制度とお金 / 退職手当
年度途中に辞めると退職手当はどうなるか
「辞めるなら年度末にしなさい」。転職の相談で、周囲からいちばん言われる言葉がこれです。
引き継ぎや周囲への影響を考えれば、年度末には理があります。ただ、退職手当の話として言われている場合は、確かめる必要があります。退職手当の計算に、「年度」という区切りは出てきません。効いてくるのは、勤続の月数と、退職日の俸給月額です。
この記事では、年度途中の退職で本当に変わるものと、変わらないものを、国家公務員退職手当法と給与法の条文で整理します。地方公務員の退職手当は所属自治体の条例で決まります(地方自治法第204条)が、条例は国の法律に沿った構成を採るのが一般的です。仕組みの全体は退職手当の仕組み|何で金額が決まるのかで扱っています。
退職手当の式に「年度」はない
国家公務員退職手当法第3条第1項は、基本額を退職日の俸給月額に、勤続期間の区分ごとの割合を乗じた額の合計と定めています。そして第7条第2項は、勤続期間を「職員となつた日の属する月から退職した日の属する月までの月数」で数えると定めています。
式に入っているのは、俸給月額と月数です。4月1日から3月31日という年度の区切りは、どこにも出てきません。
つまり、退職手当の計算だけで言えば、9月末に辞めても、3月末に辞めても、式は同じです。変わるのは、その間の勤続の月数と、退職日の俸給月額だけです。
年度途中の退職で変わるもの——3つ
年度を意識する必要がないのではありません。年度そのものではなく、年度の中にある3つの日付が効きます。
1. 勤続の月数が、区分の境目をまたぐかどうか
第7条第6項は、1年未満の端数を切り捨てると定めています。勤続19年11か月は19年です。自分の採用の月から数えて、区分の境目(10年、15年、20年、25年)が年度のどこにあるかは、人によって違います。4月採用なら年度末が境目に近いですが、10月採用なら9月末が境目です。年度末が境目とは限りません。詳しくは勤続年数が支給率に与える影響に書いています。
2. 昇給の時期をまたぐかどうか
基本額は退職日の俸給月額が基準です。昇給の日の前に辞めるか、後に辞めるかで、全期間の割合がかかる基準額が変わります。昇給の時期は条例と規則で定められているので、自分の自治体の昇給日を確かめてください。これも、年度末ではなく昇給日が効きます。
3. 期末手当の基準日をまたぐかどうか
これは退職手当ではなく給与の話ですが、年度途中の退職で実際に額が動くのは、むしろこちらです。国の給与法第19条の4は、期末手当を6月1日と12月1日の基準日に在職する職員に支給すると定め、「基準日前一箇月以内に退職し、又は死亡した職員」にも同様に支給するとしています。そして、支給の割合は基準日以前6か月の在職期間で区分され、6か月で100分の100、5か月以上6か月未満で100分の80、3か月以上5か月未満で100分の60、3か月未満で100分の30です。
つまり、基準日の前1か月にあたる5月中に退職すれば6月の期末手当は出ますが、4月以前に退職すれば出ません。自治体の条例にも同様の基準日と在職期間の区分があるのが通常です。「年度末に辞めると損」と言われる話の実体は、退職手当ではなく、この期末手当の基準日であることがほとんどです。
年度途中の退職で変わらないもの
1. 支給率の表と乗率
自己都合の表と乗率は、退職の月では変わりません。勤続の月数で区分が決まるだけです。
2. 調整額の仕組み
調整額は在職中の職の区分を月ごとに積み上げる仕組みで、年度の区切りは関係しません。
3. 税の控除
退職所得控除は勤続年数で決まり、端数は切り上げです。年度は関係しません。詳しくは退職所得控除と税金に書いています。
転職するとどうなるか
転職による退職で、時期に関して効いてくる点は3つです。
1. 勤続の月数の境目を、自分の採用の月から数える
年度ではなく、採用の月から数えます。境目が年度のどこにあるかは、人によって違います。
2. 昇給日と期末手当の基準日を、退職の月と並べる
昇給の直後、期末手当の基準日の直後に退職日を置けるかどうかで、額が動きます。転職先の入社日との調整が必要なら、ここが交渉の材料になります。
3. 引き継ぎの区切りは、別に考える
