制度とお金 / 失業給付と税金
退職所得の課税の仕組み
退職手当の税は、3段階で決まります。控除して、半分にして、他の所得と分けて税率をかける。この3段階を知っていれば、手取りの見込みは自分で出せます。
前の記事退職所得控除と税金では、控除の計算と申告書の話を扱いました。この記事は、その先——税率をどうかけて、いくらになるのか——を、国税庁の計算例を追いながら整理します。税は個別性が高い分野なので、一般的な取扱いを書きます。自分の額は、所属の担当課と税務署で確認してください。
3段階の全体
| 段階 | 何をするか | 根拠 |
|---|---|---|
| 1. 控除する | 収入金額から退職所得控除額を引く | 所得税法第30条第3項 |
| 2. 半分にする | 残額に2分の1を乗じる(短期・特定役員の特例あり) | 第30条第2項 |
| 3. 分けて税率をかける | 他の所得と合算せず、退職所得の金額だけに所得税の税率をかける。復興特別所得税と住民税も同じ金額にかかる | 分離課税、No.2260、地方税法第50条の4・第328条の3 |
1と2で「退職所得の金額」が出ます。3で税額が出ます。それぞれを見ていきます。
段階1と2:退職所得の金額を出す
所得税法第30条第2項は、退職所得の金額を「その年中の退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額の二分の一に相当する金額」と定めています。控除額は第3項で、勤続20年以下は40万円×勤続年数(80万円未満なら80万円)、20年超は800万円+70万円×(勤続年数−20年)です。勤続年数の1年未満の端数は1年に切り上げます(No.1420)。
式:(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得の金額
控除の詳細と、勤続5年以下の短期退職手当等の特例は退職所得控除と税金に書いています。
段階3:税率をかける——分離課税
退職所得は、給与や他の所得と合算せず、退職所得の金額だけに税率をかけます。これが分離課税です。退職の年に給与が多くても、退職手当の税率はそれに引きずられません。
かける税率は、所得税の速算表です。国税庁のNo.2260は、次の表を示しています(令和8年4月1日現在)。
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円から1,949,000円まで | 5パーセント | 0円 |
| 1,950,000円から3,299,000円まで | 10パーセント | 97,500円 |
| 3,300,000円から6,949,000円まで | 20パーセント | 427,500円 |
| 6,950,000円から8,999,000円まで | 23パーセント | 636,000円 |
| 9,000,000円から17,999,000円まで | 33パーセント | 1,536,000円 |
| 18,000,000円から39,999,000円まで | 40パーセント | 2,796,000円 |
| 40,000,000円以上 | 45パーセント | 4,796,000円 |
退職所得の金額をこの表に当てはめて、税率を乗じ、控除額を引くと、所得税の額が出ます。そして、No.2260によれば、平成25年から令和19年までの各年分は、所得税と復興特別所得税(原則として基準所得税額の2.1パーセント)を併せて申告・納付します。
住民税は、退職所得について分離課税で、地方税法第50条の4が道府県民税の税率を100分の4、第328条の3が市町村民税の税率を100分の6と定めています。退職所得の金額の10パーセントです。
| 税 | かけ方 |
|---|---|
| 所得税 | 退職所得の金額 × 速算表の税率 − 控除額 |
| 復興特別所得税 | 所得税の額 × 2.1パーセント |
| 住民税 | 退職所得の金額 × 10パーセント(道府県4パーセント+市町村6パーセント) |
国税庁の計算例を追う
No.2732に、計算例があります。勤続10年2か月、退職手当の支給額800万円の場合です。
| 段階 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 勤続年数 | 10年2か月 → 端数を切り上げて11年 | 11年 |
| 控除額 | 40万円 × 11年 | 440万円 |
| 退職所得の金額 | (800万円 − 440万円)× 1/2 | 180万円 |
| 所得税 | 180万円 × 5パーセント − 0円 | 90,000円 |
| 復興特別所得税 | 90,000円 × 2.1パーセント | 1,890円 |
| 所得税+復興特別所得税 | 91,890円(No.2732の計算例と一致) | |
| 住民税 | 180万円 × 10パーセント | 180,000円 |
| 税の合計 | 271,890円 |
800万円の退職手当に対して、税の合計は約27万円です。給与の感覚で「2割引かれる」と見積もると160万円ですが、実際はその6分の1ほどです。控除と2分の1と分離課税の3つが、それぞれ効いています。
もう1つ、勤続が長い場合を置きます。勤続22年、退職手当1,000万円とします。
| 段階 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 控除額 | 800万円 + 70万円 × 2年 | 940万円 |
