制度とお金 / 共済
福利厚生施設が使えなくなること
退職で失うもののうち、金額に換算しにくいのが、福利厚生の施設と割引です。共済組合の保養所、互助会の契約施設、職員向けの健診、提携先の割引——在職中は当たり前に使っていたものが、退職の翌日から使えません。
これらは、退職手当や年金のように条文で額が決まるものではなく、「使っていた人には効き、使っていなかった人には何も変わらない」性質のものです。だからこそ、自分がどれを使っていたかを把握しないと、転職先の福利厚生と比べられません。
この記事では、退職で使えなくなる福利厚生を、根拠ごとに整理して、何が続き何が終わるか、転職先の福利厚生をどう比べるかを整理します。施設と割引の中身は共済組合と自治体ごとに違うので、この記事は枠組みです。
福利厚生の3つの根拠
公務員の福利厚生は、根拠が3つに分かれます。退職時の扱いも根拠ごとに違います。
| 根拠 | 提供する主体 | 例 | 退職時 |
|---|---|---|---|
| 地方公務員等共済組合法第112条(福祉事業) | 共済組合 | 保養所・宿泊施設、健診、貯金、貸付、物資の供給 | 組合員でなくなれば終了。ただし任意継続組合員は利用できる(第144条の2第1項) |
| 地方公務員法第42条(厚生制度) | 自治体、互助会 | 互助会の契約施設、レクリエーション、職員向けの健診の補助 | 条例・規約による。原則として終了 |
| 職員向けの割引・提携 | 民間事業者(職員を対象に提供) | 提携施設の割引、職員証で受けられる優待 | 職員証の返納で終了 |
共済組合の福祉事業——第112条で何が定められているか
第112条第1項は、組合が行える福祉事業を列挙しています。
| 号 | 事業 | 実務での例 |
|---|---|---|
| 第1号 | 組合員等の健康教育、健康相談、健康診査、疾病の予防 | 人間ドックの補助、健診 |
| 第1号の2 | 組合員の保健、保養若しくは宿泊又は教養のための施設の経営 | 保養所、宿泊施設 |
| 第2号 | 組合員の利用に供する財産の取得、管理、貸付け | 住宅の貸与など |
| 第3号 | 組合員の貯金の受入れ、運用 | 共済貯金 |
| 第4号 | 組合員の臨時の支出に対する貸付け | 共済貸付 |
| 第5号 | 組合員の需要する生活必需物資の供給 | 物品の斡旋 |
| 第6号 | その他組合員の福祉の増進に資する事業で定款で定めるもの | 提携施設の利用の斡旋など |
どの号も「組合員」を対象にしています。退職で組合員でなくなれば、これらの事業の対象から外れます。貯金と貸付は退職時に精算し(退職時の共済の手続き)、施設と健診は利用の資格を失います。
例外——任意継続組合員は福祉事業を利用できる
第144条の2第1項は、任意継続組合員の申出を、引き続き短期給付を受け、及び福祉事業を利用することを希望する旨の申出と定め、申出をした者を短期給付と福祉事業に係る部分について組合員とみなします。
つまり、任意継続組合員は、法律上、福祉事業を利用できます。保養所の利用、健診の補助などが、任意継続の期間(最長2年)は続きます。ただし、貸付の新規の申込みなど、事業ごとに任意継続組合員の利用に制限を設けている組合があるので、使いたい事業があれば組合に確かめてください。任意継続の中身は任意継続組合員制度に書いています。
任意継続を選ぶかどうかは健康保険の保険料で決めるもので、施設の利用のために選ぶ制度ではありませんが、任意継続を選んだ方は、福祉事業も使えることを知っておくと無駄がありません。
互助会と自治体の厚生制度——規約による
地方公務員法第42条を受けた互助会の契約施設、レクリエーション、健診の補助などは、互助会の規約と自治体の要綱で定められ、会員・職員でなくなれば原則として終了します。退職者向けの会員制度を設けている互助会もあります(互助会・共済会の脱退)。
職員向けの割引——職員証とともに終わる
