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業界研究 / シンクタンク・調査研究

シンクタンク・調査研究の年収と働き方|公務員から移るとどう変わるか

シンクタンク・調査研究への転職を考える財政課の方から、「移ったら給与と働き方はどう変わるのか」という質問を受けます。先に断っておきます。この記事には、シンクタンク業界の年収の相場やレンジは書いていません。組織の系列(金融機関系、独立系、特化型)と職種で差が大きく、当社が裏を取った統計として示せる数字がないからです。求人ごとの条件は、掲載中の求人にそれぞれ書いてあります。

代わりにこの記事で整理するのは3つです。「公務員の処遇は法律と条例で決まり、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる」という仕組みの違い、シンクタンクに固有の働き方の構造(受託の年度の周期と、研究業務が専門業務型裁量労働制の対象になりうること)を法律の側から読むこと、そして応募先の条件をどこで、どの順で確かめればよいかです。財政課の方は、給与条例と勤務時間条例の構造を知っているので、就業規則と労働条件通知書を同じ目で読めば、条件の確認は難しくありません。

業界の構造と職種ごとの評価はシンクタンク・調査研究は公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に書いています。

業界構造の要点——処遇に影響する組織の形

シンクタンク・調査研究の組織は、金融機関や企業グループの系列、独立系、特定の政策分野に特化した組織に分かれ、財政課の経験が効くのは公共部門(国・自治体からの受託調査、計画策定支援)です。

処遇の観点で押さえておきたいのは、系列の組織は親会社やグループの処遇の体系に近く、独立系や特化型は組織ごとに独自の体系を持つことが多い点です。同じ「シンクタンク」でも、賞与や退職金の制度の有無、等級の設計、裁量労働制の適用は組織によって違います。「業界の相場」を探すのではなく、応募先の組織がどのタイプで、自分が入る部門の処遇がどう決まっているかを先に見るのが出発点です。

公務員と民間で「決まり方」がどう違うか

項目公務員(地方)民間(シンクタンクを含む)
給与の決まり方条例で定める(地方公務員法第24条第5項)就業規則と労働契約で定める。常時10人以上の組織は賃金の決定・計算・支払方法・昇給を就業規則に記載し届け出る義務(労働基準法第89条第2号)
賞与期末手当・勤勉手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項)「定めをする場合」の明示事項。制度がない組織もありうる(労働基準法施行規則第5条第5号)
退職金退職手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項)「定めをする場合」の記載事項。制度がない組織もありうる(労働基準法第89条第3号の2)
時間外の扱い条例・規則で定める法定時間を超えた労働に割増賃金の支払義務(労働基準法第37条)。専門業務型裁量労働制の対象業務なら、労使協定で定めた時間を労働したものとみなす(第38条の3)
年次有給休暇条例で定める雇入れから6か月継続勤務・8割以上出勤で10労働日、以後勤続に応じて加算(労働基準法第39条)
身分の保障分限処分の事由は法律で限定解雇は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠くと無効(労働契約法第16条)。労働契約法は公務員には適用されない(同法第21条第1項)

公務員の処遇は「法律と条例に必ず書いてある」のに対し、民間の処遇は「定めがあるかどうかから確かめる」項目(賞与、退職金)がある——財政課の方が条件を読み違えるのは、ほとんどがここです。決まり方の違いの詳細は、GovTech向けに書いた自治体向けSaaS・GovTechの年収と働き方と同じ構造です。

シンクタンクに固有の働き方——法律の側から読む

1つ目は、受託の年度の周期。自治体からの受託調査・計画策定支援は、自治体の会計年度(4月〜翌年3月)に合わせて単年度の契約になることが多く、年度末に納期が集中しやすい構造があります。国からの受託も、国の会計年度は同じです。発注者側で年度をまたぐ道具は、繰越明許費(地方自治法第213条)と債務負担行為(同法第214条)で、財政課の方はこれらを予算の側で扱ってきました。転職先の働き方を確かめるとき、「受託業務のうち、債務負担行為や複数年度の契約になっている割合はどのくらいか」と聞けば、年度末の実態が具体的に分かります。

2つ目は、研究業務が専門業務型裁量労働制の対象になりうること。労働基準法第38条の3は、業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務について、労使協定で定めた時間を労働したものとみなす制度(専門業務型裁量労働制)を定めています。対象業務は労働基準法施行規則第24条の2の2第2項に列挙されており、その第1号は「新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務」です。シンクタンクの研究員の業務がこれに当たるとして、裁量労働制を適用している組織があります。適用されている場合、時間外の割増賃金の扱いが通常の労働時間制と違うので、労働条件通知書と労使協定の内容(みなし労働時間、対象業務の範囲、健康・福祉確保措置)を確かめる必要があります。

裁量労働制が「適用されている」ことと「実際の労働時間が短い」ことは別です。みなし労働時間が所定労働時間と同じでも、年度末の納期集中で実際の労働時間が長くなることはありえます。面接では「裁量労働制ですか」ではなく、「年度末の実際の労働時間はどのくらいか」「裁量労働制の対象になる職種と、ならない職種はどう分かれているか」を聞いてください。営業・プロポーザル対応や管理部門は、研究業務ではないので対象外です。

働き方はそのほか、自治体への訪問と協議の頻度、国向けの案件での府省との打合せ、複数の案件を同時に持つ数など、組織と職種で差が大きい部分があります。業界として一般化できる材料は当社にはないので、一次面接で、配属予定の部門の人に直接聞くのが確かめ方です。

