制度とお金 / 退職手当
支給日と受け取り方
退職手当の額の話は、どこにでもあります。ところが、「いつ、どういう形で振り込まれるのか」は、意外と書かれていません。
転職を考えている方にとって、額と同じくらい効いてくるのが時期です。退職の翌月に入るのか、数か月後なのか。入社までの生活費と、転職先の初回の給与の時期との間に、空白ができるかどうかは、ここで決まります。
この記事では、支給の時期と受け取り方を、国家公務員退職手当法の条文で整理します。地方公務員の退職手当は所属自治体の条例で決まります(地方自治法第204条)が、支払いの定めも国の法律に沿った形を採るのが一般的です。実際の支給日は自治体ごとに違うので、人事の担当課に確認する前提で読んでください。額の側は退職手当の仕組み|何で金額が決まるのかで扱っています。
「退職した日から起算して一月以内に支払わなければならない」
国家公務員退職手当法第2条の3は、支払いについてこう定めています。
> この法律の規定による退職手当は、他の法令に別段の定めがある場合を除き、その全額を、現金で、直接この法律の規定によりその支給を受けるべき者に支払わなければならない。ただし、政令で定める確実な方法により支払う場合は、この限りでない。> 2 次条及び第六条の五の規定による退職手当(以下「一般の退職手当」という。)並びに第九条の規定による退職手当は、職員が退職した日から起算して一月以内に支払わなければならない。ただし、死亡により退職した者に対する退職手当の支給を受けるべき者を確知することができない場合その他特別の事情がある場合は、この限りでない。
3つのことが書かれています。
1. 全額を、現金で、直接本人に
分割ではなく全額、現物ではなく現金、代理人ではなく本人。ただし書きの「政令で定める確実な方法」が口座振込に当たり、実務では口座振込が通常です。
2. 退職した日から起算して1か月以内
一般の退職手当は、退職の日から1か月以内に支払うのが国の定めです。ただし書きに「特別の事情がある場合」があり、これが後で触れる差止めなどに関わります。
3. 支給を受けるべき者は、本人。死亡なら遺族
第2条の2が、遺族の範囲と順位を定めています。配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順で、生計を維持していたかどうかで区分があります。転職の場面では関係しませんが、受け取る人が法律で決まっていることは知っておいてください。
自治体では、いつ振り込まれるのか
国の定めは「1か月以内」ですが、自治体の条例の定めと、実務の運用は、自治体ごとに違います。
条例に「退職の日から1か月以内」と同様の定めを置いている自治体もあれば、支給日を規則で定めている自治体、実務上は退職の翌月の給与の支給日に合わせている自治体もあります。一部事務組合に加入している自治体では、組合の事務の周期で支給されるため、退職から数か月後になることもあります。
つまり、条文だけでは自分の支給日は分かりません。分かるのは「遅くともこのくらい」という目安までです。実際の支給日は、人事の担当課に聞いてください。退職の意思を伝えずに、「退職手当は退職後どのくらいで支給されますか」と制度の照会として聞ける自治体が多くあります。
支払いが止まる場合——差止めと支給制限
通常の転職では関係しませんが、支払いが止まる、または支給されない場合が法律に定められていることは、押さえておいてください。
差止め(第13条)
第13条は、退職した者が刑事事件に関し起訴された場合などに、退職手当管理機関が支払を差し止める処分を行うと定めています。判決の確定前に退職した場合や、退職後にまだ支払われていない段階で起訴された場合が対象です。第2条の3のただし書きにある「特別の事情」の1つです。
支給制限(第12条)
第12条は、懲戒免職等の処分を受けた場合などに、退職手当の全部または一部を支給しない処分ができると定めています。転職による自己都合退職は、これに当たりません。
この2つは、通常の退職では起きません。ただし、「退職手当は必ず、退職の日から1か月以内に、全額が出るもの」ではなく、法律上の例外があることは知っておいてください。
転職するとどうなるか
転職による退職で、支給の時期に関して効いてくる点は3つです。
1. 退職日と支給日の間隔を確かめる
国の定めは1か月以内ですが、自治体の実務では翌月か、数か月後か、幅があります。人事の担当課に聞いてください。
2. 転職先の初回の給与日と並べる
