財政課転職PUBLIC → PRIVATE 無料で相談する

業界研究 / シンクタンク・調査研究

シンクタンク・調査研究は公務員のどの経験を評価するか

シンクタンク・調査研究は、財政課の方が「頭の良い人の世界」と敬遠しがちな業界です。ただ、この業界の公共部門が受託しているのは、自治体の総合計画・総合戦略の策定支援、行政評価、公共施設マネジメント、財政分析、国の政策調査といった、財政課が発注者側で毎年触れてきた業務そのものです。「調査研究」という言葉の印象より、業務の中身は財政課に近い。

財政課の経験がこの業界で評価されるのは、「自治体の財政の数字を、制度の仕組みと一緒に読める」からです。決算統計、健全化判断比率、財政指標の意味、補助金と交付税の関係、総合計画の財政フレーム——シンクタンクの研究員の多くは、これらを「調べて理解した」側で、「作った」側ではありません。財政課の方は「作った」側です。

この記事では、シンクタンク・調査研究の業界構造(受託の仕組み、公共部門と民間部門の違い)を法律と公式資料で押さえたうえで、財政課の経験のうちどこが評価され、どこが評価されないかを、職種ごとに整理します。「調査研究」の言葉で候補から外す前に、効く場所を先に知ってください。

業界構造——「公共部門の受託調査」と「民間向け」で仕事が違う

シンクタンク・調査研究の会社は、大きく分けて、金融機関や企業グループの系列、独立系、特定の政策分野に特化した組織があります。財政課の経験が効くのは、いずれのタイプでも「公共部門」——国・自治体から調査や計画策定の支援を受託する部門です。民間企業向けの市場調査や経営コンサルティングの部門では、財政課の経験は直接には効きません。

公共部門の受託の仕組みは、自治体側から見れば財政課がよく知るものです。地方自治法第234条により、契約は一般競争入札、指名競争入札、随意契約のいずれかで、随意契約は施行令第167条の2に列挙された場合に限られます。計画策定支援や調査業務は「その性質又は目的が競争入札に適しない」契約(同条第1項第2号)としてプロポーザル方式で受託されることが多く、受注者は「企画提案書」で選ばれます。

部門主な業務発注者財政課の経験
公共部門(自治体向け)総合計画・総合戦略の策定支援、行政評価、公共施設マネジメント、財政分析、住民意識調査、個別政策の調査自治体(プロポーザルが多い)直接効く
公共部門(国向け)国の政策調査、制度の効果検証、自治体の実態調査、統計の分析各府省効く。「自治体側の実態」を知っている人が少ない
民間向け市場調査、経営コンサルティング、企業の事業戦略企業直接には効かない

この構造で押さえるべきことは、「公共部門の枠を持つ会社か」「その枠のどこに自分の経験が当たるか」を先に見ることです。シンクタンクと一口に言っても、公共部門の比重は会社によって大きく違います。

財政課の経験が効く領域——4つ

1. 財政分析。地方公共団体の財政の健全化に関する法律第3条は、自治体の長に毎年度、実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率、将来負担比率(健全化判断比率)を監査委員の審査に付し、議会に報告し、公表することを義務づけ、同法第4条は健全化判断比率のいずれかが早期健全化基準以上の場合に財政健全化計画の策定を求めています。シンクタンクは自治体の財政分析や中長期の財政見通しを受託しますが、これらの比率の算定の裏側(何を分子・分母に入れるか、繰出金や債務負担行為がどう効くか)を実務で知っている人は、業界では少数です。財政課で決算統計や健全化判断比率の算定を担当した方は、この領域でそのまま経験者です。

2. 計画の財政フレーム。総合計画、まち・ひと・しごと創生法第10条に基づく市町村の総合戦略(策定は努力義務)、公共施設等総合管理計画(総務省が2014年に指針を示したもの)——シンクタンクはこれらの策定支援を受託します。計画には財政フレーム(将来の歳入・歳出の見通しと、計画に充てられる財源)が要り、財政課はそのフレームを作る側でした。計画の「施策」の部分は研究員が書けても、「財源の裏付け」の部分を自治体の側の作法で書ける人は限られます。

