業界研究 / ゼネコン・建設
ゼネコン・建設の年収と働き方|公務員から移るとどう変わるか
ゼネコン・建設への転職を考える財政課の方から、「移ったら給与と働き方はどう変わるのか」という質問を受けます。先に断っておきます。この記事には、ゼネコン・建設業界の年収の相場やレンジは書いていません。会社の規模(大手、準大手、地域)と職種(現場か本社か、技術職か事務系か)で差が大きく、当社が裏を取った統計として示せる数字がないからです。求人ごとの条件は、掲載中の求人にそれぞれ書いてあります。
代わりにこの記事で整理するのは3つです。「公務員の処遇は法律と条例で決まり、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる」という仕組みの違い、ゼネコンに固有の働き方の構造(公共工事の年度周期と平準化、建設業の時間外の上限規制、現場と本社で違う働き方、転勤)を法律の側から読むこと、そして応募先の条件をどこで、どの順で確かめればよいかです。財政課の方は、給与条例と勤務時間条例の構造を知っているので、就業規則と労働条件通知書を同じ目で読めば、条件の確認は難しくありません。
業界の構造と職種ごとの評価はゼネコン・建設は公務員のどの経験を評価するかに、選考の流れは選考フローと面接で見られている観点に書いています。建設コンサルの働き方と共通する部分は建設コンサルタントの年収と働き方に書いており、この記事はゼネコンに固有の点に重心を置きます。
業界構造の要点——処遇に影響する事業の形
ゼネコンの事業は公共工事と民間工事の請負で、公共工事の比重は会社によって違います。処遇の観点で押さえておきたいのは、現場(施工管理)と本社・支店(営業、事務系)で働き方の設計が違い、処遇の体系も技術職と事務系で分かれていることがある点です。財政課の方が応募する官公庁営業や事務系の枠は本社・支店に配属されることが多いですが、現場の事務担当として配属される会社もあります。「技術職の処遇」「現場の働き方」ではなく「自分が入る枠の処遇と働き方」を確かめるのが出発点です。
公務員と民間で「決まり方」がどう違うか
| 項目 | 公務員(地方) | 民間(ゼネコンを含む) |
|---|---|---|
| 給与の決まり方 | 条例で定める(地方公務員法第24条第5項) | 就業規則と労働契約で定める。常時10人以上の会社は賃金の決定・計算・支払方法・昇給を就業規則に記載し届け出る義務(労働基準法第89条第2号) |
| 賞与 | 期末手当・勤勉手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項) | 「定めをする場合」の明示事項。制度がない会社もありうる(労働基準法施行規則第5条第5号)。受注と業績に連動する会社がある |
| 退職金 | 退職手当として条例で定める(地方自治法第204条第2〜3項) | 「定めをする場合」の記載事項。制度がない会社もありうる(労働基準法第89条第3号の2) |
| 時間外の扱い | 条例・規則で定める | 法定時間を超えた労働に割増賃金の支払義務(労働基準法第37条)。時間外労働は労使協定(第36条)の範囲内で、上限規制がある(後述) |
| 年次有給休暇 | 条例で定める | 雇入れから6か月継続勤務・8割以上出勤で10労働日、以後勤続に応じて加算(労働基準法第39条) |
| 身分の保障 | 分限処分の事由は法律で限定 | 解雇は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠くと無効(労働契約法第16条)。労働契約法は公務員には適用されない(同法第21条第1項) |
公務員の処遇は「法律と条例に必ず書いてある」のに対し、民間の処遇は「定めがあるかどうかから確かめる」項目(賞与、退職金)がある——財政課の方が条件を読み違えるのは、ほとんどがここです。決まり方の違いの詳細は、GovTech向けに書いた自治体向けSaaS・GovTechの年収と働き方と同じ構造です。
ゼネコンに固有の働き方——法律の側から読む