| 退職所得の金額 | (1,000万円 − 940万円)× 1/2 | 30万円 |
| 所得税 | 30万円 × 5パーセント | 15,000円 |
| 復興特別所得税 | 15,000円 × 2.1パーセント | 315円 |
| 住民税 | 30万円 × 10パーセント | 30,000円 |
| 税の合計 | 45,315円 |
1,000万円に対して、税の合計は約4万5千円です。勤続が長いほど控除が大きく、退職手当の大半が課税の対象から外れます。
この2つは、仕組みを示すための計算例です。自分の額は、勤続年数と収入金額で変わります。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、課税の仕組みで効いてくる点は3つです。
1. 手取りは額面の9割以上になることが多い
控除・2分の1・分離課税の3つが効きます。「2割引かれる」前提の資金計画は、見直せます。
2. 税率は退職所得の金額だけで決まる
給与や転職先の収入とは合算されません。退職の年の給与が多くても、退職手当の税率は上がりません。
3. 計算は自分でできる
勤続年数と収入金額があれば、上の表で出せます。申告書を提出することが前提です。
手続きと期限
課税の仕組みそのものに手続きはありませんが、「退職所得の受給に関する申告書」を退職手当の支払いを受ける時までに提出することが、上の計算が適用される前提です。提出しなければ、控除を反映せずに支給額の20.42パーセントが源泉徴収されます(No.2732)。申告書の中身は退職所得の受給に関する申告書に書いています。
住民税は、退職手当の支払い時に特別徴収されます。翌年に退職手当の分の住民税が来ることはありません。ただし、退職した年の給与の住民税は翌年に普通徴収で来ます。別の話として、資金計画に入れておいてください。
誤解されやすい点
「退職手当は給与と同じ税率で2割引かれる」と思い込む
控除・2分の1・分離課税で、額面の9割以上が手元に残ることが多いです。
「退職の年は給与が多いから、退職手当の税率も上がる」と思い込む
分離課税なので、合算されません。退職所得の金額だけで税率が決まります。
「住民税は翌年に来る」と思い込む
退職所得の住民税は支払い時に特別徴収です。翌年に来るのは、退職した年の給与の分です。
「申告書を出さなくても、この計算で引かれる」と思い込む
出さなければ20.42パーセントの源泉徴収です。計算の前提は申告書の提出です。
まとめ
- 退職手当の税は、①控除する ②半分にする ③他の所得と分けて税率をかけるの3段階です(所得税法第30条、分離課税)
- 所得税は退職所得の金額に速算表の税率を乗じて控除額を引き、復興特別所得税は所得税の2.1パーセント、住民税は10パーセントです(No.2260、地方税法第50条の4・第328条の3)
- 国税庁の計算例では、勤続10年2か月・800万円で所得税と復興特別所得税が91,890円、住民税を加えても約27万円です(No.2732)
- 勤続が長いほど控除が大きく、退職手当の大半が課税の対象から外れます
- 上の計算が適用される前提は、「退職所得の受給に関する申告書」の提出です。提出しなければ20.42パーセントの源泉徴収です
- 税は個別性が高い分野です。自分の額は、所属の担当課と税務署で確認してください
よくある質問
勤続15年で退職手当が700万円の場合、税はいくらになりますか
上の3段階で計算すると、次のようになります。控除額は40万円×15年=600万円。退職所得の金額は(700万円−600万円)×1/2=50万円。所得税は50万円×5パーセント=25,000円、復興特別所得税は25,000円×2.1パーセント=525円、住民税は50万円×10パーセント=50,000円。税の合計は75,525円で、手取りは約692万円です。これは仕組みを示すための計算で、勤続年数の端数の扱いや退職の年の税制で変わります。申告書を提出することが前提です。自分の額は、所属の担当課と税務署で確認してください。
退職の年に、退職手当と転職先の給与を両方受け取ります。税率は上がりますか
退職所得は分離課税なので、転職先の給与と合算されません。退職手当の税率は、退職所得の金額だけで速算表に当てはめて決まります。転職先の給与が多くても、退職手当の側の税率は上がりません。逆に、転職先の給与の税率が退職手当で上がることもありません。両方を同じ年に受け取っても、それぞれ別に計算されます。ただし、退職所得の金額は所得税の計算上「合計所得金額」に含まれる扱いがあり、扶養や各種の控除の判定に関わることがあります。その点は個別性が高いので、税務署か税理士に確認してください。
復興特別所得税は、いつまでかかりますか
国税庁のNo.2260によれば、平成25年から令和19年までの各年分について、所得税と復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1パーセント)を併せて申告・納付するとされています。退職手当の源泉徴収でも、所得税の額に2.1パーセントを乗じた額が併せて徴収されます。なお、No.2732には、令和9年分以後は所得税、防衛特別所得税および復興特別所得税を源泉徴収の対象とする、という記載があります。税率や名称は年分によって変わるので、退職する年の最新の情報を国税庁のページで確認してください。