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業界研究 / 企業法務・法律事務所

企業法務・法律事務所の年収と働き方|公務員から移るとどう変わるか

企業法務・法律事務所への転職を考える財政課の方から、「移ったら給与と働き方はどう変わるのか」という質問を受けます。先に断っておきます。この記事には、企業法務・法律事務所の年収の相場やレンジは書いていません。大手の法律事務所と個人の事務所、企業の法務部の会社の規模、弁護士の資格の有無、担当する案件(行政案件か一般の民事か)で差が大きく、当社が裏を取った統計として示せる数字がないからです。求人ごとの条件は、掲載中の求人にそれぞれ書いてあります。

代わりにこの記事で整理するのは3つです。「公務員の処遇は法律と条例で決まり、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる」という仕組みの違い、企業法務・法律事務所に固有の働き方の構造(訴訟の期日と株主総会が作る繁忙、事務所の規模による就業規則と厚生年金の適用、弁護士の指揮の下で動く働き方、秘密の扱い)を法律の側から読むこと、そして応募先の条件をどこで、どの順で確かめればよいかです。財政課の方は、給与条例と勤務時間条例の構造を知っているので、就業規則と労働条件通知書を同じ目で読めば、条件の確認は難しくありません。

業界の構造と職種ごとの評価は企業法務・法律事務所は公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に書いています。

業界構造の要点——処遇に影響する事業の形

弁護士の職務は訴訟事件、不服申立事件その他一般の法律事務で(弁護士法第3条第1項)、弁護士でない者が報酬を得て他人の法律事件を扱うことは禁じられています(第72条)。法律事務所の収入は依頼者からの報酬で成り立ち、職員は弁護士の指揮の下で案件を支えます。企業の法務部は自社の法律事務を扱う部署で、収入は会社の事業で決まります。処遇に影響するのは、法律事務所では「弁護士の指揮の下で案件の期日に合わせて動く」働き方、法務部では「会社の事業の周期に合わせて動く」働き方です。

法律事務所の繁忙は、裁判所が指定する期日で決まります。期日の指定と変更は、申立てにより又は職権で裁判長が行い(民事訴訟法第93条第1項)、口頭弁論と弁論準備手続の期日の変更は顕著な事由がある場合に限られます(同条第3項)。事務所の側で動かせない期日が書面の締切を作る点で、財政課の予算編成期のような内部の日程とは違います。企業の法務部の繁忙は、定時株主総会(会社法第296条第1項、毎事業年度の終了後一定の時期に招集)の準備と、契約の更新が集中する時期に来ます。

公務員と民間で「決まり方」がどう違うか

項目公務員(地方)民間(企業法務・法律事務所を含む)
給与の決まり方条例で定める(地方公務員法第24条第5項)就業規則と労働契約で定める。常時10人以上の事業場は賃金の決定・計算・支払方法・昇給を就業規則に記載し届け出る義務(労働基準法第89条第2号)。常時10人未満の法律事務所には就業規則の作成義務がない
賞与・手当期末手当・勤勉手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項)「定めをする場合」の明示事項(労働基準法施行規則第5条第5号)。資格や案件に関わる手当は事務所・会社による
退職金退職手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項)「定めをする場合」の記載事項。制度がない事務所もありうる(労働基準法第89条第3号の2)
時間外の扱い条例・規則で定める法定時間を超えた労働に割増賃金の支払義務(労働基準法第37条)。時間外労働には労使協定が前提(第36条)。期日前の書面作成で時間外が集中する
年次有給休暇条例で定める雇入れから6か月継続勤務・8割以上出勤で10労働日、以後勤続に応じて加算(労働基準法第39条)
身分の保障分限処分の事由は法律で限定解雇は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠くと無効(労働契約法第16条)。労働契約法は公務員には適用されない(同法第21条第1項)

公務員の処遇は「法律と条例に必ず書いてある」のに対し、民間の処遇は「定めがあるかどうかから確かめる」項目(賞与、退職金、手当)がある——財政課の方が条件を読み違えるのは、ほとんどがここです。法律事務所ではもう一つ線があり、常時10人未満の事務所には就業規則の作成・届出の義務がなく、条件は労働契約と労働条件通知書に書かれた範囲で決まります。弁護士が個人で開く事務所では、この形がありえます。決まり方の違いの詳細は、GovTech向けに書いた自治体向けSaaS・GovTechの年収と働き方と同じ構造です。