1つ目は、公共工事の年度周期と平準化。公共工事は発注者の会計年度に合わせて発注され、単年度の工事は年度内の完成が求められるので、年度末に工期の終わりが集中しやすい構造があります。公共工事の品質確保の促進に関する法律第7条第1項第10号は、発注者に対し、繰越明許費(地方自治法第213条)や債務負担行為(同法第214条)の活用による翌年度にわたる工期等の設定、発注の見通しの作成・公表その他の措置により実施時期の平準化を図ることを求め、同項第11号は、労働時間その他の労働条件が適正に確保されるよう適正な工期等を設定することを求めています。財政課の方は、この平準化の道具を予算の側で扱ってきました。転職先の働き方を確かめるとき、「主な発注者の平準化はどの程度進んでいるか」「受注工事のうち債務負担行為で複数年度になっている割合はどのくらいか」と聞けば、年度末の実態が具体的に分かります。
2つ目は、建設業の時間外の上限規制。労働基準法第36条の時間外労働の上限規制について、工作物の建設の事業には附則第139条第2項により令和6年3月31日までの猶予が設けられていましたが、その期間は終わり、現在の同条第1項の特例は災害時における復旧・復興の事業に限られています。つまり、一般の建設工事には他の産業と同じ上限規制が適用されます。面接で「上限規制への対応で、現場と本社の働き方がどう変わったか」を聞くと、その会社の実態が具体的に分かります。
3つ目は、現場と本社・支店で違う働き方。施工管理は現場に常駐し、工期に合わせた働き方になります。官公庁営業や事務系は本社・支店が中心ですが、現場の事務担当として配属される会社もあり、その場合は現場の周期に近い働き方になります。自分が入る枠が現場か本社・支店かを、労働条件通知書の就業場所と配属の説明で確かめてください。
4つ目は、転勤。大手・準大手のゼネコンは全国に支店があり、就業場所の変更の範囲(転勤)が広い契約になっていることが多いです。労働基準法施行規則第5条第1号の3により、就業場所と業務の「変更の範囲」は労働条件の明示事項なので、通知書に書かれている範囲を確かめ、地域を限定したい場合は交渉の対象にします。地域のゼネコンは範囲が限られることが多いです。
労働条件通知書の読み方——確かめる順序
労働基準法第15条第1項により、会社は労働契約の締結に際して労働条件を明示する義務があり、明示事項は労働基準法施行規則第5条に列挙されています。オファーの段階で受け取る労働条件通知書は、この順で読んでください。
1. 契約期間(第1号)と就業場所・業務の変更の範囲(第1号の3)。——転勤の範囲と、就業場所に「現場」が含まれるか、業務の変更の範囲に「民間工事の営業」や「現場の事務」が含まれるか。官公庁営業の枠で入ることを前提にしている場合、この範囲は交渉の対象です。
2. 始業・終業、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇(第2号)。「所定労働時間を超える労働の有無」が「有」なら、時間外が想定されている契約です。労使協定(第36条)の内容(上限の時間数)を見せてもらい、年度末の実態を面接で聞いておきます。
3. 賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給(第3号)。月給か年俸か。年俸制でも、法定時間を超えた労働には割増賃金の支払義務があります(労働基準法第37条)。賞与が受注や業績に連動する場合、固定と変動の割合を確かめます。
4. 退職に関する事項(第4号)、退職手当(第4号の2)、賞与・臨時の賃金(第5号)。第4号の2と第5号は「定めをする場合」の事項なので、書かれていなければ制度がない可能性があります。書かれていない場合は、就業規則を見せてもらい、制度の有無を確認してください。
条件の読み方や、どこまで交渉できるかは、一度話しながら整理したほうが早いことが多いです。どの経験に値が付くのかから相談できます。
社会保険と給付——切り替わるもの、新しく対象になるもの
年金と健康保険。地方公務員は地方公務員共済組合の組合員ですが、民間の適用事業所に雇用されると厚生年金保険の被保険者になり(厚生年金保険法第9条)、健康保険は会社が加入する協会けんぽか健康保険組合に切り替わります。手続きは厚生年金に切り替える場合と保険料はどれが安いのか、の考え方に整理しています。
雇用保険。地方公務員は、離職時に条例等で受ける給与の内容が求職者給付等を超える場合、雇用保険法の適用除外です(雇用保険法第6条第6号)。民間に移ると被保険者になり、育児休業給付金(同法第61条の7)など、公務員の間は対象外だった給付の対象になります。
