制度とお金 / 共済
長期給付とは何か
共済組合の事業のうち、退職しても残るのが「長期給付」です。短期給付(健康保険)と福祉事業(福利厚生)は退職の翌日で終わりますが、長期給付——年金——は、記録と権利が残ります。
ただし、長期給付は「老齢の年金」だけではありません。障害の年金と遺族の年金も含みます。在職中は共済組合が担っていた障害と遺族の保障が、転職後はどこに移るのか。ここを知らないまま辞める方が多くいます。
この記事では、長期給付に何が含まれ、退職で何が残り、転職後にどこに移るのかを、地方公務員等共済組合法の条文で整理します。年金は個別性が高い分野なので、制度の骨を書きます。自分の記録と見込みは、共済組合で確認してください。共済の全体は地方公務員共済組合の仕組みに書いています。
2本立て——厚生年金保険給付と退職等年金給付
地方公務員等共済組合法第74条第1項は、こう定めています。
> この法律における長期給付は、厚生年金保険給付及び退職等年金給付とする。
| 柱 | 中身 | 民間との関係 |
|---|---|---|
| 厚生年金保険給付 | 厚生年金保険法の保険給付のうち、第3号厚生年金被保険者期間に基づくもの(第75条) | 民間の会社員と同じ厚生年金。一元化で統一された |
| 退職等年金給付 | 退職年金、公務障害年金、公務遺族年金(第76条) | 公務員だけの上乗せ。民間にはない |
一元化の後、地方公務員は厚生年金保険の第3号厚生年金被保険者で、実施機関は地方公務員等共済組合です(厚生年金保険法第2条の5)。共済組合は、厚生年金の一部を「実施機関」として担い、その上に退職等年金給付を乗せているという構造です。仕組みの全体は被用者年金一元化で何が変わったかに書いています。
老齢・障害・遺族——それぞれ2本ある
第75条は、共済組合が行う厚生年金保険給付を列挙しています。
> 一 老齢厚生年金 二 障害厚生年金及び障害手当金 三 遺族厚生年金
第76条は、退職等年金給付を列挙しています。
> 一 退職年金 二 公務障害年金 三 公務遺族年金
並べると、老齢・障害・遺族の3つの事由それぞれに、厚生年金の側と退職等年金給付の側の2本がある形です。
| 事由 | 厚生年金保険給付 | 退職等年金給付 |
|---|---|---|
| 老齢(退職) | 老齢厚生年金 | 退職年金(職域加算と年金払い退職給付) |
| 障害 | 障害厚生年金、障害手当金 | 公務障害年金(公務による障害に限る) |
| 死亡 | 遺族厚生年金 | 公務遺族年金(公務による死亡に限る) |
退職等年金給付の障害と遺族の年金は、「公務による」障害と死亡に限られます。公務によらない障害や死亡は、厚生年金の側の障害厚生年金と遺族厚生年金です。
退職で、何が残るか
| 給付 | 退職で |
|---|---|
| 老齢厚生年金 | 記録が残り、民間の期間と通算される。65歳で共済組合が公務員の期間の分を決定し支払う |
| 退職年金(退職等年金給付) | 積み上がった分が残る。1年以上の組合員期間があれば、退職後65歳で受け取れる(第88条) |
| 障害厚生年金・遺族厚生年金 | 公務員の期間は被保険者期間として残る。転職後に障害や死亡が起きた場合の給付は、その時点の加入先——転職先の厚生年金——の側で扱われ、公務員の期間も被保険者期間として通算される |
| 公務障害年金・公務遺族年金 | 公務による障害・死亡が対象。退職後に、在職中の公務による傷病が原因で障害や死亡が生じた場合の扱いは共済組合で確認 |
老齢の側は、これまでの記事で扱ったとおり、記録と積み上がった分が残ります。この記事で押さえておきたいのは、障害と遺族の側です。
転職後の障害・遺族の保障は、どこに移るか
在職中に障害を負ったり、死亡したりした場合、障害厚生年金や遺族厚生年金は、その時点で加入している厚生年金の側で判断されます。転職して民間の厚生年金の被保険者になれば、その後に起きた障害や死亡は、転職先の厚生年金(実施機関は日本年金機構)の側で扱われ、公務員の期間も被保険者期間として通算されます。
つまり、転職しても、障害と遺族の保障は「なくなる」のではなく「加入先が変わる」形です。ただし、注意点が2つあります。
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 空白の期間 | 退職から入社までの間は、厚生年金の被保険者ではありません。この間の障害や死亡は、国民年金の第1号被保険者としての障害基礎年金・遺族基礎年金の側で判断されます。保険料の納付の要件があるので、空白の期間の国民年金を未納にしないでください |
| 公務による障害・死亡の上乗せ | 公務障害年金と公務遺族年金は、公務による場合の上乗せです。民間には、これに相当する上乗せは、労災保険の側の給付など別の仕組みになります |
空白の期間の国民年金を未納にすると、その間の障害や死亡について、基礎年金の納付の要件を満たさなくなることがあります。老齢の額の話だけでなく、障害と遺族の保障のためにも、空白の期間の保険料は納めてください。詳しくは国民年金に切り替える場合に書いています。
掛金の側
第114条第1項は、掛金等を組合員の資格を取得した月から喪失した月の前月まで徴収すると定め、その中には厚生年金の保険料(組合員保険料)と退職等年金分掛金が含まれます。退職すると、この2つの払込みは終わります。転職先では、厚生年金の保険料だけが給与から引かれ、退職等年金分に相当するものはありません。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、長期給付で効いてくる点は3つです。
