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業界研究 / シンクタンク・調査研究

未経験からシンクタンク・調査研究に入るには|公務員経験の使い方

「研究をしたことがなく、報告書も書いたことがなく、民間で働いたこともない。それでもシンクタンク・調査研究に入れるのか」——財政課の方からこの質問を受けたとき、当社の答えは「研究者としては入れない。ただし、公共部門の研究員・コンサルタントの枠なら、財政課の『数字を作った側』の経験が経験者として扱われる」です。

「未経験」と一括りにされているものは、3つの別のものです。調査の設計と報告書の執筆をしたことがない(調査研究未経験)、民間企業で働いた経験がない(民間未経験)、自治体側の財政の数字と意思決定の仕組みを知らない(発注者側未経験)。シンクタンクの公共部門が重く見るのは3つ目で、財政課の方はここだけは経験者です。前の2つが未経験であることは、枠を選べば入り口を閉じません。

この記事では、「未経験」の3つの分解、財政課の経験が効く入り口の枠、学位の位置づけ、在職中にできる準備の順序、公務員が使えない支援制度と使える機会、服務の線を整理します。業界の構造と職種ごとの評価はシンクタンク・調査研究は公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に、志望動機はシンクタンク・調査研究の志望動機に書いています。

業界構造の要点——「研究者」と「公共部門の研究員」の線

シンクタンク・調査研究の公共部門は、国・自治体から総合計画・総合戦略(まち・ひと・しごと創生法第10条に基づく市町村の総合戦略は策定が努力義務)の策定支援、公共施設等総合管理計画(総務省が2014年に指針を示したもの)、行政評価、財政分析(地方公共団体の財政の健全化に関する法律第3条により毎年度公表される健全化判断比率の分析など)、国の政策調査を受託します。統計の分析では、統計法第33条に基づく調査票情報の提供を受けて行う業務もあります。

この構造で押さえるべきことは、「研究者(学位と研究実績が前提の枠)」と「公共部門の研究員・コンサルタント(自治体の実務を知っていることが評価される枠)」の線です。未経験から入る道は後者にあります。同じ組織の中に両方の枠があることも、一方しかないこともあるので、応募要件で見分けます。

「未経験」を3つに分ける

未経験の種類財政課の方の実態シンクタンクでの重み
発注者側未経験(自治体の財政の数字と意思決定を知らない)経験者。決算統計、健全化判断比率、交付税の算定、中期財政計画、議会向けの説明を実務で回している公共部門の研究員・コンサルタントでは最も重い。「調べて理解した」研究員が持っていない知識
民間未経験(会社で働いたことがない)未経験。ただし、受託した成果物を発注者側で読み、査定に使っている中程度。入社後の慣れで補える。選考では「提案して選ばれる側」への転換の理解で見られる
調査研究未経験(調査の設計と報告書の執筆をしたことがない)未経験。ただし、議会向けの説明資料と予算の説明書は書いている研究者の枠では決定的。公共部門の研究員・コンサルタントでは、入社後に学ぶ前提で採用されることが一般的

財政課の方が「未経験」と感じているのは後ろの2つですが、公共部門の枠で最も重いのは1つ目で、そこは経験者です。この認識を直すことが、応募できる枠を見つける最初の一歩です。

入り口になる枠——財政課の経験が効く順

1. 公共部門の研究員・コンサルタント(自治体向け)。総合計画・総合戦略・総合管理計画の策定支援、財政分析、行政評価。財政課の経験が最も直接に効く枠で、調査の設計と報告書の執筆は入社後に学ぶ前提で採用されることが一般的です。求人票に「自治体」「計画策定」「財政」「行政評価」の言葉があるかで見分けます。

2. 公共部門の研究員・コンサルタント(国向け)。国の政策調査、制度の効果検証、自治体の実態調査。国の側は自治体の実態を直接には見られないので、「制度の条文と自治体側の運用の両方を知っている」ことが効きます。1より研究の比重が高いことがあり、応募要件(学位)を確かめてから応募します。

