制度とお金 / 共済
共済貸付の残債はどうなるか
共済組合の貸付を使っている方にとって、退職で最も見えにくいお金の動きが、貸付の残債の扱いです。住宅の貸付で残債が大きい方ほど、退職手当の手取りに直接効きます。
貸付は、地方公務員等共済組合法第112条の福祉事業として、組合員に対して行われるものです。組合員でなくなれば、貸付の前提がなくなるので、退職時に残債をどうするかを決めることになります。
この記事では、共済貸付の残債が退職でどう扱われるか、確かめ方と資金計画への入れ方を整理します。貸付の種類、償還の方法、退職時の扱いは、組合の定款と貸付の規程で決まり、組合ごとに違います。この記事は枠組みで、自分の残債と扱いは、所属の共済組合に確かめてください。退職時の共済の手続きの全体は退職時の共済の手続きに書いています。
貸付の根拠——第112条の福祉事業
第112条第1項は、組合が組合員の福祉の増進のために行える事業を列挙しています。貸付に関わるのは次の号です。
| 号 | 事業 | 実務での名称 |
|---|---|---|
| 第2号 | 組合員の利用に供する財産の取得、管理又は貸付け | ── |
| 第3号 | 組合員の貯金の受入れ又はその運用 | 共済貯金 |
| 第4号 | 組合員の臨時の支出に対する貸付け | 普通貸付、住宅貸付、医療貸付、教育貸付、結婚貸付、災害貸付など |
第4号の「臨時の支出に対する貸付け」が、いわゆる共済貸付です。条文は「組合員の」と書いています。組合員であることが前提で、退職で組合員でなくなれば、貸付を続ける前提が失われます。退職時に残債をどう扱うかは、法律ではなく、組合の定款と貸付の規程で定められています。
退職時の扱い——3つの形
組合の規程によりますが、一般的には次の形です。
| 形 | 内容 | 退職手当への影響 |
|---|---|---|
| 退職手当からの一括償還 | 退職手当の支給時に、残債の全額を償還する。本人の申出に基づき、退職手当から差し引く形が多い | 手取りが残債の分だけ減る |
| 自己資金での一括償還 | 退職の日までに、残債を自己資金で償還する | なし(自己資金が減る) |
| 退職後の分割償還の継続 | 組合の規程で認められる場合に、退職後も分割で償還を続ける。認めていない組合、条件を付けている組合がある | なし(退職後の支出になる) |
最も多いのは1つ目です。退職手当は退職の後に支給されるので、その支給の際に残債を差し引いて精算する。本人にとっては、退職手当の振込額が、見込みより残債の分だけ少なくなります。
3つ目が使えるかどうかは、組合によって大きく違います。転職先で給与が続くことを前提に分割の継続を認める組合もあれば、退職時の一括償還を原則にしている組合もあります。残債が大きく、退職手当から差し引くと手元の資金が薄くなる方は、退職前に分割の継続の可否を確かめてください。
退職手当が残債に足りない場合
在職年数が短く、退職手当の額が残債より小さい場合があります。住宅の貸付を受けて数年で退職する方に起きます。この場合、退職手当の全額を償還に充てても残る分は、自己資金か、退職後の分割で償還することになります。
| 状況 | 起きること |
|---|---|
| 退職手当 ≧ 残債 | 退職手当から残債を差し引き、差額が手取り |
| 退職手当 < 残債 | 退職手当の全額が償還に充てられ、手取りはゼロ。不足分は別途償還 |
退職手当の見込額と残債を、退職前に並べることが、この記事で最も伝えたい点です。退職手当の見込額の出し方は退職手当の基本額の計算と自己都合退職の退職手当に、資金計画への入れ方は退職手当をあてにした資金計画の考え方に書いています。
残債の確かめ方
| 確かめること | 聞く先 | 補足 |
|---|---|---|
| 貸付の種類と残債の額 | 共済組合 | 償還の明細か、残高の証明。給与明細の控除額からは残債は分からない |
| 退職時の償還の方法(一括か、分割の継続が可能か) | 共済組合 | 規程による。分割の継続に条件があるか |
| 退職手当からの償還の手続き | 共済組合、自治体の共済の担当 | 申出の様式と時期 |
| 退職手当の見込額 | 自治体の人事・給与の担当課 | 退職日の見込みを伝えて照会 |
| 繰上げ償還の可否と手数料の有無 | 共済組合 | 退職前に自己資金で減らす場合 |
どれも、退職の意思を伝えなくても、制度の照会として聞けます。「退職した場合の扱いを知りたい」で足ります。
貸付と貯金の関係
共済貯金(第112条第1項第3号)がある方は、退職で払戻しになります。貯金の払戻金を貸付の償還に充てることで、退職手当からの差引きを減らせます。組合によっては、退職時に貯金と貸付を相殺する扱いを設けています。貯金と貸付の両方がある方は、退職時の精算を合わせて確かめてください。
任意継続組合員と貸付
任意継続組合員(第144条の2)は、短期給付と福祉事業について組合員とみなされます。福祉事業の利用が続くので、貸付の扱いに影響するかは、組合の規程によります。任意継続は最長2年で、短期給付を続けるための制度であり、貸付の分割償還を続けるために使うものではありません。貸付の残債を理由に任意継続を選ぶ前に、組合に扱いを確かめてください。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、共済貸付で効いてくる点は3つです。
1. 実際に手元に入る退職手当は、残債を引いた額
退職手当の見込額をそのまま資金計画に入れないでください。残債を引いた額が、空白の期間を支える資金です。
2. 転職先で借り換える道は限られる