企業法務・法律事務所に固有の働き方——法律の側から読む

企業法務・法律事務所には、他の業界にない働き方の構造が4つあります。

1つ目は、期日が作る繁忙です。訴訟の期日は裁判長が指定し(民事訴訟法第93条第1項)、変更は顕著な事由がある場合に限られます(同条第3項)。書面の提出は期日から逆算して決まり、複数の案件の期日が重なれば繁忙が重なります。財政課の予算編成期のように「毎年同じ時期に来る繁忙」ではなく、「案件の期日の分布で決まる繁忙」です。面接では「担当する案件の数と、期日がどう分布するか」を聞くと、繁忙の形が見えます。法務部では、定時株主総会(会社法第296条第1項)の前と、契約の更新が集中する時期が繁忙になります。

2つ目は、事務所の規模による就業規則と厚生年金の適用です。常時10人未満の事務所には就業規則の作成義務がありません(労働基準法第89条)。厚生年金は、弁護士や公認会計士などが法令に基づき行う法律・会計の業務を行う事業所で常時5人以上の従業員を使用するものが適用事業所になり(厚生年金保険法第6条第1項第1号レ)、弁護士法人などの法人の事務所は常時従業員を使用していれば適用事業所です(同項第2号)。個人の弁護士が開く常時5人未満の事務所は、当然には適用事業所になりません。共済から厚生年金に切り替わることを前提にしている場合、応募先の事務所が適用事業所かを確かめる必要があります。

3つ目は、弁護士の指揮の下で動く働き方です。判断と依頼者への助言は弁護士の職務で(弁護士法第3条、第72条)、職員はその判断のための資料を整えます。財政課の「査定して決める」働き方との違いは、仕事量より、判断の主体でなくなることにあります。法務部でも、方針は法務部長が決め、職員は条項を組みます。処遇の話ではありませんが、働き方の実感として最も大きく変わるところです。

4つ目は、秘密の扱いです。法律事務所は依頼者の秘密を扱う仕事で、就業規則や誓約書で秘密保持の義務が定められます。財政課の方は地方公務員法第34条の秘密を守る義務に慣れていますが、法律事務所では、前職の秘密を持ち出さないことと、事務所の秘密を持ち出さないことの両方を、入所時に確かめられます。誓約書の内容は労働条件通知書とは別に示されるので、内容を読んでから署名してください。

労働条件通知書の読み方——確かめる順序

労働基準法第15条第1項により、会社は労働契約の締結に際して労働条件を明示する義務があり、明示事項は労働基準法施行規則第5条に列挙されています。オファーの段階で受け取る労働条件通知書は、この順で読んでください。

1. 契約期間(第1号)と就業場所・業務の変更の範囲(第1号の3)。——担当する案件が行政案件・公共案件に特定されているか、業務の変更の範囲に一般の民事や商取引が含まれるか、事務所が複数ある場合の就業場所の範囲。行政案件の枠で入ることを前提にしている場合、この範囲は交渉の対象です。

2. 始業・終業、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇(第2号)。期日前の時間外労働の見込みと、休日出勤の扱いを見ます。法務部では株主総会前の繁忙の扱いを確かめます。

3. 賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給(第3号)。——基本給と手当の内訳、資格や案件に関わる手当の有無、時間外の割増賃金の計算の仕方、支払時期。年俸制でも、法定時間を超えた労働には割増賃金の支払義務があります(労働基準法第37条)。

4. 退職に関する事項(第4号)、退職手当(第4号の2)、賞与・臨時の賃金(第5号)。第4号の2と第5号は「定めをする場合」の事項なので、書かれていなければ制度がない可能性があります。就業規則がある事務所・会社では見せてもらい、常時10人未満で就業規則がない事務所では、通知書に書かれた内容がすべてだと理解して確認してください。

「この条件は妥当か」は、業界のほかの求人と並べないと判断できません。同じ業務で複数の事務所・会社の条件を見比べたうえで、条件の読み方から相談できます。

社会保険と給付——切り替わるもの、新しく対象になるもの

年金と健康保険。地方公務員は地方公務員共済組合の組合員ですが、民間の適用事業所に雇用されると厚生年金保険の被保険者になり(厚生年金保険法第9条)、健康保険は事務所・会社が加入する協会けんぽか健康保険組合に切り替わります。企業の法務部と弁護士法人では、自分の年金と医療は共済から厚生年金と健康保険に切り替わります。前述のとおり、個人の弁護士の事務所で従業員が常時5人未満の場合は当然には適用事業所でないので、確かめてください。手続きは厚生年金に切り替える場合と保険料はどれが安いのか、の考え方に整理しています。