3. 営業・プロポーザル対応。自治体への提案、企画提案書の作成。プロポーザルの審査で何が評価されるかを内側から知っていることが効きます。研究員の枠より少人数のことが多いですが、財政課で委託料の査定やプロポーザルの審査に関わった方には近い枠です。

4. 研究者(学位と研究実績が前提の枠)。未経験からの入り口としては現実的ではありません。修士・博士の学位、査読論文などの研究実績が応募の前提になることが一般的です。財政課の経験だけで研究者の枠に入る道は、当社の見る範囲では一般的ではありません。

入り口は1か3、次いで2、という順序が現実的です。「未経験だから」と大学院に入り直すことから始める必要はなく、むしろ逆です。

学位の位置づけ——取るべきか

未経験の方から「修士を取ってから応募すべきか」と聞かれます。答えは、公共部門の研究員・コンサルタントの枠では前提ではなく、取ることで研究者の枠が開くわけでもない(研究実績まで求められる)です。

学位が応募要件になっている枠は、応募要件で分かります。要件になっていない枠では、財政課の経験を「数字と制度」の軸で棚卸しした業務の具体が、学位より重く見られます。決算統計の作成、健全化判断比率の算定、交付税の算定、起債の協議、中期財政計画、総合計画の財政フレーム、議会向けの説明資料——それぞれで自分が何を算定し、何を判断し、何を書いたか。これが職務経歴書の中心です。

在職中に社会人向けの大学院で学ぶことは、応募の前提ではないものの、「数字の先の示唆」を書く訓練として意味があります。ただし、学位のために転職の時期を数年遅らせるのと、公共部門の枠で入って報告書の執筆を実務で学ぶのとでは、後者のほうが早い場合が多いです。

自分の業務の棚卸しが、どの組織のどの枠に当たるのかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。

在職中にできる準備——順序

1. 業務の棚卸し(研究の手法の学習より先)。「数字と制度」の軸で、自分が算定し、判断し、書いたものを書き出す。

2. 自分の自治体の財政の課題を「数字→原因→示唆→根拠と留保」で3分で話す練習。公表資料(決算カード、健全化判断比率の公表資料、予算書・決算書)の範囲で。財政課の資料の型(説明で終わる)から抜けて、「だからこうすべき」まで言い切る練習です。選考フローと面接で見られている観点に、課題の書き方を整理しています。

3. 自分の自治体の総合計画・総合戦略・総合管理計画を、受注者の視点で読み直す。「受注者がどう作ったか」「財政課としてどこに口を出したか」「示唆として何が書かれ、何が書かれていないか」の視点で。納品された成果物への不満は、批判ではなく持ち込める経験の素材です。

4. 研究の手法を、必要な分だけ。示唆の根拠を作るために要る分析(推計の方法、比較の設計、アンケートの読み方)を、示唆を言う練習の中で「足りない」と分かった部分から学びます。統計の一般的な教科書を最初から読む必要はありません。

5. 庁内の研修と、業務での機会。地方公務員法第39条は、職員に研修を受ける機会が与えられなければならないと定めています。財政分析、行政評価、公共施設マネジメントの庁内研修や、他の自治体との研究会は、在職中の正当な学習機会です。また、財政課として中期財政計画の策定、総合計画の財政フレームの作成、行政評価の財政の側の担当に深く関わることは、そのまま経験になります。転職のためではなく、現在の業務としてこれらに関わることが、結果として最も強い準備です。

公務員が使えない支援制度と、代わりの機会

雇用保険の教育訓練給付金(雇用保険法第60条の2)は、対象が雇用保険の被保険者または被保険者でなくなってから一定期間内の人で、支給要件期間が3年以上あることが条件です。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外なので(同法第6条第6号)、在職中の公務員はこの給付の対象になりません。社会人向けの大学院の課程が指定の教育訓練になっている場合でも、在職中は使えないということです。民間に転職した後、被保険者としての期間が要件を満たせば対象になります。

代わりに使えるのは、前述の庁内研修(地方公務員法第39条)と、自治体職員向けに開かれている外部の研修・研究会です。「転職の準備」としてではなく「今の業務の能率を上げる研修」として探すと、庁内の手続きも通りやすく、内容も業務に直結します。

