業界研究 / 通信
通信の年収と働き方|公務員から移るとどう変わるか
通信への転職を考える財政課の方から、「移ったら給与と働き方はどう変わるのか」という質問を受けます。先に断っておきます。この記事には、通信業界の年収の相場やレンジは書いていません。大手の通信会社と地域の通信会社では処遇の体系がまったく違い、職種でも差が大きく、当社が裏を取った統計として示せる数字がないからです。求人ごとの条件は、掲載中の求人にそれぞれ書いてあります。
代わりにこの記事で整理するのは3つです。「公務員の処遇は法律と条例で決まり、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる」という仕組みの違い、通信に固有の働き方の構造(大手と地域の会社で違う処遇の体系、24時間の保守と本社で違う働き方、自治体の年度周期、転勤と配属)を法律の側から読むこと、そして応募先の条件をどこで、どの順で確かめればよいかです。財政課の方は、給与条例と勤務時間条例の構造を知っているので、就業規則と労働条件通知書を同じ目で読めば、条件の確認は難しくありません。
業界の構造と職種ごとの評価は通信は公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に書いています。
業界構造の要点——処遇に影響する事業の形
電気通信事業は総務大臣の登録(電気通信事業法第9条)または届出(第16条)制で、全国の大手から地域の通信会社まで、事業の規模は大きく違います。処遇の観点で押さえておきたいのは、大手は全社共通の処遇の体系(等級、手当、福利厚生)が整っていて配属が全社の人事で決まり、地域の会社は処遇の体系が会社ごとに独自で、自治体の回線や補助事業への依存が事業の規模に直結しやすいという違いです。財政課の方が応募する自治体向けの枠が、どちらの型の会社にあるかで、確かめるべき点が変わります。
公務員と民間で「決まり方」がどう違うか
| 項目 | 公務員(地方) | 民間(通信を含む) |
|---|---|---|
| 給与の決まり方 | 条例で定める(地方公務員法第24条第5項) | 就業規則と労働契約で定める。常時10人以上の会社は賃金の決定・計算・支払方法・昇給を就業規則に記載し届け出る義務(労働基準法第89条第2号) |
| 賞与 | 期末手当・勤勉手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項) | 「定めをする場合」の明示事項。制度がない会社もありうる(労働基準法施行規則第5条第5号) |
| 退職金 | 退職手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項) | 「定めをする場合」の記載事項。制度がない会社もありうる(労働基準法第89条第3号の2) |
| 労働時間の設計 | 条例・規則で定める | 法定時間を超えた労働に割増賃金の支払義務(労働基準法第37条)。24時間の保守は交替制や1か月単位の変形労働時間制(第32条の2)、ネットワークの分析・設計の業務は専門業務型裁量労働制の対象になりうる(第38条の3、施行規則第24条の2の2第2項第2号) |
| 年次有給休暇 | 条例で定める | 雇入れから6か月継続勤務・8割以上出勤で10労働日、以後勤続に応じて加算(労働基準法第39条) |
| 身分の保障 | 分限処分の事由は法律で限定 | 解雇は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠くと無効(労働契約法第16条)。労働契約法は公務員には適用されない(同法第21条第1項) |
公務員の処遇は「法律と条例に必ず書いてある」のに対し、民間の処遇は「定めがあるかどうかから確かめる」項目(賞与、退職金)がある——財政課の方が条件を読み違えるのは、ほとんどがここです。決まり方の違いの詳細は、GovTech向けに書いた自治体向けSaaS・GovTechの年収と働き方と同じ構造です。
通信に固有の働き方——法律の側から読む
1つ目は、大手と地域の会社で違う処遇の体系。大手の通信会社は、等級、手当、福利厚生の体系が全社で整っていることが多く、公務員の給料表に近い読み方ができます。一方、地域の通信会社は、処遇の体系が会社ごとに独自で、自治体の回線や補助事業への依存が大きい会社では、契約の更新と補助事業の継続が会社の事業の規模に直結します。財政課の方は、その契約と補助を査定する側で見てきたので、この構造は理解しやすいはずです。