労働条件通知書の読み方——確かめる順序

労働基準法第15条第1項により、組織は労働契約の締結に際して労働条件を明示する義務があり、明示事項は労働基準法施行規則第5条に列挙されています。オファーの段階で受け取る労働条件通知書は、この順で読んでください。

1. 契約期間(第1号)と就業場所・業務の変更の範囲(第1号の3)。研究員の枠でも、有期の契約(任期付の研究員)になっている組織があります。無期か有期か、有期なら更新の基準(第1号の2)を見ます。業務の変更の範囲に「民間向けの部門への配置転換」が含まれていないかも確かめます。

2. 始業・終業、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇(第2号)。裁量労働制が適用される場合は、その旨とみなし労働時間が書かれているかを見ます。

3. 賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給(第3号)。月給か年俸か。裁量労働制でも、深夜・休日の割増賃金は別途の扱いになるので、その記載を見ます。

4. 退職に関する事項(第4号)、退職手当(第4号の2)、賞与・臨時の賃金(第5号)。第4号の2と第5号は「定めをする場合」の事項なので、書かれていなければ制度がない可能性があります。書かれていない場合は、就業規則を見せてもらい、制度の有無を確認してください。

条件の読み方や、どこまで交渉できるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。

社会保険と給付——切り替わるもの、新しく対象になるもの

年金と健康保険。地方公務員は地方公務員共済組合の組合員ですが、民間の適用事業所に雇用されると厚生年金保険の被保険者になり(厚生年金保険法第9条)、健康保険は組織が加入する協会けんぽか健康保険組合に切り替わります。手続きは厚生年金に切り替える場合と保険料はどれが安いのか、の考え方に整理しています。

雇用保険。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外です(雇用保険法第6条第6号)。民間に移ると被保険者になり、育児休業給付金(同法第61条の7)など、公務員の間は対象外だった給付の対象になります。

退職手当。公務員の退職手当は条例で決まり、退職時に支給されて完結します(自己都合退職と定年退職で何が変わるか)。民間の退職金は「定めがある場合」の制度で、転職先に制度があるか、勤続何年から支給されるかを確かめる必要があります。公務員の退職手当と民間の退職金は通算されません。

掲載中の求人は、職種・雇用形態・勤務地・条件が一覧で見られます。組織ごとの条件を並べて比べるには、こちらが早いです。財政・会計の経験が効く求人を見てみる

まとめ

よくある質問

裁量労働制と言われました。残業代は出ないのですか

専門業務型裁量労働制(労働基準法第38条の3)が適用される場合、労使協定で定めたみなし労働時間を労働したものとして扱われるので、実際の労働時間がみなし時間を超えても、その分の時間外の割増賃金は原則として発生しません。ただし、みなし労働時間が法定労働時間を超えて設定されている場合はその超過分の割増賃金が必要で、深夜・休日の労働には別途の割増賃金が必要です。適用の前提として、対象業務が施行規則第24条の2の2第2項に列挙された業務(研究の業務など)に当たること、労使協定が締結・届出されていることが要ります。労働条件通知書と労使協定の内容を見せてもらい、自分の職種が対象業務に当たるかを確かめてください。

研究員の枠が「任期付」と書かれていました。無期の枠と何が違いますか

有期の労働契約は、契約期間と更新の基準が労働条件の明示事項です(労働基準法施行規則第5条第1号・第1号の2)。任期の年数、更新の有無と基準、更新回数や通算期間の上限、無期への転換の仕組みを労働条件通知書で確かめてください。公務員の常勤職員は任期の定めがないのが原則なので、有期の契約の感覚は財政課の方には馴染みが薄いはずです。任期付の枠に応募する場合は、任期が終わったときの見込みまで含めて、公務員を続けた場合と同じ紙に並べて比べてください。

年度末以外の時期は、比較的落ち着いていますか

受託の契約が単年度で年度内の納期になる構造上、年度末に納期が集中しやすいことは一般に言えますが、年度の途中でも、プロポーザルの企画提案書の作成時期、自治体との中間の協議、国向けの案件の締切などで繁忙は生じます。組織や部門によって違うので、面接で「年間の繁忙の時期と、その時期の実際の労働時間」を、複数年度の契約の割合とあわせて聞いてください。財政課の方なら、自治体の予算編成期や決算期に合わせて「その時期に御社側の負荷はどう出ますか」と聞くと、具体的な答えが返ってきます。

出典

  1. 地方公務員法 第24条(給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準)|e-Gov法令検索
  2. 地方自治法 第204条(給料、手当及び旅費)/第213条(繰越明許費)/第214条(債務負担行為)|e-Gov法令検索
  3. 労働基準法 第15条(労働条件の明示)/第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)/第38条の3(専門業務型裁量労働制)/第39条(年次有給休暇)/第89条(就業規則の作成及び届出の義務)|e-Gov法令検索
  4. 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)/第24条の2の2(専門業務型裁量労働制の対象業務)|e-Gov法令検索
  5. 労働契約法 第16条(解雇)/第21条(適用除外)|e-Gov法令検索
  6. 雇用保険法 第6条(適用除外)/第61条の7(育児休業給付金)|e-Gov法令検索
  7. 厚生年金保険法 第9条(被保険者)|e-Gov法令検索

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)

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