1. 老齢の記録と退職等年金給付は残る
共済組合が記録を持ち、通算されます。退職年金は65歳で共済組合に請求します。
2. 障害・遺族の保障は、転職先の厚生年金の側に移る
なくなるのではなく、加入先が変わります。公務員の期間も被保険者期間として通算されます。
3. 空白の期間の国民年金を未納にしない
障害基礎年金・遺族基礎年金の納付の要件に関わります。老齢の額とは別の理由で、納めてください。
手続きと期限
| 場面 | すること | どこで |
|---|---|---|
| 退職時 | 組合員の番号と、共済組合から交付される書類を保管 | 共済組合 |
| 退職時(任意) | 退職等年金給付の給付算定基礎額を制度の照会として聞く | 共済組合 |
| 空白がある | 国民年金の第1号被保険者の届出(退職日の翌日から14日以内)と保険料の納付 | 市区町村 |
| 入社時 | 基礎年金番号を転職先に伝える | 転職先 |
| 65歳 | 老齢厚生年金と退職年金の請求(窓口はどちらでも可、退職等年金給付は共済組合) | 共済組合・日本年金機構 |
| 在職中の公務による傷病がある | 退職後の公務障害年金・公務遺族年金の扱いを確認 | 共済組合 |
期限があるのは、国民年金の届出(14日以内)です。長期給付そのものの手続きは、65歳の請求まで待つ形になります。
誤解されやすい点
「長期給付は老齢年金のこと」と思い込む
老齢・障害・遺族の3つの事由に、厚生年金の側と退職等年金給付の側の2本ずつがあります(第75条・第76条)。
「共済を抜けると障害や遺族の保障がなくなる」と思い込む
加入先が転職先の厚生年金に移り、公務員の期間も通算されます。
「空白の期間の国民年金は、老齢の額に少し効くだけ」と思い込む
障害基礎年金・遺族基礎年金の納付の要件に関わります。空白の期間の未納は避けてください。
「公務障害年金は民間の厚生年金にもある」と思い込む
公務による障害・死亡の上乗せは、公務員の退職等年金給付だけです。民間では労災保険など別の仕組みです。
まとめ
- 長期給付は厚生年金保険給付と退職等年金給付の2本立てです(地方公務員等共済組合法第74条)。共済組合は厚生年金の実施機関として第3号厚生年金被保険者期間の分を担います(厚生年金保険法第2条の5)
- 老齢・障害・遺族の3つの事由それぞれに、厚生年金の側(老齢厚生年金、障害厚生年金・障害手当金、遺族厚生年金)と退職等年金給付の側(退職年金、公務障害年金、公務遺族年金)があります(第75条・第76条)。公務障害年金・公務遺族年金は公務による場合に限ります
- 退職で、老齢の記録と退職等年金給付は残り(第88条)、障害・遺族の保障は転職先の厚生年金の側に移り、公務員の期間も通算されます
- 空白の期間は国民年金の第1号被保険者で、その間の障害・死亡は基礎年金の側で判断されます。納付の要件があるので、空白の期間の保険料を未納にしないでください
- 掛金のうち厚生年金の保険料と退職等年金分の払込みは退職で終わり、転職先では厚生年金の保険料だけになります(第114条)
よくある質問
転職後に事故で障害を負った場合、公務員の期間は障害厚生年金に反映されますか
反映されます。障害厚生年金は、その時点で加入している厚生年金の側で判断され、公務員の期間も厚生年金保険の被保険者期間として通算されます。転職先の厚生年金の被保険者である間に初診日がある障害なら、転職先の側(実施機関は日本年金機構)で扱われ、年金額の計算には公務員の期間を含む全期間の被保険者期間が使われます。ただし、退職から入社までの空白の期間に初診日がある場合は、国民年金の第1号被保険者としての障害基礎年金の側で判断され、保険料の納付の要件があります。空白の期間の国民年金を未納にしていると、要件を満たさないことがあるので、注意してください。個別の判断は年金事務所で確認を。
在職中の公務災害で治療を続けています。退職後の年金はどうなりますか
共済組合に、退職前に確認してください。公務による障害に対する退職等年金給付の公務障害年金(第76条)と、地方公務員災害補償の側の補償が関わります。公務による傷病が原因で退職後に障害の状態になった場合の扱いは、傷病の発生の時期、認定の状況、退職の時期で変わります。転職を考える前に、共済組合と、公務災害補償の担当に、退職後の扱いを制度の照会として聞いてください。民間の厚生年金には公務障害年金に相当する上乗せがなく、労災保険は転職先での業務上の災害が対象なので、在職中の公務災害の補償は退職前に整理しておく必要があります。
退職等年金給付の遺族の年金は、転職後に死亡しても出ますか
公務遺族年金は、公務による死亡が対象です(第76条)。転職後の公務によらない死亡には、退職等年金給付の遺族の年金は出ません。転職後の死亡に対する遺族の保障は、転職先の厚生年金の側の遺族厚生年金で、公務員の期間も被保険者期間として通算されます。一方で、退職年金(老齢の側の退職等年金給付)を受け取る前に死亡した場合の扱い——積み上がった付与額がどうなるか——は、共済組合の制度で定められています。家族に残る形があるかどうかは、共済組合に確認してください。仕組みは職域加算と年金払い退職給付に書いています。