析の型は同じなので、この題材ならこう分ける」と進めてください。
在職中に、コンサル会社が主催する自治体向けのセミナーや研究会に参加してよいですか
自治体の担当者として業務で参加するセミナーは、業務そのものです。転職の準備として個人で参加する場合は、報酬を伴わず、勤務時間外で、内部の資料を持ち出さなければ、参加そのものは服務の線に触れません。ただし、主催する会社が自分の自治体の調達(計画策定支援やPFIのアドバイザリー)を受託している場合、在職中の関係の持ち方は慎重に扱う必要があるので、参加前に所属の服務担当に確認するのが安全です。在職中の副業・兼業の許可に、許可の要否の考え方を整理しています。
出典
- まち・ひと・しごと創生法 第10条(市町村まち・ひと・しごと創生総合戦略)|e-Gov法令検索
- 民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律 第2条(定義)|e-Gov法令検索
- 地方自治法 第214条(債務負担行為)/第234条(契約の締結)|e-Gov法令検索
- 地方公務員法 第34条(秘密を守る義務)/第38条(営利企業への従事等の制限)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)/第39条(研修)|e-Gov法令検索
- 雇用保険法 第6条(適用除外)/第60条の2(教育訓練給付金)|e-Gov法令検索
- 労働基準法 第15条(労働条件の明示)|e-Gov法令検索
- 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)|e-Gov法令検索
- 公共施設等の総合的かつ計画的な管理の推進|総務省