3. 補助金・交付税の制度と、自治体側の運用。国向けの政策調査では、制度が自治体の現場でどう運用されているかを調べます。財政課で補助事業の査定、交付税の算定、起債の協議をしていた方は、制度の条文と、自治体側の実態の両方を知っています。国の側は自治体の実態を直接には見られないので、この「両方を知っている」ことが調査の質を左右します。

4. 議会・住民向けの説明資料。財政課は、予算・決算を議会と住民に説明する資料を毎年作っています。シンクタンクの成果物(報告書、計画の案)も、最終的には自治体の議会と住民に説明されるものです。「どこまで書けば議会が納得し、どこを書きすぎると質問が来るか」を知っていることは、成果物の実用性に直結します。

職種ごとの評価——財政課の経験はどこで効くか

職種業務財政課の経験の評価評価される部分評価されない部分
研究員・コンサルタント(公共部門)自治体・国からの受託調査、計画策定支援、報告書の執筆、自治体との協議高い財政の数字と制度の読み方、計画の財政フレーム、自治体の意思決定の作法、議会向けの説明調査の設計(アンケート、統計の手法)、報告書の構成と執筆の型は学習が要る
営業・プロポーザル対応自治体への提案、企画提案書の作成、受託の獲得中〜高発注者側の予算の周期と査定の視点。提案の時期と内容を組める会社の実績と研究員の配置は変えられない
データ分析・統計統計データの加工と分析、統計法第33条の調査票情報の提供を受けた分析など中決算統計や財政指標のデータの構造を知っている統計の手法、分析ツールは学習が要る
民間向けコンサルタント企業の市場調査、事業戦略低い行政の制度を知っていることが企業側の調査で補助的に効くことはある企業の経営の視点、市場の分析は別の経験

財政課の経験が最も評価されるのは、公共部門の研究員・コンサルタントです。ただし、この職種で評価されるのは「財政の数字と制度を読める」ことで、調査の設計と報告書の執筆は入社後に学ぶ前提です。財政課で作っていた「議会向けの説明資料」と、シンクタンクの「報告書」は、目的も型も違います。

評価されない経験——3つの落とし穴

1つ目は、「調べたことを書く」で止まる姿勢。財政課の資料は、事実と数字を正確に示すことが目的です。シンクタンクの成果物は、事実から「だから自治体はこうすべき」という示唆を出すことが目的です。面接で「あなたの自治体の財政の課題は何で、どうすべきだと思うか」と聞かれて、数字の説明で終わると、「研究員には向かない」と見られます。数字の先の示唆まで言う練習が要ります。

2つ目は、自分の自治体の運用の一般化。財政課の実務は自治体ごとに違います。シンクタンクは複数の自治体を相手にし、国向けの調査では全国の実態を扱うので、「私の自治体ではこうだった」を「自治体一般はこうだ」と語ると、面接で修正されます。共通する制度(地方財政法、健全化法、交付税の仕組み)と、自治体ごとの運用を分けて話すのが型です。

3つ目は、「発注者の視点」への過信。財政課で計画策定支援の委託料を査定していた方は、受注者側に移ると、自分が査定していた相手にプロポーザルを出し、選ばれるのを待つ立場になります。「成果物の質を発注者側で見ていた」ことは提案の精度を上げますが、「決める側」の感覚のまま来ていると、入社後にストレスになります。

自分の経歴がどう言い換えられるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。

入り方——職種の選び方と、準備

1. 「公共部門」の枠がある会社を探す。求人票で「自治体」「行政」「公共政策」「計画策定」「行政評価」「財政」といった言葉が業務内容にある職種を探してください。この言葉がなく「市場調査」「経営戦略」だけの会社では、財政課の経験が効く枠がない可能性が高いです。

2. 財政課の業務を「数字と制度」の軸で棚卸しする。決算統計の作成、健全化判断比率の算定、交付税の算定、起債の協議、中期財政計画、総合計画の財政フレーム、議会向けの説明資料。それぞれで自分が「何を算定し、何を判断し、何を書いたか」を書き出すと、そのまま職務経歴書の材料になります。

