制度とお金 / 退職手当
退職手当をあてにした資金計画の考え方
「退職手当が入るから、しばらくは大丈夫」。転職を考える公務員の方から、この言葉をよく聞きます。
間違いではありません。ただ、その「しばらく」を数字にしている方は少ない。いつ入るのか、いくら引かれるのか、その前後に何が出ていくのか。この3つを確かめずに退職手当を生活費に組み込むと、入社までの数か月で、想定と違う形になります。
この記事では、退職手当を資金計画に入れる前に押さえるべき3つの制度と、資金の空白の数え方を整理します。個別の額や税は人によって違うので、ここでは一般的な扱いを書きます。自分の数字は、所属の人事の担当課、共済組合、税務署で確認してください。仕組みの全体は退職手当の仕組み|何で金額が決まるのかで扱っています。
押さえるべき制度1:失業給付がない
民間の会社員が退職すると、雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付)が、要件を満たせば支給されます。公務員には、これがありません。
雇用保険法第6条は、適用除外となる者を列挙し、その第6号で、国、都道府県、市町村その他これらに準ずるものの事業に雇用される者のうち、離職した場合に他の法令や条例などに基づいて受ける給与の内容が求職者給付・就職促進給付の内容を超えると認められるものを除外しています。退職手当があるから、雇用保険の対象外という構造です。詳しくは公務員に雇用保険がない理由に書いています。
資金計画への帰結は1つです。退職から入社までの生活費は、退職手当と貯えで賄う前提になります。民間から民間への転職で「失業給付を受けながら探す」という形は、公務員には使えません。転職先を決めてから辞めるか、決めずに辞めるかで、必要な貯えの桁が変わります。
押さえるべき制度2:支給日は自治体で幅がある
国家公務員退職手当法第2条の3第2項は、一般の退職手当を「職員が退職した日から起算して一月以内に支払わなければならない」と定めています。ただし、これは国の定めで、自治体の条例と実務は、退職の翌月から数か月後まで幅があります。一部事務組合に加入している自治体では、組合の周期になります。詳しくは支給日と受け取り方に書いています。
資金計画への帰結は、「入るまでの空白」です。退職手当が数か月後なら、その間は貯えで回すことになります。退職の意思を伝える前に、人事の担当課に「退職手当は退職後どのくらいで支給されますか」と制度の照会として聞いてください。
押さえるべき制度3:税は軽いが、住民税の請求は別に来る
退職手当は「退職所得」として、給与とは分離して課税されます。所得税法第30条第2項は、退職所得の金額を(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2と定め、控除額は勤続年数で決まります。給与の感覚で「2割引かれる」と見積もると、実際より大きく見積もることになります。「退職所得の受給に関する申告書」を出せば、控除を反映した額で源泉徴収され、住民税も支払い時に特別徴収されます。詳しくは退職所得控除と税金に書いています。
ただし、別に来るものがあります。退職した年の給与に対する住民税は、翌年に普通徴収で請求されます。給与から天引きされていた住民税が、退職後は自分で納める形になります。退職手当の税が軽いことと、給与の住民税が後から来ることは、別の話です。資金計画には、後者を入れておいてください。
出ていく側——退職から入社までに発生するもの
退職手当が入る側の話をしましたが、出ていく側も、在職中とは形が変わります。
| 項目 | 在職中 | 退職から入社まで |
|---|---|---|
| 健康保険 | 共済組合の掛金を給与から天引き | 任意継続か国民健康保険に切り替え。自分で納める |
| 年金 | 厚生年金の保険料を給与から天引き | 入社まで空白があれば国民年金。自分で納める |
| 住民税 | 給与から天引き | 退職した年の分が翌年に普通徴収で来る |
| 生活費 | 毎月の給与 | 退職手当と貯え |
健康保険と年金は、入社日が退職日の翌日でなければ、その間の分を自分で納めることになります。任意継続と国民健康保険のどちらが有利かは、収入と家族の構成で変わります。共済組合と市町村の窓口で、両方の見込みを聞いてください。この部分は個別性が高く、一般論では決められません。
資金の空白の数え方
ここまでの3つの制度と出ていく側を、1枚にまとめます。
- 退職日を置く
- 退職手当の支給日を人事の担当課に聞いて置く
- 転職先の初回の給与日を置く(月末締めの翌月払いなら、入社から1か月以上あく)
- 退職日から初回の給与日までを「収入の空白」として数える
- その期間に出ていくもの——生活費、健康保険、年金、翌年に来る住民税の準備——を並べる
- 退職手当と貯えで、5を賄えるかを見る