民間事業者が職員向けに提供している割引や優待は、法律や規約ではなく、事業者と自治体・互助会との提携によるもので、職員証を返納すれば使えません。退職の翌日以降に職員証を提示して割引を受けることは、不正利用に当たります。職員証は退職日に返納します。
何を使っていたかを書き出す
失うものを把握するために、在職中に使っていた福利厚生を書き出します。
| 分類 | 使っていたもの | 年に何回 | 代わりの手段 |
|---|---|---|---|
| 健診 | 人間ドックの補助、健診 | 転職先の健康保険の健診、自治体の健診、自費 | |
| 宿泊 | 保養所、契約の宿泊施設 | 転職先の福利厚生、民間の会員制サービス | |
| 貯金・貸付 | 共済貯金、共済貸付 | 転職先の財形、民間の金融機関 | |
| 物資 | 物品の斡旋 | ── | |
| 割引 | 提携施設の割引、職員証の優待 | 転職先の福利厚生 | |
| 互助会 | 契約施設、レクリエーション、慶弔給付 | 転職先の福利厚生、健康保険組合の給付 |
この表の「年に何回」が、退職で失うものの実際の大きさです。使っていなかったものは、失っても何も変わりません。
転職先の福利厚生を比べる
転職先の福利厚生は、求人票では「各種社会保険完備」「福利厚生充実」といった書き方が多く、中身が見えません。内定の段階で、人事に具体的に聞くのが確実です。
| 聞くこと | なぜ聞くか |
|---|---|
| 健康保険は健康保険組合か協会けんぽか。付加給付と健診の補助はあるか | 共済の健診の補助に相当するものがあるか |
| 保養所、宿泊の補助、福利厚生の代行サービスの利用はあるか | 共済の保養所に相当するものがあるか |
| 財形制度、社内預金、社内貸付はあるか | 共済貯金・貸付に相当するものがあるか |
| 慶弔金、見舞金の制度はあるか | 互助会の給付に相当するものがあるか |
| 退職金の制度と、企業型確定拠出年金の有無 | 福利厚生ではなく、退職後の資金に直接効く |
民間企業では、福利厚生の代行サービス(宿泊、レジャー、育児などの割引を一括して提供するサービス)を使っている企業が多く、共済の保養所とは形が違いますが、用途は重なります。形が違うので、「保養所はあるか」ではなく「宿泊やレジャーの補助はどういう形か」と聞くと、比べやすくなります。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、福利厚生の施設で効いてくる点は3つです。
1. 使っていなかったものは、失っても何も変わらない
書き出して、年に何回使ったかを見てください。周囲の「もったいない」は、あなたの使い方を知らない人の言葉です。
2. 転職先の福利厚生は、形が違う
共済の保養所に相当するものは、民間では福利厚生の代行サービスであることが多い。形ではなく用途で比べてください。
3. 任意継続を選んだ方は、福祉事業も使える
第144条の2第1項のとおりです。空白の期間に健診を受けたい方は、組合に利用の可否を確かめてください。
手続きと期限
| 順序 | 手続き | 時期 | 場所 |
|---|---|---|---|
| 退職を考え始めたら | 使っていた福利厚生と回数を書き出す | 最初に | 自分で |
| 内定の段階 | 転職先の人事に、相当する制度の有無を聞く | 内定後 | 転職先 |
| 退職前 | 未使用の健診の補助、互助会の給付を使う・請求する | 退職前 | 共済組合・互助会 |
| 退職前 | 保養所などの予約が退職後にかかっていれば、扱いを確かめる | 退職前 | 共済組合・互助会 |
| 退職日 | 職員証、組合員証、互助会の会員証を返納 | 退職日 | 自治体・共済組合・互助会 |
| 任意継続を選んだ場合 | 福祉事業の利用の可否を組合に確かめる | 申出時 | 共済組合 |
誤解されやすい点
「退職しても、しばらくは保養所を使える」と思い込む