3. 自分の自治体の総合計画・総合戦略・総合管理計画を、受注者の視点で読み直す。財政課にいた方は、これらの計画の財政フレームに関わっていることが多いはずです。「受注者がどう作ったか」「財政課としてどこに口を出したか」「示唆として何が書かれ、何が書かれていないか」の視点で読み直すと、業務のイメージがつかめます。

4. 「数字の先の示唆」を言う練習。自分の自治体の財政の課題を、数字→原因→示唆の順で3分で話せるようにしてください。地方自治法第2条第14項の「最少の経費で最大の効果」を、査定する側ではなく、計画を提案する側から実現する——この視点で組み立てると、財政課の経験とシンクタンクの業務が1本でつながります。

5. 服務の線を確かめる。在職中にシンクタンクの調達(委託料の査定、プロポーザルの審査)に関わっている場合は、その会社への応募の時期と、退職後の働きかけの規制(地方公務員法第38条の2)を確認してください。自治体の未公表の数字を職務経歴書や面接で使わないこと(第34条)も、この業界では特に確認されます。再就職者による働きかけの規制と守秘義務は退職後も続くかに整理しています。

行政が相手の求人は、掲載中のものから「公共部門の枠があるか」が業務内容で見えます。行政が相手の求人を見てみる

まとめ

よくある質問

修士や博士の学位がなくても応募できますか

公共部門の研究員・コンサルタントの採用で、学位が応募の前提になるかは会社によって違います。政策研究に特化した組織では学位が重視されることがありますが、自治体向けの計画策定支援や行政評価を受託する部門では、自治体の実務を知っていることが学位より重く見られることが一般的です。求人票の応募要件を確かめ、学位が必須でない枠で、財政課の経験を「数字と制度」の軸で示すのが現実的です。

財政課で決算統計や健全化判断比率を担当していました。どの職種を見ればよいですか

公共部門の研究員・コンサルタントのうち、財政分析、中長期財政見通し、公共施設マネジメント、総合計画の策定支援を業務内容に挙げている職種が最も近いです。健全化判断比率の算定(地方公共団体の財政の健全化に関する法律第3条)の裏側を実務で知っていることは、自治体の財政分析を受託する部門でそのまま使う知識です。求人票にこれらの言葉がない会社は、財政の側の枠がない可能性が高いので、業務内容で絞ってください。

報告書を書いた経験がありません。研究員としてやっていけますか

議会向けの説明資料や予算の説明書を書いた経験は、報告書の執筆と目的も型も違いますが、「数字を正確に示し、根拠を添える」基本は共通しています。違うのは、報告書が「数字の先の示唆」まで書くことです。面接では、自分の自治体の財政の課題を数字→原因→示唆の順で話せるかが見られます。報告書の構成と執筆の型は入社後に学ぶ前提で採用されることが一般的なので、経験がないこと自体で不利になるより、示唆を言えないことのほうが不利になります。

出典

  1. 地方公共団体の財政の健全化に関する法律 第3条(健全化判断比率の公表等)/第4条(財政健全化計画)|e-Gov法令検索
  2. まち・ひと・しごと創生法 第10条(市町村まち・ひと・しごと創生総合戦略)|e-Gov法令検索
  3. 統計法 第33条(調査票情報の提供)|e-Gov法令検索
  4. 地方自治法 第2条第14項(最少の経費で最大の効果)/第234条(契約の締結)|e-Gov法令検索
  5. 地方自治法施行令 第167条の2(随意契約)|e-Gov法令検索
  6. 地方公務員法 第34条(秘密を守る義務)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)|e-Gov法令検索
  7. 公共施設等の総合的かつ計画的な管理の推進|総務省

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)

「自分の経験に、どこで値段が付くのか」から相談できます

在職中でも、情報収集だけでも構いません。応募する求人が決まっていない段階のほうが、むしろ整理する意味があります。ご利用はすべて無料です。