この6行で、資金の空白が何か月で、いくら要るかが分かります。退職手当が支給日の後に入るなら、その前の期間は貯えだけです。
転職するとどうなるか
転職を考えている方にとって、資金計画で効いてくる点は3つです。
1. 失業給付がない前提で、貯えの桁を決める
転職先を決めてから辞めるなら、空白は短い。決めずに辞めるなら、探す期間の生活費を全部、貯えと退職手当で賄うことになります。
2. 退職手当は「後から入る余裕資金」として置く
生活費に組み込まず、入ったら貯えに戻す。支給日のずれに強い形です。
3. 出ていく側を、在職中とは別の形で数える
健康保険、年金、住民税の普通徴収。在職中は天引きだったものが、自分で納める形に変わります。
手続きと期限
資金計画に関わる手続きは、退職の前後に集中します。
- 退職手当——「退職所得の受給に関する申告書」を支払いの前に提出。振込先の届出
- 健康保険——任意継続は退職後の期限内に共済組合へ申出。国民健康保険は市町村の窓口へ。期限を過ぎると任意継続を選べなくなることがあるので、退職前に共済組合で期限を確かめてください
- 年金——入社まで空白があれば、市町村の窓口で国民年金の手続き
- 住民税——退職した年の給与分の納付書が翌年に届く。金額は退職前の給与から見込めるので、先に取り分けておく
期限がある手続きは、健康保険の任意継続です。ここだけは、退職の前に期限を確かめてください。
誤解されやすい点
「退職手当があるから、しばらく探しながら考えられる」と思い込む
失業給付がないので、探す期間の生活費は全部、貯えと退職手当です。しばらくの長さを、月数と額で置いてください。
「退職の翌月には退職手当が入る」と思い込む
自治体の実務は翌月から数か月後まで幅があります。聞いてから計画を立ててください。
「退職手当の税が軽いから、他の税も軽い」と思い込む
退職した年の給与の住民税は、翌年に普通徴収で来ます。別の話です。
「健康保険と年金は、転職先で切り替わるから何もしなくてよい」と思い込む
入社日が退職日の翌日でなければ、その間の分を自分で納めます。任意継続の期限もあります。
まとめ
- 公務員には失業給付がありません(雇用保険法第6条第6号)。退職から入社までの生活費は、退職手当と貯えで賄う前提です
- 退職手当の支給日は、国の定めは退職の日から1か月以内(退職手当法第2条の3)ですが、自治体の実務は翌月から数か月後まで幅があります
- 退職手当の税は退職所得として軽い(所得税法第30条)一方、退職した年の給与の住民税は翌年に普通徴収で来ます
- 退職から入社までに、健康保険・年金・住民税が在職中とは別の形で出ていきます。任意継続には期限があります
- 退職日、退職手当の支給日、転職先の初回の給与日を並べて、収入の空白を数えてください
- 退職手当は「生活費」ではなく「後から入る余裕資金」として置くと、支給日のずれに強い計画になります
よくある質問
転職先を決めずに辞めても大丈夫ですか
資金の面では、探す期間の生活費を全部、貯えと退職手当で賄う前提になります。公務員には失業給付がないので(雇用保険法第6条第6号)、民間から民間への転職のように「基本手当を受けながら探す」形は使えません。探す期間が半年なら半年分、1年なら1年分の生活費と、健康保険・年金・住民税を、退職手当と貯えで持っている必要があります。退職手当の支給日が退職の数か月後なら、その前の期間は貯えだけです。「決めずに辞める」判断そのものは人によりますが、この前提を数字で置いてから決めてください。
退職手当を住宅ローンの繰上げ返済に使ってよいですか
個別の判断なので、ここでは一般的な考え方だけ書きます。退職手当を使う前に、上の6行——退職日、支給日、初回の給与日、収入の空白、出ていくもの、賄えるか——を書いて、入社後の初回の給与が入るまでの資金と、翌年に来る住民税の準備が、退職手当を使った後も残るかを確かめてください。残らないなら、繰上げ返済はその後にしたほうが安全です。また、転職先の初回の給与の額と時期は、内定の条件で確かめられます。退職手当を「後から入る余裕資金」として置き、入社後に資金の流れが安定してから使い道を決める、という順序が、一般的には崩れにくい形です。
健康保険は、任意継続と国民健康保険のどちらがよいですか
収入と家族の構成で変わるので、一般論では決められません。任意継続は共済組合の制度で、退職前の掛金を基礎に自分で全額を納める形です。国民健康保険は市町村の制度で、前年の所得と世帯の構成で保険料が決まります。扶養している家族がいるか、前年の所得がどのくらいか、入社までの期間が何か月かで、どちらが有利かが変わります。退職前に、共済組合と市町村の窓口の両方で、自分の場合の見込みを聞いてください。とくに任意継続は申出の期限があり、過ぎると選べなくなることがあるので、期限だけは先に確かめておいてください。制度の詳細は、共済の記事で順次扱います。