2つ目は、24時間の保守と本社で違う働き方。ネットワークは24時間動いているので、保守の現場は交替制や1か月単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の2)で組まれ、障害時の対応が加わります。ネットワークの分析・設計の業務は、専門業務型裁量労働制の対象業務(施行規則第24条の2の2第2項第2号「情報処理システムの分析又は設計の業務」)に当たるとして裁量労働制を適用している会社があります。官公庁営業や自治体向けの事業開発は、これらの対象ではなく、自治体の開庁日に合わせた働き方が中心です。自分が入る枠が保守の現場か、設計か、営業・事業開発かを確かめてください。
3つ目は、自治体の年度周期。庁内のネットワークと回線の調達は、更改の時期と年度の切替に合わせて入札や契約が集中し(地方自治法第234条の契約方法、複数年度は債務負担行為——第214条)、標準化・移行に伴う投資や補助事業の申請も、自治体の予算の周期(要求→査定→議会)に合わせて動きます。自治体向けの営業と事業開発は、年度末から年度初めに提案と契約の繁忙が集中しやすい構造です。財政課の方は、この周期を予算の側で知っています。
4つ目は、大手の配属と転勤。大手の通信会社では、中途の枠が自治体向けの部門に特定されていないことがあり、配属が全社の人事で決まります。全国に拠点があり、就業場所の変更の範囲(転勤)が広い契約になっていることが多いです。労働基準法施行規則第5条第1号の3により、就業場所と業務の「変更の範囲」は労働条件の明示事項なので、配属が自治体向けの部門に特定されているか、転勤の範囲を通知書で確かめ、限定したい場合は交渉の対象にします。
労働条件通知書の読み方——確かめる順序
労働基準法第15条第1項により、会社は労働契約の締結に際して労働条件を明示する義務があり、明示事項は労働基準法施行規則第5条に列挙されています。オファーの段階で受け取る労働条件通知書は、この順で読んでください。
1. 契約期間(第1号)と就業場所・業務の変更の範囲(第1号の3)。大手なら配属が自治体向けの部門に特定されているか、転勤の範囲。地域の会社なら無期か有期か、業務の変更の範囲に保守の現場が含まれるか。
2. 始業・終業、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇(第2号)。保守の現場なら変形労働時間制や交替制の設計、障害時の対応の扱い。営業・事業開発なら年度末の繁忙の実態を面接で聞いておきます。裁量労働制が適用される場合は、自分の業務が対象業務に当たるかを確かめます。
3. 賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給(第3号)。大手なら等級と昇給の仕組み。年俸制でも、法定時間を超えた労働には割増賃金の支払義務があります(労働基準法第37条)。資格手当の対象を確かめます。
4. 退職に関する事項(第4号)、退職手当(第4号の2)、賞与・臨時の賃金(第5号)。第4号の2と第5号は「定めをする場合」の事項なので、書かれていなければ制度がない可能性があります。地域の会社では特に、就業規則を見せてもらい、制度の有無を確認してください。
条件の読み方や、どこまで交渉できるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。
社会保険と給付——切り替わるもの、新しく対象になるもの
年金と健康保険。地方公務員は地方公務員共済組合の組合員ですが、民間の適用事業所に雇用されると厚生年金保険の被保険者になり(厚生年金保険法第9条)、健康保険は会社が加入する協会けんぽか健康保険組合に切り替わります。手続きは厚生年金に切り替える場合と保険料はどれが安いのか、の考え方に整理しています。
雇用保険。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外です(雇用保険法第6条第6号)。民間に移ると被保険者になり、育児休業給付金(同法第61条の7)など、公務員の間は対象外だった給付の対象になります。
退職手当。公務員の退職手当は条例で決まり、退職時に支給されて完結します(自己都合退職と定年退職で何が変わるか)。民間の退職金は「定めがある場合」の制度で、転職先に制度があるか、勤続何年から支給されるかを確かめる必要があります。公務員の退職手当と民間の退職金は通算されません。
