業界研究 / 建設コンサルタント
建設コンサルタントの年収と働き方|公務員から移るとどう変わるか
建設コンサルタントへの転職を考える財政課の方から、「移ったら給与と働き方はどう変わるのか」という質問を受けます。先に断っておきます。この記事には、建設コンサルタント業界の年収の相場やレンジは書いていません。会社の規模と職種で差が大きく、当社が裏を取った統計として示せる数字がないからです。求人ごとの条件は、掲載中の求人にそれぞれ書いてあります。
代わりにこの記事で整理するのは3つです。「公務員の処遇は法律と条例で決まり、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる」という仕組みの違い、建設コンサルタントに固有の働き方の構造(発注者の年度に合わせた履行期と、年度末への集中)を法律の側から読むこと、そして応募先の条件をどこで、どの順で確かめればよいかです。財政課の方は、給与条例と勤務時間条例の構造を知っているので、就業規則と労働条件通知書を同じ目で読めば、条件の確認は難しくありません。
業界の構造と職種ごとの評価は建設コンサルタントは公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に書いています。
業界構造の要点——処遇に影響する事業の形
建設コンサルタントは、国・自治体が発注する測量、調査、設計を受注する事業者で(公共工事の品質確保の促進に関する法律第2条第2項)、国土交通省の公式ページによれば、登録制度は主に土木に関する21部門、登録は任意、登録部門ごとに技術管理者(原則として技術士等)を置く仕組みです。
処遇の観点で押さえておきたいのは、会社の受注能力が技術者の資格と実績で決まる業界なので、処遇の仕組みも技術者を中心に組まれていることです。資格に応じた手当や等級の設計、資格取得の支援制度の有無は会社によって違います。財政課の方が応募する事務・企画系の枠は、技術者向けの等級とは別に扱われることがあるので、「技術職の処遇」ではなく「自分が入る枠の処遇」を確かめるのが出発点です。
公務員と民間で「決まり方」がどう違うか
| 項目 | 公務員(地方) | 民間(建設コンサルタントを含む) |
|---|---|---|
| 給与の決まり方 | 条例で定める(地方公務員法第24条第5項) | 就業規則と労働契約で定める。常時10人以上の会社は賃金の決定・計算・支払方法・昇給を就業規則に記載し届け出る義務(労働基準法第89条第2号) |
| 賞与 | 期末手当・勤勉手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項) | 「定めをする場合」の明示事項。制度がない会社もありうる(労働基準法施行規則第5条第5号) |
| 退職金 | 退職手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項) | 「定めをする場合」の記載事項。制度がない会社もありうる(労働基準法第89条第3号の2) |
| 時間外の扱い | 条例・規則で定める | 法定時間を超えた労働に割増賃金の支払義務(労働基準法第37条) |
| 年次有給休暇 | 条例で定める | 雇入れから6か月継続勤務・8割以上出勤で10労働日、以後勤続に応じて加算(労働基準法第39条) |
| 身分の保障 | 分限処分の事由は法律で限定 | 解雇は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠くと無効(労働契約法第16条)。労働契約法は公務員には適用されない(同法第21条第1項) |
公務員の処遇は「法律と条例に必ず書いてある」のに対し、民間の処遇は「定めがあるかどうかから確かめる」項目(賞与、退職金)がある——財政課の方が条件を読み違えるのは、ほとんどがここです。決まり方の違いの詳細は、GovTech向けに書いた自治体向けSaaS・GovTechの年収と働き方と同じ構造なので、そちらも参照してください。
建設コンサルタントに固有の働き方——法律の側から読む
建設コンサルタントの働き方で最も特徴的なのは、発注者である国・自治体の年度に合わせて履行期が設定されることです。自治体の会計年度は4月から翌年3月なので、単年度の委託業務は年度内の納期になり、年度末に納期が集中しやすい構造があります。
この構造は、法律が発注者側に対策を求めていることからも読み取れます。公共工事の品質確保の促進に関する法律第7条第1項は、発注者の責務として、公共工事等の実施の時期の平準化を図るため、計画的に発注を行うとともに、繰越明許費(地方自治法第213条)や債務負担行為(同法第214条)の活用による翌年度にわたる工期等の設定、発注の見通しの作成・公表その他の必要な措置を講ずること(第10号)、そして公共工事等に従事する者の労働時間その他の労働条件が適正に確保されるよう、休日や準備期間等を考慮して適正な工期等を設定すること(第11号)を定めています。ここでいう「公共工事等」には調査等(測量、調査、設計)が含まれます(第3条第1項)。
財政課の方は、この条文の「発注者側の道具」をすべて知っています。繰越明許費の設定、債務負担行為による複数年度の契約、発注見通しの公表——これらは財政課が予算の側で扱ってきたものです。転職先の働き方を確かめるとき、「御社の受注する業務のうち、債務負担行為で複数年度になっている割合はどのくらいか」「年度末の納期集中に対して、発注者側の平準化はどの程度進んでいるか」と聞けば、一般的な「繁忙期はいつですか」より具体的な答えが返ってきます。
働き方はそのほか、現地調査や自治体への訪問の頻度、常駐の有無、技術者と事務系で繁忙の時期が違うかなど、会社と職種で差が大きい部分があります。業界として一般化できる材料は当社にはないので、カジュアル面談や一次面接で、配属予定の部門の人に直接聞くのが確かめ方です。
労働条件通知書の読み方——確かめる順序
労働基準法第15条第1項により、会社は労働契約の締結に際して労働条件を明示する義務があり、明示事項は労働基準法施行規則第5条に列挙されています。オファーの段階で受け取る労働条件通知書は、この順で読んでください。