雇用保険。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外です(雇用保険法第6条第6号)。民間に移ると被保険者になり、育児休業給付金(同法第61条の7)など、公務員の間は対象外だった給付の対象になります。

退職手当。公務員の退職手当は条例で決まり、退職時に支給されて完結します(自己都合退職と定年退職で何が変わるか)。民間の退職金は「定めがある場合」の制度で、転職先に制度があるか、勤続何年から支給されるかを確かめる必要があります。公務員の退職手当と民間の退職金は通算されません。

掲載中の求人は、職種・雇用形態・勤務地・条件が一覧で見られます。事務所・会社ごとの条件を並べて比べるには、こちらが早いです。財政・会計の経験が効く求人を見てみる

まとめ

よくある質問

法律事務所は期日前の残業が多いと聞きました。財政課の予算編成期と比べてどうですか

形が違います。財政課の予算編成期の繁忙は自治体の内部の日程で決まり、時間外勤務は条例と規則の下で手当の対象でした。法律事務所の繁忙は、裁判長が指定する期日(民事訴訟法第93条第1項)から逆算した書面の締切で決まり、変更は顕著な事由がある場合に限られる(同条第3項)ので、事務所の側で動かせません。複数の案件の期日が重なると繁忙も重なります。時間外労働には労使協定が前提で(労働基準法第36条)、法定時間を超えた労働には割増賃金の支払義務があります(第37条)。「担当する案件の数と期日の分布」「時間外の割増の計算」を、面接と通知書で確かめてください。多い少ないは事務所と案件の構成によります。

個人の弁護士の事務所で、厚生年金には入っていないと言われました。問題ありませんか

法律上は、常時5人未満の従業員を使用する個人の弁護士の事務所は、当然には厚生年金の適用事業所ではありません(厚生年金保険法第6条第1項第1号レ)。その場合、年金は国民年金、医療は国民健康保険に自分で加入する形になり、共済からの切り替え先が厚生年金の場合と比べて、保険料の負担と将来の年金が変わります。問題があるかどうかではなく、自分の年金と医療がどの制度になるかを確かめたうえで、財政課に残った場合や、厚生年金の適用事業所である事務所・会社に入った場合と、同じ紙に並べて比べてください。事務所が任意で適用を受けているかどうかも、面接で聞いて構いません。

秘密保持の誓約書に署名を求められました。前職の自治体の情報についても書かれています。署名してよいですか

内容を読んでから判断してください。法律事務所と法務部が秘密保持の誓約を求めるのは、依頼者と会社の秘密を扱う仕事として通常のことで、財政課の方が地方公務員法第34条の秘密を守る義務を負っているのと同じ性質です。前職の情報について「持ち込まない」「事務所の業務に使わない」という内容であれば、地方公務員法第34条の義務と整合し、むしろ応募者を守る内容です。一方、退職後の競業や転職の制限が含まれている場合は、期間と範囲を確かめ、分からない点は署名の前に事務所に聞いてください。労働条件通知書(労働基準法第15条)とは別の書面なので、両方を読んで整合を確かめます。

出典

  1. 弁護士法 第3条(弁護士の職務)/第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)|e-Gov法令検索
  2. 民事訴訟法 第93条(期日の指定及び変更)|e-Gov法令検索
  3. 会社法 第296条(株主総会の招集)|e-Gov法令検索
  4. 地方公務員法 第24条(給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準)/第34条(秘密を守る義務)|e-Gov法令検索
  5. 地方自治法 第204条(給料、手当及び旅費)|e-Gov法令検索
  6. 労働基準法 第15条(労働条件の明示)/第36条(時間外及び休日の労働)/第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)/第39条(年次有給休暇)/第89条(就業規則の作成及び届出の義務)|e-Gov法令検索
  7. 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)|e-Gov法令検索
  8. 労働契約法 第16条(解雇)/第21条(適用除外)|e-Gov法令検索
  9. 雇用保険法 第6条(適用除外)/第61条の7(育児休業給付金)|e-Gov法令検索
  10. 厚生年金保険法 第6条(適用事業所)/第9条(被保険者)|e-Gov法令検索

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)

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