組合員でなくなれば福祉事業の対象から外れます(第112条)。例外は任意継続組合員です(第144条の2第1項)。
「任意継続は健康保険だけ」と思い込む
福祉事業も利用できます(第144条の2第1項)。事業ごとの制限は組合に確かめてください。
「福利厚生が手厚いから辞めると損」と思い込む
失うものの大きさは、使っていた回数で決まります。書き出してから判断してください。
「民間には保養所のような制度はない」と思い込む
福利厚生の代行サービスなど、形の違う制度があります。用途で比べてください。
まとめ
- 公務員の福利厚生の根拠は、共済組合の福祉事業(地方公務員等共済組合法第112条)、自治体・互助会の厚生制度(地方公務員法第42条)、職員向けの割引・提携の3つで、退職時の扱いも根拠ごとに違います
- 共済組合の福祉事業(保養所、健診、貯金、貸付、物資の供給など)は、組合員でなくなれば対象から外れます。例外として、任意継続組合員は福祉事業を利用できます(第144条の2第1項)
- 互助会の施設と給付は規約による。職員向けの割引は職員証の返納で終了します
- 失うものの大きさは、使っていた回数で決まります。書き出してから判断してください
- 転職先の福利厚生は形が違うので、保養所ではなく「宿泊やレジャーの補助の形」など用途で聞くと比べられます
- 退職前に、未使用の健診の補助や互助会の給付を使い、退職日に職員証・組合員証・会員証を返納します
よくある質問
退職の翌月に、共済の保養所の予約を入れています。使えますか
原則として使えません。保養所は第112条第1項第1号の2の福祉事業で、組合員を対象にしています。退職の翌日に組合員でなくなるので、退職後の日程の予約は、組合員としての利用の資格を失います。任意継続組合員になる場合は、福祉事業を利用できるので(第144条の2第1項)、任意継続の申出をすれば予約を使える可能性があります。ただし、任意継続は健康保険の保険料で選ぶ制度で、保養所の予約のために選ぶものではありません。任意継続を選ばない場合は、退職前に共済組合に予約の扱い(キャンセルか、組合員でない方の料金での利用が可能かなど)を確かめてください。組合によっては、組合員以外の利用を一般の料金で認めている施設があります。
転職先の福利厚生を聞くと、条件にこだわる人だと思われませんか
内定の段階で、具体的に聞く分には問題ありません。福利厚生の中身は、入社後の生活に直接関わることで、内定者が確かめるのは自然な行為です。聞き方は、「共済組合の健診の補助や保養所を使っていたので、御社に相当する制度があれば教えてください」と、自分が使っていたものに相当する制度を聞く形にすると、条件の要求ではなく、制度の確認として受け取られます。避けたほうがよいのは、一次面接の段階で福利厚生ばかりを聞くことで、志望の中身より条件に関心があるように見えます。福利厚生の確認は、内定が出てから、入社の条件を確かめる場面でまとめて聞くのが、時期としても内容としても適切です。転職の支援を受けている場合は、担当者を通じて聞くと、直接聞くより楽です。
福利厚生が手厚いと言われる公務員を辞めるのは、やはり損ですか
使っていた回数で決まります。共済組合の福祉事業は第112条に列挙されていて、保養所、健診、貯金、貸付、物資の供給などですが、どれも使わなければ価値はありません。年に1回か2回の保養所の利用と、人間ドックの補助を受けていた方にとっては、失うものは年にその分だけで、民間の福利厚生の代行サービスや転職先の健康保険組合の健診の補助で代わりが利きます。家族で毎年保養所を使い、互助会の給付を何度も受けていた方にとっては、失うものは実際に大きく、転職先に相当する制度があるかを確かめる意味があります。「手厚い」という言葉ではなく、自分の使い方を書き出して、転職先の人事に相当する制度を聞く。それが、この論点を判断の材料にする唯一の方法です。退職手当や年金のような大きな項目と並べれば、福利厚生の施設が判断を左右することは少ないと思います。