1. 契約期間(第1号)と就業場所・業務の変更の範囲(第1号の3)。建設コンサルタントは支店・事務所が複数の地域にあることが多く、就業場所の変更の範囲(転勤の有無)は必ず見ます。業務の変更の範囲に「技術職への配置転換」が含まれていないかも確かめます。
2. 始業・終業、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇(第2号)。「所定労働時間を超える労働の有無」が「有」なら、時間外が想定されている契約です。年度末の納期集中との関係で、時間外の実態を面接で聞いておきます。
3. 賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給(第3号)。月給か年俸か。年俸制でも、法定時間を超えた労働には割増賃金の支払義務があります(労働基準法第37条)。資格手当がある場合、自分が入る枠で対象になる資格があるかを確かめます。
4. 退職に関する事項(第4号)、退職手当(第4号の2)、賞与・臨時の賃金(第5号)。第4号の2と第5号は「定めをする場合」の事項なので、書かれていなければ制度がない可能性があります。書かれていない場合は、就業規則を見せてもらい、制度の有無を確認してください。
条件の読み方や、どこまで交渉できるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。
社会保険と給付——切り替わるもの、新しく対象になるもの
年金と健康保険。地方公務員は地方公務員共済組合の組合員ですが、民間の適用事業所に雇用されると厚生年金保険の被保険者になり(厚生年金保険法第9条)、健康保険は会社が加入する協会けんぽか健康保険組合に切り替わります。手続きは厚生年金に切り替える場合と保険料はどれが安いのか、の考え方に整理しています。
雇用保険。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外です(雇用保険法第6条第6号)。民間に移ると被保険者になり、育児休業給付金(同法第61条の7)など、公務員の間は対象外だった給付の対象になります。
退職手当。公務員の退職手当は条例で決まり、退職時に支給されて完結します(自己都合退職と定年退職で何が変わるか)。民間の退職金は「定めがある場合」の制度で、転職先に制度があるか、勤続何年から支給されるかを確かめる必要があります。公務員の退職手当と民間の退職金は通算されません。
掲載中の求人は、職種・雇用形態・勤務地・条件が一覧で見られます。会社ごとの条件を並べて比べるには、こちらが早いです。財政・会計の経験が効く求人を見てみる
まとめ
- この記事に業界の年収相場は書いていない。会社の規模と職種で差が大きく、裏を取った統計がないため。条件は掲載中の求人ごとに確かめる
- 公務員の処遇は法律と条例で決まり、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる。賞与・退職金は民間では「定めがある場合」の制度
- 建設コンサルタントは発注者の年度に合わせた履行期で、年度末に納期が集中しやすい。品確法第7条第1項第10号・第11号が発注者に平準化と適正な工期等の設定を求めており、財政課の方はその道具(繰越明許費、債務負担行為、発注見通し)を知っている
- 労働条件通知書は施行規則第5条の順で読む。就業場所の変更の範囲(転勤)と、技術職への配置転換の有無を確かめる
- 民間に移ると厚生年金・健康保険・雇用保険に切り替わり、育児休業給付金など新しく対象になる給付がある
よくある質問
年度末は必ず忙しいのですか。避けられませんか
自治体の会計年度に合わせて単年度の委託業務は年度内の納期になるため、年度末に納期が集中しやすい構造はあります。ただし、公共工事の品質確保の促進に関する法律第7条第1項第10号は、発注者に繰越明許費や債務負担行為の活用による翌年度にわたる工期等の設定を求めており、平準化の進み方は発注者によって違います。面接では「繁忙期はいつですか」ではなく、「受注業務のうち複数年度契約の割合」「主な発注者の平準化の状況」を聞くと、その会社の年度末の実態が具体的に分かります。
技術職ではない枠で入る場合、処遇は技術職と同じですか
会社によります。技術者の資格に応じた等級や手当は、技術職を前提に設計されていることが多く、事務・企画系の枠は別の等級で扱われることがあります。オファーの段階で、自分が入る枠の等級、昇給の仕組み、資格手当の対象(自分が取得しうる資格が含まれるか)を労働条件通知書と就業規則で確かめてください。「技術職の処遇」の説明を受けて、自分の枠も同じだと思い込むのが典型的な読み違えです。
転勤はありますか
支店・事務所を複数の地域に持つ会社では、就業場所の変更がありうる契約になっていることがあります。労働基準法施行規則第5条第1号の3により、就業場所と業務の「変更の範囲」は労働条件の明示事項なので、通知書に書かれている範囲を確かめてください。「当面は本社」と口頭で言われても、変更の範囲が全国であれば契約上は転勤がありえます。地域を限定したい場合は、オファーの段階で変更の範囲を交渉の対象にします。退職前に転職先と条件を詰めてよいかに、条件を詰める時期を整理しています。
出典
- 公共工事の品質確保の促進に関する法律 第2条(定義)/第3条(基本理念)/第7条(発注者等の責務)|e-Gov法令検索
- 地方公務員法 第24条(給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準)|e-Gov法令検索
- 地方自治法 第204条(給料、手当及び旅費)/第213条(繰越明許費)/第214条(債務負担行為)|e-Gov法令検索
- 労働基準法 第15条(労働条件の明示)/第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)/第39条(年次有給休暇)/第89条(就業規則の作成及び届出の義務)|e-Gov法令検索
- 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)|e-Gov法令検索
- 労働契約法 第16条(解雇)/第21条(適用除外)|e-Gov法令検索
- 雇用保険法 第6条(適用除外)/第61条の7(育児休業給付金)|e-Gov法令検索
- 厚生年金保険法 第9条(被保険者)|e-Gov法令検索
- 建設コンサルタント登録制度とは|国土交通省