退職手当と期末手当の日付が決まっても、引き継ぎの都合は職場ごとに違います。財政課のように年度の山が制度で決まっている部署では、その事情も含めて考える必要があります。金額の話と、仕事の区切りの話は、分けて考えたほうが整理しやすくなります。
手続きと期限
年度途中の退職でも、手続きの骨は年度末と同じです。退職の意思の申出、退職の辞令、退職手当の請求、税の申告書の提出。違うのは、期末手当の在職期間の計算と、その年の給与の住民税の扱いです。
退職した年の給与に対する住民税は、翌年に普通徴収で請求されます。年度途中の退職では、退職の月までの給与分の住民税が、退職後に自分で納める形になります。退職手当の住民税は支払い時に特別徴収されるので、これとは別です。入社までの資金計画に、この分を入れておいてください。
年次有給休暇の残日数の扱いは、自治体の条例と規則で定められています。年度途中の退職では、その年の付与分をどう使えるかを、人事の担当課に確認してください。
誤解されやすい点
「年度末に辞めないと退職手当が減る」と思い込む
退職手当の式に年度はありません。効くのは勤続の月数と退職日の俸給月額です。
「年度末なら期末手当も満額出る」と思い込む
3月末は、12月1日の基準日から4か月なので、次の6月の期末手当は出ません。年度末が期末手当にとって有利とは限りません。
「昇給は年度初め」と思い込む
昇給日は条例と規則で定められています。自分の自治体の昇給日を確かめてください。
「勤続の境目は年度末」と思い込む
採用の月から数えます。10月採用なら、境目は9月末です。
まとめ
- 退職手当の基本額は退職日の俸給月額 × 勤続の月数の区分ごとの割合の合計で、式に年度の区切りはありません(退職手当法第3条・第7条)
- 年度途中の退職で効くのは、①勤続の月数が区分の境目をまたぐか ②昇給日をまたぐか ③期末手当の基準日をまたぐかの3つの日付です
- 期末手当は6月1日と12月1日の基準日に在職する職員と、基準日前1か月以内に退職した職員に支給され、在職期間で割合が変わります(給与法第19条の4)。「年度末に辞めないと損」の実体は、たいていこちらです
- 勤続の境目は採用の月から数えるので、年度末が境目とは限りません
- 退職した年の給与の住民税は翌年に普通徴収で来ます。退職手当の住民税とは別です
- 金額の日付と、引き継ぎの区切りは、分けて考えてください
よくある質問
9月末に辞めると、12月の期末手当はどうなりますか
国の給与法の形では、12月1日の基準日に在職していないので、支給されません。「基準日前一箇月以内に退職した職員」には支給されますが、9月末は基準日の2か月前なので当たりません。基準日の前1か月にあたる11月中の退職なら、在職期間の区分に応じた割合で支給されます。自治体の条例にも同様の基準日と区分があるのが通常ですが、日付と割合は条例で確認してください。期末手当の額は、転職先の初回の給与との差で吸収できることもあるので、退職日を1か月動かす価値があるかは、額を見て決めてください。
4月採用で、来年の3月末で勤続20年になります。年度末まで待つべきですか
国の第7条の形では、4月採用の方は3月末で勤続の月数がちょうど12の倍数になるので、年度末が区分の境目です。勤続19年11か月と20年0か月では、自己都合の乗率(19年以下は100分の90、20年以上は乗率なし)が変わります。この場合は、年度末まで待つ判断に条文上の根拠があります。ただし、採用の月が4月でなければ、境目は年度末ではありません。自分の採用の辞令の日付から、月数を数えてください。詳しくは自己都合退職と定年退職で何が変わるかと勤続年数が支給率に与える影響に書いています。
年度途中で辞めると、引き継ぎで迷惑をかけませんか
それは、退職手当の話とは別の問いです。引き継ぎの都合は、職場と担当する業務で違います。財政課のように年度の山が制度で決まっている部署なら、山の後に区切りを置くのが自然ですし、通年で回る業務なら年度末にこだわる理由は薄くなります。金額の日付と、仕事の区切りの日付は、分けて考えてください。そのうえで、両方を並べて退職日を決める。どちらか一方だけで決めると、もう一方で後悔が残ります。仕事の区切りの考え方は、部署別の記事で扱っています。財政課なら財政課の経験は民間で何と呼ばれるかから入ってください。