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退職所得の受給に関する申告書
退職手当の税の話で、いちばん実務に効くのが、この1枚の書類です。
「退職所得の受給に関する申告書」。これを支払いの前に出せば、勤続年数に応じた控除と2分の1の計算を反映した額で源泉徴収され、原則として確定申告は要りません。出さなければ、控除を反映せずに支給額の20.42パーセントが源泉徴収され、確定申告で取り戻すことになります。額の差は、退職手当の額によっては百万円の桁です。
この記事では、この申告書が何で、誰が、いつまでに、誰を経由して、何を書くかを、所得税法第203条と国税庁の案内で整理します。税は個別性が高い分野なので、一般的な取扱いを書きます。自分の記載は、所属の担当課と税務署で確認してください。課税の仕組みは退職所得の課税の仕組みに書いています。
根拠——所得税法第203条
第203条第1項は、こう定めています。
> 国内において退職手当等の支払を受ける居住者は、その支払を受ける時までに、次に掲げる事項を記載した申告書を、その退職手当等の支払者を経由して、その退職手当等に係る所得税の(中略)納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
そして第6項が、「第一項の規定による申告書は、退職所得の受給に関する申告書という」と名前を定めています。
| 項目 | 条文の定め |
|---|---|
| 誰が | 退職手当等の支払を受ける居住者(本人) |
| いつまでに | その支払を受ける時までに |
| 誰を経由して | 退職手当等の支払者(自治体)を経由して |
| 誰に | 納税地の所轄税務署長 |
| 提出の効果 | 支払者に受理された時に、税務署長に提出されたものとみなす(第3項) |
「提出しなければならない」と書かれている、義務の書類です。ただし、実務では、自治体の人事の担当課が退職の手続きの中で様式を渡し、記入して返す形になります。税務署に自分で持っていくものではなく、支払者に出せば、受理された時に税務署長に提出されたものとみなされます(第3項)。
出した場合と出さない場合
国税庁のNo.2732とA2-29の説明を並べます。
| 申告書を提出した | 提出しなかった | |
|---|---|---|
| 源泉徴収の計算 | 勤続年数に応じた退職所得控除と2分の1の計算をして、正しい税額を源泉徴収 | 支給額に20.42パーセントを乗じた額を源泉徴収 |
| 確定申告 | 原則として不要 | 確定申告で精算する必要 |
| 住民税 | 支払い時に特別徴収 | 同上。A2-29の説明では、未提出の場合は市町村民税・道府県民税に延滞金がかかることがある旨の記載 |
提出しないと、控除が反映されません。たとえば、退職手当が800万円で勤続10年2か月なら、提出した場合の所得税と復興特別所得税は91,890円(No.2732の計算例)ですが、提出しなければ800万円×20.42パーセント=1,633,600円が源泉徴収され、差額は確定申告で取り戻す形になります。戻ってくるまでの数か月、その額が手元にないということです。
何を書くか
第203条第1項は、記載する事項を列挙しています。要点は、次のとおりです。
| 記載する事項 | 内容 |
|---|---|
| 支払者の氏名または名称 | 退職手当を支払う自治体 |
| 支払済みの他の退職手当等の有無 | 同じ年に他の退職手当を受けているか。受けていれば、それが一般・短期・特定役員のどれか |
| 勤続期間 | 支払者からの退職手当に係る勤続期間(控除額の計算の基礎) |
| 前年以前の退職手当等 | 前年以前に他の退職手当を受けていて、控除の計算に関わる場合 |
| 障害者になったことによる退職 | 該当する場合(控除額が加算される) |
国税庁のA2-29の説明では、様式はA欄(全員が記入)とB欄以降(他の退職手当を受けたことがある場合に記入)に分かれ、A欄には退職手当の支払を受ける日や勤続期間などを書きます。
公務員から民間に転職する方の多くは、A欄だけの記入で済みます。同じ年に他の退職手当を受けていなければ、B欄以降は空欄です。記入の量は、多くありません。
添付書類について、第203条第1項後段は、支払済みの他の退職手当等がある旨を記載する場合は、その退職手当の源泉徴収票を添付しなければならないと定めています。同じ年に他の退職手当を受けている方だけに関わる定めです。
転職の場面で注意する2つのこと
1. 同じ年に2つの退職手当を受ける場合
たとえば、3月に自治体を退職して退職手当を受け、同じ年のうちに転職先を辞めて再び退職手当を受ける場合です。2つ目の申告書に、1つ目の退職手当のことを書き、その源泉徴収票を添付します。控除の計算が、2つを合わせた形で行われます。1つ目の退職手当の源泉徴収票は、保管しておいてください。
2. 前年以前に退職手当を受けている場合
公務員になる前に民間で退職手当を受けていた方などは、前年以前の退職手当が控除の計算に関わることがあります。所得税法第30条第6項は、前年以前に他の退職手当を受けている場合で政令で定める場合に控除額を調整すると定めています。申告書には、その旨を書く欄があります。該当するかどうかは、人事の担当課と税務署で確認してください。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、申告書で効いてくる点は3つです。