月末締めの翌月払いなら、入社から初回の給与まで1か月以上あきます。退職手当の支給日と、この初回の給与日の両方を並べて、空白を数えてください。
3. 税の申告書を出す
退職手当の支払いの前に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しないと、控除を反映せずに源泉徴収され、確定申告まで戻りません。受け取る額に直接効きます。詳しくは退職所得控除と税金に書いています。
手続きと期限
退職手当の請求の手続きは、条例と規則に定められ、人事の担当課が退職の辞令と併せて案内するのが通常です。実務的には、次の3つを押さえてください。
- 振込先の口座の届出——現金での直接の支払いが原則ですが、実務では口座振込です。届出の様式と期限を確認してください
- 「退職所得の受給に関する申告書」の提出——支払いの前に出します。出し忘れると、一時的に多く引かれます
- 支給日の確認——条例に「1か月以内」とあっても、実務の振込日は別に決まっています
遺族が受け取る場合は、第2条の2の順位に従って請求します。転職の場面では関係しませんが、受け取る人が法律で決まっていることは、家族に伝えておいてもよい事項です。
誤解されやすい点
「退職の翌月には必ず振り込まれる」と思い込む
国の定めは1か月以内ですが、自治体の実務では数か月後になることもあります。とくに一部事務組合に加入している自治体では、組合の周期で支給されます。
「分割で受け取れる」と思い込む
第2条の3は全額を一括で支払うと定めています。分割の定めはありません。
「額さえ分かれば資金計画は立つ」と思い込む
時期が分からなければ、空白が数えられません。額と時期の両方が要ります。
「申告書を出さなくても、正しい額で振り込まれる」と思い込む
出さなければ、支給額の20.42パーセントが源泉徴収され、確定申告まで戻りません。
まとめ
- 国の法律は、退職手当を「全額を、現金で、直接本人に」支払うと定め、実務では口座振込が通常です(第2条の3第1項)
- 一般の退職手当は、退職の日から起算して1か月以内に支払うのが国の定めです。特別の事情がある場合は例外があります(第2条の3第2項)
- 自治体の実務の支給日は、翌月から数か月後まで幅があります。一部事務組合に加入している自治体では組合の周期になります。人事の担当課に確認してください
- 起訴された場合の差止め(第13条)と、懲戒免職等の場合の支給制限(第12条)が法律にありますが、通常の転職には関係しません
- 転職の資金計画では、退職手当の支給日と、転職先の初回の給与日を並べて、空白を数えてください
- 支払いの前に「退職所得の受給に関する申告書」を出してください。出さないと一時的に多く引かれます
よくある質問
退職手当は、退職の翌月に振り込まれますか
自治体によります。国の法律は「退職の日から起算して1か月以内」と定めていますが、自治体の条例と実務の運用は、翌月の給与日に合わせる形から、数か月後になる形まで幅があります。一部事務組合に加入している自治体では、組合の事務の周期で支給されるため、遅くなることがあります。退職の意思を伝えなくても、「退職手当は退職後どのくらいで支給されますか」と制度の照会として人事の担当課に聞ける自治体が多くあります。転職先の初回の給与日と並べるために、先に確かめておいてください。
退職手当を分割で受け取ることはできますか
国の法律には、分割の定めはありません。第2条の3は「その全額を、現金で、直接」支払うと定めています。自治体の条例も同様の形が一般的です。一括で受け取る前提で資金計画を立ててください。なお、税の計算は一括で受け取ることを前提に、勤続年数に応じた控除と2分の1の計算があります(退職所得控除と税金)。分割で受け取れないことが、税の面で不利になるわけではありません。
退職後に前の職場で問題が見つかったら、退職手当はどうなりますか
法律上、支払いが止まる、または支給されない場合が定められています。第13条は、退職した者が刑事事件に関し起訴された場合などに支払を差し止める処分を、第12条は懲戒免職等の処分を受けた場合などに支給しない処分を定めています。通常の転職による自己都合退職では、これらは起きません。ただし、「退職手当は必ず全額が出る」という前提ではなく、法律上の例外があることは知っておいてください。個別の事情がある場合は、人事の担当課に確認する事項です。仕組みの全体は退職手当の仕組み|何で金額が決まるのかに戻って確認できます。