共済貸付は組合員向けの低い金利であることが多く、転職先の勤務先に同じ制度があるとは限りません。住宅の貸付の残債が大きい場合、民間の住宅ローンへの借換えを検討することになり、審査には転職先での勤続が影響します。退職前に金融機関に相談しておくと、選択肢が見えます。
3. 退職手当が残債に足りないなら、退職の時期を考え直す余地がある
在職年数が延びれば退職手当は増え、残債は減ります。急いで辞める必要がないなら、退職手当と残債が釣り合う時期を計算するのは、合理的な判断です。転職の準備は在職中に進められます。
手続きと期限
| 順序 | 手続き | 時期 | 場所 |
|---|---|---|---|
| 退職を考え始めたら | 貸付の種類と残債の額を照会 | 最初に | 共済組合 |
| 同時に | 退職時の償還の方法(一括か分割の継続か)を照会 | 最初に | 共済組合 |
| 次に | 退職手当の見込額を照会し、残債を引いた額を出す | 退職日の見込みが立ったら | 自治体の人事・給与の担当課 |
| 退職前 | 貯金の払戻しを償還に充てるかを決める | 退職前 | 共済組合 |
| 退職前 | 住宅の貸付の残債が大きければ、借換えの相談 | 退職前 | 金融機関 |
| 退職時 | 退職手当からの償還の申出(一括の場合) | 組合と自治体の定める時期 | 共済組合・自治体の共済の担当 |
| 退職後 | 分割の継続の場合、退職後の償還の方法(口座振替など)を設定 | 組合の定め | 共済組合 |
誤解されやすい点
「退職しても、貸付はそのまま毎月返せばよい」と思い込む
貸付は組合員向けの事業で(第112条)、退職時の扱いは組合の規程によります。一括償還を原則にしている組合が多くあります。
「退職手当は見込額がそのまま振り込まれる」と思い込む
貸付の残債を退職手当から差し引く形が一般的で、振込額は残債の分だけ減ります。
「退職手当があれば残債は必ず返せる」と思い込む
在職年数が短いと、退職手当が残債に足りないことがあります。不足分は自己資金か退職後の償還です。
「任意継続にすれば貸付も続く」と思い込む
任意継続は短期給付を続けるための制度です(第144条の2)。貸付の扱いは組合の規程によります。
まとめ
- 共済貸付は、組合員の臨時の支出に対する貸付けとして組合が行う福祉事業です(地方公務員等共済組合法第112条第1項第4号)。組合員であることが前提で、退職時の扱いは組合の定款と規程で決まります
- 退職時の扱いは、退職手当からの一括償還、自己資金での一括償還、退職後の分割償還の継続の3つの形があり、最も多いのは退職手当からの一括償還です
- 退職手当の見込額 − 貸付の残債 = 実際に手元に入る額です。在職年数が短いと、退職手当が残債に足りないことがあります
- 残債の額と償還の方法は共済組合に、退職手当の見込額は自治体の人事・給与の担当課に、退職の意思を伝えずに照会できます
- 共済貯金の払戻金を償還に充てることで、退職手当からの差引きを減らせます
- 住宅の貸付の残債が大きい場合、民間の住宅ローンへの借換えを退職前に金融機関に相談しておくと選択肢が見えます
よくある質問
住宅の貸付の残債が退職手当より大きいです。どうなりますか
退職手当の全額が償還に充てられ、不足分は別途償還することになります。退職手当からの一括償還が組合の原則である場合、退職手当の振込額はゼロになり、残債から退職手当を引いた額について、自己資金での償還か、組合の規程で認められれば退職後の分割償還になります。この状況は、退職の時期を考え直す材料です。在職年数が延びれば退職手当は増え、毎月の償還で残債は減るので、両者が釣り合う時期を計算できます。転職の準備は在職中に進められるので、急いで辞める必要がないなら、退職手当と残債の見込みを年単位で並べてください。並行して、民間の住宅ローンへの借換えを金融機関に相談しておくと、退職後の償還の負担を月々の返済に変える道が見えます。借換えの審査には転職先での勤続が影響するので、入社前に相談を始めるのが現実的です。
貸付の残債を退職手当から差し引くのは、自動ですか
組合と自治体の扱いによりますが、本人の申出に基づく形が一般的です。退職手当は自治体が支給するもので、共済組合の貸付とは別の制度です。両者をつなぐのは、本人が「退職手当から償還する」旨を申し出る手続きで、退職時に自治体の共済の担当か共済組合から様式が案内されます。申出をしなければ退職手当が全額振り込まれ、残債は別途一括で償還を求められる形になる組合もあれば、申出を前提に案内している組合もあります。どちらにしても、残債の償還を免れる形はありません。退職手当の振込みの時期と、償還の期限の関係で資金が一時的に足りなくならないよう、退職時に「退職手当の支給日」と「償還の期限」の両方を確かめてください。
退職の1年前です。今から残債を減らしておくべきですか
繰上げ償還の可否と、自己資金の余裕によります。共済貸付は組合員向けの低い金利であることが多く、急いで返す経済的な理由は大きくありません。一方で、退職手当から一括で差し引かれると、退職後の資金の空白に直接効きます。判断の材料は3つです。第1に、共済組合に繰上げ償還ができるか、手数料はあるかを聞く。第2に、退職手当の見込額と残債を並べて、退職時に手元に残る額を出す。第3に、退職後の空白の期間に要る生活費と、その額を比べる。手元に残る額が空白の期間の生活費を下回るなら、今から自己資金で残債を減らすか、退職の時期を遅らせるか、退職後の分割の継続が使えるかを検討します。下回らないなら、無理に繰り上げる必要はありません。資金計画の考え方は退職手当をあてにした資金計画の考え方に書いています。