1. 支払いの前に出す。出せば確定申告は原則不要
第203条の「支払を受ける時までに」です。退職の手続きの中で、その場で記入して返してください。
2. 出さなければ20.42パーセントが引かれ、確定申告まで戻らない
額の差は退職手当の額によって百万円の桁で、戻るのは翌年の春です。
3. 同じ年に2つの退職手当を受けるなら、1つ目の源泉徴収票を保管する
2つ目の申告書に添付します。退職手当の源泉徴収票は、捨てないでください。
手続きと期限
| 順序 | すること | 期限・場所 |
|---|---|---|
| 1 | 退職の手続きで、申告書の様式を受け取る | 人事の担当課 |
| 2 | A欄を記入する(支払者、支払を受ける日、勤続期間など) | その場で |
| 3 | 同じ年に他の退職手当があれば、B欄以降を記入し、その源泉徴収票を添付 | 該当する場合のみ |
| 4 | 退職手当の支払を受ける時までに、支払者(自治体)に提出 | 支払者が受理した時に税務署長に提出されたものとみなす(第203条第3項) |
| 5 | 退職手当の源泉徴収票を受け取り、保管する | 支払者から交付 |
第203条第4項は、電磁的方法による提出についても定めています。自治体が電子的な提出に対応している場合は、その方法でも構いません。様式と方法は、人事の担当課の案内に従ってください。
誤解されやすい点
「申告書は税務署に自分で出すもの」と思い込む
支払者(自治体)を経由して出します。支払者が受理した時に、税務署長に提出されたものとみなされます(第203条第3項)。
「出さなくても、正しい額で引かれる」と思い込む
出さなければ支給額の20.42パーセントです。控除は反映されません。
「出し忘れたら、もう取り戻せない」と思い込む
確定申告で精算できます。ただし、戻るのは翌年の申告の後です。
「B欄以降も全部書かなければならない」と思い込む
同じ年に他の退職手当を受けていなければ、A欄だけです(A2-29の説明)。
まとめ
- 「退職所得の受給に関する申告書」は、退職手当の支払を受ける時までに、支払者(自治体)を経由して税務署長に提出する書類です(所得税法第203条第1項・第6項)。支払者が受理した時に提出されたものとみなされます(第3項)
- 提出すれば、控除と2分の1の計算を反映した源泉徴収で、原則として確定申告は不要です。提出しなければ支給額の20.42パーセントが源泉徴収され、確定申告で精算します(No.2732、A2-29)
- 記載するのは、支払者、支払を受ける日、勤続期間、同じ年や前年以前の他の退職手当の有無などです。多くの方はA欄だけで済みます
- 同じ年に他の退職手当を受けている場合は、その源泉徴収票を添付します(第203条第1項後段)
- 退職の手続きで受け取ったら、その場で記入して返してください。後回しにすると、手元に残る額の時期が半年ずれます
- 税は個別性が高い分野です。自分の記載は、所属の担当課と税務署で確認してください
よくある質問
申告書を出し忘れて、20.42パーセントが引かれました。どうすればよいですか
確定申告で精算できます。国税庁のNo.2732は、申告書を提出していない場合は支給額に20.42パーセントを乗じた額が源泉徴収されるため、確定申告で精算すると説明しています。退職手当の源泉徴収票を使って、退職所得の控除と2分の1の計算を反映した税額を申告し、差額の還付を受けます。退職手当の源泉徴収票は、支払者から交付されるので、保管しておいてください。申告の時期と方法は、税務署か税理士に確認してください。なお、住民税についても、A2-29の説明では未提出の場合に延滞金がかかることがある旨の記載があるので、市町村の窓口にも確認してください。
同じ年に自治体と転職先の両方から退職手当を受けました。申告書はどう書きますか
2つ目の退職手当の申告書に、1つ目の退職手当のことを記載し、その源泉徴収票を添付します。所得税法第203条第1項は、支払済みの他の退職手当等がある旨を記載する場合はその源泉徴収票を添付しなければならないと定めています。国税庁のA2-29の説明では、B欄以降が、他の退職手当を受けたことがある場合の記入欄です。控除の計算は、2つの退職手当を合わせた形で行われます。1つ目の退職手当の源泉徴収票を捨てていると、記載に困ります。転職の予定がある方は、自治体から交付される源泉徴収票を必ず保管してください。記載の詳細は、2つ目の支払者の担当部門と税務署で確認してください。
公務員になる前に、民間で退職金を受け取っています。申告書に関係しますか
関係することがあります。所得税法第30条第6項第1号は、その年の前年以前に他の退職手当等の支払を受けている場合で政令で定める場合に、退職所得控除額を調整すると定めています。申告書には、前年以前の退職手当について記載する欄があります。前の退職手当を受けてから相当の年数がたっていれば実務上の影響は限られることが多いですが、勤続の期間が重なる形になっていないかは確認が要ります。該当するかどうかと、記載の方法は、人事の担当課と税務署で確認してください。控除の仕組みは退職所得控除と税金に書いています。