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服務の線——在職中の準備で触れてはいけないこと

1つ目は、自治体の内部資料を学習や応募の材料に使うこと。地方公務員法第34条の秘密を守る義務により、未公表の資料(未公表の財政見通し、査定の内訳、個別の受注者への評価、プロポーザルの審査の内容)を持ち出して、課題や勉強の材料にすることはできません。示唆を言う練習は公表資料の範囲で行い、資料を持ち出さないでください。

2つ目は、報酬を得る副業的な準備。地方公務員法第38条は、任命権者の許可なく、報酬を得て事業や事務に従事することを制限しています。シンクタンクから「入社前に調査を手伝ってほしい」「研究会に有償で参加してほしい」と言われた場合、許可なく報酬を受ければこの条文に触れます。在職中の副業・兼業の許可に、許可の仕組みを整理しています。

3つ目は、在職中に応募先の調達に関わっている場合。委託料の査定、プロポーザルの審査、契約の担当に該当する場合は、選考の中で隠さず伝え、応募の時期と入社後の担当の切り分けを組織側と相談してください。退職後に元の職場へ働きかけることは地方公務員法第38条の2で規制されています。再就職者による働きかけの規制に整理しています。

内定後は、労働基準法第15条により労働条件が書面などで明示されるので、未経験での入社に伴う条件(研修期間、試用期間、研究員の枠が有期かどうか、職種の変更の範囲)を通知書で確かめてから承諾してください。

まとめ

よくある質問

大学は文系で、統計や経済の勉強をしたことがありません。研究員は無理ですか

公共部門の研究員・コンサルタントの枠では、統計や経済の専門教育が応募の前提になることは一般的ではなく、自治体の財政の数字を作った側の経験のほうが重く見られます。必要な分析の手法は、示唆の根拠を作る中で「足りない」と分かった部分から学べば足ります。研究者の枠(学位と研究実績が前提)は別ですが、財政課の方の入り口はそちらではありません。求人票の応募要件で、学位や専攻が要件になっていない枠を選んでください。

在職中に社会人大学院に通うことは、転職に有利ですか

公共部門の研究員の枠では、学位そのものが応募の前提になることは一般的ではありませんが、「数字の先の示唆」を書く訓練としては意味があります。注意点は2つです。1つは、在職中の公務員は雇用保険の適用除外なので、教育訓練給付金は使えないこと。もう1つは、学位のために転職の時期を数年遅らせるより、公共部門の枠で入って報告書の執筆を実務で学ぶほうが早い場合が多いことです。通うなら「転職の前提」ではなく「今の業務の質を上げるため」と位置づけ、庁内の手続き(修学に関する休暇や許可)を確かめてください。

在職中に、シンクタンクの研究会や勉強会に参加してよいですか

報酬を伴わず、勤務時間外で、内部の資料を持ち出さなければ、参加そのものは服務の線に触れません。報酬を得て登壇する、有償の研究会の委員になるといった形になると、地方公務員法第38条の許可の問題が生じます。また、主催する組織が自分の自治体の調達に関わっている場合は、在職中の関係の持ち方を慎重に扱う必要があるので、参加前に所属の服務担当に確認するのが安全です。在職中の副業・兼業の許可に、許可の要否の考え方を整理しています。

出典

  1. 地方公共団体の財政の健全化に関する法律 第3条(健全化判断比率の公表等)|e-Gov法令検索
  2. まち・ひと・しごと創生法 第10条(市町村まち・ひと・しごと創生総合戦略)|e-Gov法令検索
  3. 統計法 第33条(調査票情報の提供)|e-Gov法令検索
  4. 地方公務員法 第34条(秘密を守る義務)/第38条(営利企業への従事等の制限)/第38条の2(再就職者による依頼等の規制)/第39条(研修)|e-Gov法令検索
  5. 雇用保険法 第6条(適用除外)/第60条の2(教育訓練給付金)|e-Gov法令検索
  6. 労働基準法 第15条(労働条件の明示)|e-Gov法令検索
  7. 公共施設等の総合的かつ計画的な管理の推進|総務省

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)

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