掲載中の求人は、職種・雇用形態・勤務地・条件が一覧で見られます。会社ごとの条件を並べて比べるには、こちらが早いです。財政・会計の経験が効く求人を見てみる
まとめ
- この記事に業界の年収相場は書いていない。大手と地域の会社で体系がまったく違い、裏を取った統計がないため。条件は掲載中の求人ごとに確かめる
- 公務員の処遇は法律と条例で決まり、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる。賞与・退職金は民間では「定めがある場合」の制度
- 大手は全社共通の体系で配属が人事で決まる(自治体向けの部門に特定されるか、転勤の範囲を確かめる)。地域の会社は体系が独自で、自治体の契約と補助事業への依存が事業の規模に直結する
- 24時間の保守は交替制や変形労働時間制(労働基準法第32条の2)、分析・設計は裁量労働制の対象になりうる(第38条の3)。官公庁営業・事業開発はどちらの対象でもなく、開庁日に合わせた働き方
- 自治体向けの営業と事業開発は、年度末から年度初めに提案と契約の繁忙が集中する
- 民間に移ると厚生年金・健康保険・雇用保険に切り替わり、育児休業給付金など新しく対象になる給付がある
よくある質問
通信会社は24時間対応で呼び出されると聞きました。官公庁営業の枠でもそうですか
24時間の対応は、ネットワークの保守の現場の働き方です。官公庁営業や自治体向けの事業開発は、自治体の開庁日に合わせた働き方が中心で、障害時の対応は保守の部門が担います。ただし、同じ会社でも配属によって労働時間の設計が違うので、労働条件通知書の就業場所と業務の変更の範囲(労働基準法施行規則第5条第1号の3)に保守の現場が含まれていないか、配属先の実際の設計を面接で確かめてください。「会社の働き方」ではなく「この枠の働き方」を聞くことが要点です。
「通信の会社は裁量労働制」と言われました。営業でも適用されるのですか
専門業務型裁量労働制(労働基準法第38条の3)の対象業務は施行規則第24条の2の2第2項に列挙されており、通信で該当しうるのは「情報処理システムの分析又は設計の業務」(第2号)です。官公庁営業や自治体向けの事業開発は分析・設計の業務ではないので、対象外です。適用されると言われた場合、自分の業務が対象業務に当たるとされているか、労使協定の内容を見せてもらってください。該当しない業務に裁量労働制を適用することはできません。
地域の通信会社で、自治体の回線の契約が終わったらどうなりますか
会社によります。自治体の回線や補助事業への依存が大きい会社では、契約の更新に失敗すると事業の規模が縮小し、配置の変更や体制の見直しになる設計の会社があります。労働条件通知書の契約期間と更新の基準(労働基準法施行規則第5条第1号・第1号の2)を確かめ、面接で「主な契約の期間と更新の状況」「自治体の契約への依存の度合い」を聞いてください。財政課で回線の契約と補助事業を査定していた方なら、この構造は読めるはずです。解雇については労働契約法第16条により客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が要ります。
出典
- 電気通信事業法 第9条(電気通信事業の登録)/第16条(電気通信事業の届出)|e-Gov法令検索
- 地方公務員法 第24条(給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準)|e-Gov法令検索
- 地方自治法 第204条(給料、手当及び旅費)/第214条(債務負担行為)/第234条(契約の締結)|e-Gov法令検索
- 労働基準法 第15条(労働条件の明示)/第32条の2(1か月単位の変形労働時間制)/第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)/第38条の3(専門業務型裁量労働制)/第39条(年次有給休暇)/第89条(就業規則の作成及び届出の義務)|e-Gov法令検索
- 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)/第24条の2の2(専門業務型裁量労働制の対象業務)|e-Gov法令検索
- 労働契約法 第16条(解雇)/第21条(適用除外)|e-Gov法令検索
- 雇用保険法 第6条(適用除外)/第61条の7(育児休業給付金)|e-Gov法令検索
- 厚生年金保険法 第9条(被保険者)|e-Gov法令検索