退職手当。公務員の退職手当は条例で決まり、退職時に支給されて完結します(自己都合退職と定年退職で何が変わるか)。民間の退職金は「定めがある場合」の制度で、転職先に制度があるか、勤続何年から支給されるかを確かめる必要があります。公務員の退職手当と民間の退職金は通算されません。
掲載中の求人は、職種・雇用形態・勤務地・条件が一覧で見られます。会社ごとの条件を並べて比べるには、こちらが早いです。財政・会計の経験が効く求人を見てみる
まとめ
- この記事に業界の年収相場は書いていない。会社の規模と職種で差が大きく、裏を取った統計がないため。条件は掲載中の求人ごとに確かめる
- 公務員の処遇は法律と条例で決まり、民間の処遇は就業規則と労働契約で決まる。賞与・退職金は民間では「定めがある場合」の制度
- 公共工事は発注者の年度周期で年度末に工期の終わりが集中しやすい。品確法第7条第1項第10号・第11号が発注者に平準化と適正な工期を求めており、財政課の方はその道具(繰越明許費、債務負担行為)を知っている
- 建設業の時間外の上限規制の猶予(労働基準法附則第139条第2項)は令和6年3月31日で終わり、現在の特例は災害復旧・復興の事業に限られる。一般の建設工事には他の産業と同じ上限規制が適用される
- 現場と本社・支店で働き方が違う。自分が入る枠がどちらか、転勤の範囲(施行規則第5条第1号の3)を確かめる
- 民間に移ると厚生年金・健康保険・雇用保険に切り替わり、育児休業給付金など新しく対象になる給付がある
よくある質問
建設業は残業の上限規制が緩いと聞きました。今もそうですか
労働基準法附則第139条第2項により、工作物の建設の事業には時間外労働の上限規制の適用が令和6年3月31日まで猶予されていましたが、その期間は終わっています。現在の同条第1項の特例は、災害時における復旧・復興の事業に限られ、一般の建設工事には他の産業と同じ上限規制(第36条)が適用されます。面接では「上限規制への対応で、現場と本社の働き方がどう変わったか」「労使協定の上限の時間数」を聞き、労使協定の内容を見せてもらってください。
官公庁営業の枠で入っても、現場に配属されることはありますか
会社によります。官公庁営業や事務系は本社・支店が中心ですが、現場の事務担当として配属される会社もあり、その場合は現場の周期に近い働き方になります。労働基準法施行規則第5条第1号の3により、就業場所と業務の「変更の範囲」は労働条件の明示事項なので、通知書に「現場」が含まれるか、業務の変更の範囲に「現場の事務」が含まれるかを確かめてください。口頭で「基本は支店」と言われても、変更の範囲に現場が含まれていれば契約上は配属がありえます。
年度末は必ず忙しいのですか
公共工事は発注者の会計年度に合わせて発注され、単年度の工事は年度内の完成が求められるので、年度末に工期の終わりが集中しやすい構造はあります。ただし、公共工事の品質確保の促進に関する法律第7条第1項第10号は発注者に繰越明許費や債務負担行為の活用による平準化を求めており、平準化の進み方は発注者によって違います。面接では「繁忙期はいつですか」ではなく、「主な発注者の平準化の状況」「受注工事のうち複数年度契約の割合」を聞くと、その会社の年度末の実態が具体的に分かります。財政課の方なら、自治体の予算の周期を知っているので、この質問は具体的に組み立てられます。
出典
- 公共工事の品質確保の促進に関する法律 第3条(基本理念)/第7条(発注者等の責務)|e-Gov法令検索
- 地方公務員法 第24条(給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準)|e-Gov法令検索
- 地方自治法 第204条(給料、手当及び旅費)/第213条(繰越明許費)/第214条(債務負担行為)|e-Gov法令検索
- 労働基準法 第15条(労働条件の明示)/第36条(時間外及び休日の労働)/第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)/第39条(年次有給休暇)/第89条(就業規則の作成及び届出の義務)/附則第139条(工作物の建設の事業に関する特例)|e-Gov法令検索
- 労働基準法施行規則 第5条(労働条件の明示事項)|e-Gov法令検索
- 労働契約法 第16条(解雇)/第21条(適用除外)|e-Gov法令検索
- 雇用保険法 第6条(適用除外)/第61条の7(育児休業給付金)|e-Gov法令検索
- 厚生年金保険法 第9条(被保険者)|e-Gov法令検索